61.放り投げという名の後始末
「ご主人様!」
「トッシー!」
受付で落ち着きなさそうに頬杖をついていたロッテとフィーネだったが、ダンジョンの入口から出てきた俺とハルを見て勢いよく立ち上がりこちらへ駆けてくる。
二人は俺とハルをまるで幽霊でも見るかのようにじっくりと見ていたが、俺の浮かべた笑顔を見て安心したのか疑問を口にした。
「やったの?」
「ああ、なんとかな」
「さすがご主人様!」
言うなりロッテが飛びついてくる。
フィーネも腰に手を当てて、笑みを隠しきれずにやけた表情を俺に向けている。
「まあ、あんたならやると思ってたわよ」
「最初は反対したくせに、どの口が言うんだ?」
「過去のことをほじくり返すとモテないわよ」
「ボクならいつでもおっけーですよー」
「あんた男じゃない……」
「女捨ててる人に言われたくないです」
「あんたねっ!?」
そんな言い合いを笑顔で見守るハル。
……まあ、こんなのも悪くはないのかな。
あとは結婚出来ればいうことないけど。
そんなことを考えながら俺がハルの頭に手を置くと、ハルが両方の手を頭の上の俺の手に重ねてくる。
ハルはそのまま俺の手をぎゅっと握りしめると、
「あの、ありがとうございました!」
「まあ俺のためでもあったしな」
ハルの問題が一番大きかったのは事実だが、実際に魔王側の人間だということを報告されると後々面倒だったし。
どちらにせよ勇者は倒さなければならなかったということには変わりがない。
にしてもまあ、勇者と事を構えるのはもう二度とやりたくないな……。
何とか倒したものの得られたものは何もないし。
――と、ハルは疲れたのだろうか、若干熱っぽい顔から笑みを消して真剣な表情で俺を見上げてくる。
小さいが力強く握られた手から、その熱が伝わってきた。
「わたし、その……」
「おう」
「わたし、ここを離れませんから」
「……そうか」
「駄目って言われても、ずっとここを離れませんから!」
「ああ、ありがとう。まあ、駄目っていうことはないけどな……」
それで思い出したが、一番の問題がまだ片付いていない。
ハルが気になっている人って……。
「なあ、ハル」
「はい」
「その、さっき言っていた気になる人って……」
「ねえトッシー、そういや勇者はどうなったの?」
小声で聞き出そうとしたところに、いきなりフィーネが割り込んでくる。
こいつ……お前こそこんな空気の読めなさだと一生モテねーぞ!
「お前な……」
「ああ、それボクも気になってました。どうなったんですか?」
「どうなった、ってもな」
ロッテまで会話に乗ってきて、もはや聞き出せる雰囲気ではない。
俺は軽くため息をつくと、つい数分前のことを思い出した。
ハルを先に大広間から出した俺は、勇者の扱いに困っていた。
巨大ゴーレムに殴りつぶされて潰れたかのように思えた勇者だったが、実は虫の息だがまだ生きていた。
とどめを刺すか、否か……。
人を殺したくない、というのも理由としてなくはないが、それよりも殺した時にどうなるのか分からないというのがためらった大きな理由だった。
こう、女神の祝福とかで生き返られたりしたら困るし。
あれだけ周到に準備してギリギリだったのに、生き返って不意打ちで復讐でもされた日には勝てる気がしない。
「まあ、死んではいないが……もう二度と俺たちの前に現れることもないだろうよ」
「そうですか、さすがご主人様ですね!」
「いまいち答えになってないけど……まあいいわ」
上機嫌なロッテに、いまいち納得していない様子のフィーネ。
そう、勇者は生きている。
……正確に言うと、完全に死んではいない。
ただ、ちょっと……というか、大部分が腐ってるけど。
復讐されない、かつ完全には殺さない。
そんな条件を満たす方法。
それは、死にかけの勇者をゾンビ化して遠くに飛ばすという解決策だった。
我ながらに中々えぐいとは思うが……まあ、相手が勇者だし仕方がない。
きっとこの世界のどこかでモンスターとして健康に過ごしていることだろう。
「で、これからどうするの?」
「今日――はもう遅いから、明日は軽くお祝いでもしようか」
「やった、今度こそご馳走ね!」
「ボク、朝一で買い出し行ってきますね」
「ああ、頼む」
なんだかんだで協力してくれたこいつらにも感謝しないとな。
疲れているのか、緊張の糸が切れたからなのか、みんな眠そうな顔をしていた。
おそらく俺も。
……フィーネは寝すぎだと思うけど。
「……ま、今日はとりあえず寝るか」
「ボクも一緒に寝ますよ」
「いや、それは要らない……」
俺はついて来ようとするロッテを追い払い、館の方へと歩き出す。
明日はとりあえず祝賀会。
そして、それが終わったら今度こそ……勇者に邪魔された俺の野望を思い出す。
そう、今度こそ……結婚相手を!
なんてったって勇者すら倒した俺だ、不可能はない!
「くくくっ、はーはっはっは!」
俺は高笑いをあげながら、バラ色の将来を夢見てベットへと入ったのだった。
第一部、完!
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