12.魔法という名の物理
「よし、準備完了!」
「疲れた……」
満足げに言った俺の横で、フィーネが手を振りながら愚痴をこぼす。
仕掛けを施した部屋の入口には
部屋の中にはやや大ぶりのゴーレムが一体、しかし違うのは大きさだけではない。
そのゴーレムは、腕の先が異様に膨らんでいた。
それともう一つ、その前に置かれたものが――
「さて、一休みしたら分かってるよな?」
「嫌よ、絶対に嫌!」
「大丈夫だって、お前ならできる。俺が保証する!」
「じゃああんたがやりなさいよ!」
「いや死にたくないし」
「あんたねっ!?」
この期に及んでわがままな奴。
ちょっと囮になってあいつ――巨大ミノタウロスをここまで連れてきて欲しいってだけなのに。
こんなやり取りをする間にも、物理的な振動を伴う叫び声が低く通路から伝わってくる。
徐々に近づいてきている……。
「ほら、早くしないとあいつどっか行っちまうぞ」
「それならそれでいいじゃない!」
「お前な、通路なんかで遭遇したらどうするんだよ。まず間違いなく全滅だぞ?」
「そこですぐ死ぬよりはましよ!」
思ったよりも強固な抗議に、俺はため息をこぼす。
このカードはあまり使いたくなかったが、仕方ない……。
「分かった、上手くいったらたまに魔力球貸してやるよ」
「本当!?」
「ああ、それにもし死んでも生き返らせてやるから」
「いや、死ぬのは絶対嫌だけど……」
言って考え込むフィーネ。
その首が縦に振られるのに、さほど時間は掛からなかった……。
◇◆◇◆◇
「気を付けてなー」
「ちゃんと守ってよ、絶対だからね!」
「大丈夫だって。ちゃんと護衛を二体も付けただろ?」
護衛のゴーレムに挟まれて、フィーネは恐る恐る通路の奥へと進んでいく。
段々とその後ろ姿が小さくなっていき、見えなくなり――
「ふう」
上手くいくといいけどな……。
俺は部屋の入口を睨みながら、カバンを漁る。
ともあれ、今は待つしかない。
俺はカバンから取り出した革袋に口をつけると、同じく取り出したクッキーを口にほおばる。
砕けたクッキーが紅茶と混ざり、甘くて落ち着く味で口の中を満たしていく。
「大丈夫か、あいつ……」
ちゃんと生きて帰ってきてほしい。
失敗した場合、蘇生に行く手間とリスクが大きいし。
……待つこと数分。
「きゃーーーーっ!?」
「ブモォォォォォ!」
通路を伝わり聞こえてくる悲鳴と怒号。
そして何か硬いものが砕かれるような音と振動……。
「来たかっ――!」
立ち上がり、意識を部屋の入口へと集中させる。
少し間をおいて、二度目の破壊音。
そして――
「――っ!?」
通路から姿を現したのは、もはや声にならない声をあげてこちらに猛ダッシュするフィーネ。
そしてそのすぐ後ろを、その手にした戦斧で通路を削りながら追いかける巨大ミノタウロス!
フィーネは部屋に転がるように突っ込んでくると、勢いよく横へと跳んだ。
ミノタウロスもそれを追って部屋に入ろうとするが――
「ブモッ!?」
何かに足を取られ、その場に勢いよく倒れこむ!
さらにそこを地面から生えた岩の手が腕を、体を掴み離さない!
何とか振り払おうと暴れるミノタウロス。
その力に抗えずピシッという音を立てて手にひびが入る。
しかし――
「いっけぇぇぇぇ!」
俺の掛け声とともに腕のゴーレムが力強く一回転し――その重量に遠心力を載せて、目の前にある岩の弾を全力で打ち出した!
ミノタウロスはとっさにその手にした戦斧で迎え撃とうとするが、その腕は岩の手に抑えられていて動けない!
次の瞬間、岩の弾はその勢いと重量でミノタウロスの頭を撃ちぬくと、その勢いのまま後ろにいた普通のミノタウルスたちを粉砕しながら通路の奥へと消えていったのだった……。