3.モテという名の成果
――朝、爽やかな朝日が差し込む会場で、俺たちはむわっとした熱気に包まれていた。
「さて、諸君。これからモテテクニックを伝授していくわけだが、その前に――」
モテランゲはそこで言葉を切ると、控え室から二人の女性を教壇の前へと連れだしてきた。
「この女性とこの女性、どっちの方が告白を受け入れてくれそうかわかるか?」
左の方の女性は黒い髪をロングにして、白いワンピースを着た若干幼さの残る感じの美女だ。
右の方の女性は金髪ショートにタンクトップ、へそ出しズボンを活動的な印象の美女。
どちらも好みだが、どちらかといえば左の方が告白の成功率は高いんじゃないだろうか。なんか優しそうだし。
「右だと思うやつは手をあげろ」
ぱらぱらと手が上がる。
会場の2、3割くらいだろうか。
モテランゲはそれを確認すると、手を下すように指示を出して次の質問に移る
「左は?」
言われて手をあげる俺。
見渡すと会場の七割くらいは手をあげてるんじゃないだろうか。
やっぱり左か――。
予想が的中したことに満足しながら手を下す。
「正解は――わからない、だ!」
「はぁ!?」
「どういうことだよっ!」
会場が一斉にどよめく。
俺も例外ではなく、不信感のこもった視線をモテランゲに送った。
彼は勢いよく机を叩くと、
「いいか、見た目だけで告白してOKがもらえるかどうかなんてわかるわけがないんだ」
「でもドクター、それじゃテクニックじゃないじゃないですか!」
「いや、俺が言いたいのはだな――」
モテランゲはそこで言葉を切り、美女二人の間に入って肩に手を回す。
……なんて羨ましい。
「どんなタイプだって告白を受け入れてくれるかもしれないし、断られるかもしれない。人の気持ちなんてわからんからな」
「確かに……」
「だからこそ行動するのが大事なんだ! まずは告白しろ! 駄目だったら次に行けばいい!」
「おおっ!」
――って、告白しまくって全滅してる俺はどうすればいいんだ?
そんな俺の心を読んだかのように、モテランゲが言葉を続ける。
「もちろん、ちゃんとある程度関係を築く必要がある。そのためにもこの講座ではまず出会いを作る方法から入り、そこから関係を築いていくことを説明していくつもりだ」
「あの、ドクター……」
「なんだ」
「やっぱり見た目って大事でしょうか」
声のした方を見ると、そこにはモンスター……ではなく、豚のように肥え太った男が立っていた。
うん、お前はまず痩せろ。
話はそれからだ。
「お前はどう思うんだ」
「やっぱり……僕がモテないのは太ってるからだと……」
「違うな」
「え?」
「太っているのを理由に行動していないだけじゃないのか? お前は女性との出会いを求めて何か行動はしたのか?」
「それは……」
「だろう? もちろん、太っているよりは痩せている方がいいし、顔も悪いよりは良い方がいい。金だってないよりはあった方がいい」
「……ですよね。だから――」
「だが! 痩せていようと顔が良かろうと行動しなければ何も起きないんだ! 逆に言えば行動しさえすれば女性と出会うこともできるし、モテはしなくても恋を成就することだってできるかもしれない!」
「本当ですかっ!?」
「ああ。太っていることを言い訳にするのではなく、痩せていた方がいいかもしれない、程度に考えて行動する方がいいだろう。別に行動しながら痩せることだってできるわけだし、行動した方が経験を詰める分有利だしな」
「ドクター……!」
感動の涙を流す豚。
いや、お前は痩せたほうがいいだろ……健康的にも。
「よし、まずは配った教本の5ページ目を開いて」
「はい」
言われて俺は教本を開く。
……この本、何ページあるんだ?
下手な辞書より分厚いぞ?
「それでは最前列の君、読んでくれ」
「はい、まず出会いとは――」
ともあれ、こうして俺のモテモテ生活への第一歩が始まったのであった。
◇◆◇◆◇
――五日後。
パンを加えた女の子と傷つけずにぶつかる方法だの、女の子が降ってきた場合の受け止め方だの、実習を交えた講座もようやく終わりを迎えた。
会場には自信に満ちた男たちが奇麗に整列している。
そしてその前にはもちろん――
「諸君! よくこの一週間の講座を乗り越えた! これで君たちには男としての自信が、モテテクニックが身についたと思う」
「はい!」
「それでは最後に、これを渡そう」
「これは……」
前から順に回されてきたもの。それは――
「ネックレス?」
「そうだ。もしかすると最初は上手くいかないかもしれない。しかし! そんなときはこのネックレスを見て思い出してほしい。自分は魅力的な人間なんだと!」
「ドクター!!」
渡されたネックレスを見て、一週間前の光景を思い出す。
いかにも冴えない感じの男でさえ、あんな美人をものにできたのだ。
俺にできないはずがない――!
「さあ、これで講座は終了だ。各自、外へ出て自分の力を試したまえ!」
「はい!」
その言葉に、次々と出口へ駆けていく生徒たち。
もちろん俺も負けていられない。
これでようやく理想の嫁がこの手に……。
そう思って外へ出た瞬間!
「うおっ!?」
俺の手を包む柔らかい感触。
まるで俺を待ち構えていたかのように、可愛い子が俺の手を握りしめたのだった……。