13.宝箱という名の人食い箱
「何とかうまくいったな」
「ふふん、わたしのおかげよね!」
「いや、9割がた俺の成果だろ」
魔法が効かないなら物理で押すしかない。
しかし、普通のゴーレムだと火力不足で殴ってる間に回復される……。
であれば、手のゴーレムを部屋の入口に配置して動きを封じたところに最大火力を叩き込む!
入口で足をつかみ損ねたら全てが終わる、タイミング勝負の一撃だった。
ちなみに岩の弾もゴーレムで作っており、岩に棘がいくつもついたものとなっていた。
まあ、ゴーレムの札が足りなかったのでフィーネに書いてもらったから、もう一割くらいは追加してもかもだけど。
「さて、こいつから魔力球を取り出すか……」
……どうやって?
頭がなくなり、動かなくなった巨大ミノタウロスを見て考える。
まあ、腹を掻っ捌いて取り出すしかないんだろうが……。
「ちょっと、ナイフが通らないわよこれ」
俺が考えている間に、フィーネは何のためらいもなく腹を掻っ捌こうとしていた。
ゴーレムの打撃にも耐えるのに普通のナイフなんかで切れるわけないだろう。
しかし、こいつには女の子らしさというものががないんだろうか……。
座り込んでナイフを突き立てる様は、まるで野性児のようだった。
「ほら、危ないから退いてろって」
「どうするの?」
問いかけてくるフィーネを横目に最後の札を使ってゴーレムを作り出す。
そしてゴーレムに戦斧を拾わせると、力を入れ過ぎないように慎重にミノタウロスの腹を切り開いていく。
……いつもは全力で殴ることが多いので、加減が難しい。
「でた!」
「――これが?」
開かれたミノタウロスの腹の中から、ごろんと音を立てて魔力球が落ちる。
大きさはボーリング球程だろうか、その水晶を思わせる球体は、しかし水晶ほどには透き通っておらず薄い濁りを見せていた。
「なんか、思ってたよりしょぼいな」
「じゃあ貰ってもいい?」
「ダメに決まってんだろ」
「ケチ!」
俺はフィーネから魔力球を取り上げると、荷物にしまい込む。
ともあれこれで後は帰るだけだ!
……魔法で一発で帰れればいいんだけどな。
理論上はテレポーテーションの魔法で帰れるはずなのだが、力加減が難しくて中々狙った場所に出ることができない。
電車で一駅の距離を飛行機で行こうとするようなものだろうか。
魔力が強すぎるのも考えものだよな……。
「さて、帰るか」
「ね、約束忘れてないでしょうね」
「約束?」
「魔力球貸してくれるっていうやつよ!」
「ああ、そのうちな」
「そのうちって、何分後?」
「お前な……」
しつこく魔力球をねだってくるフィーネをかわしながら、俺はダンジョンを出るべく歩き始めたのだった……。
◇◆◇◆◇
上機嫌に、実際に鼻歌を歌いながら横を歩くフィーネ。
その様子を見ながら、俺は疑問に思ったことを口にした。
「なあ」
「なによ」
「何でお前は魔力球を――」
しかし、その言葉は目を輝かせたフィーネの声によって遮られる。
その視線の先には、枝分かれした通路の先にぽつんとある宝箱。
「あ、ほら! 宝箱よ!」
「おい、ちょっと待――」
止める間もなくフィーネは駆け出すと、宝箱に手をかけた。
いや、だからそれは――
「きゃぁぁぁぁ!?」
フィーネが宝箱を開けるよりも早く宝箱は口を開き、その内側に生えた牙をむき出しにして襲い掛かってきた!
ガキッ!
宝箱はフィーネに噛みつこうとしたようだったが、割り込んできたゴーレムの腕に阻まれ硬い音を立てる。
ゴーレムは宝箱が噛みついた腕をそのまま壁に叩きつけて――間に挟まれた宝箱は、木くずと血をまき散らしながら地面へと落ちていったのだった。
「お前な、少しは学習とかしないのか?」
「だって宝箱よ!? 開けたくなるじゃない!」
いやまあ気持ちは分からなくはないが。
それにしても、通路にいきなり宝箱があったら怪しいにもほどがあるだろう。
本当に宝があったらゴブリンやミノタウロスが放っておかないと思うし。
「お前、もう絶対に余計なことするなよ」
「分かったわよ……」
この後、転がってきた岩を粉砕したり、やはり人食い箱だった宝箱を粉砕したりしながらダンジョンの出口へとたどり着いたのだった……。