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不思議なダンジョンの造り方~勇者は敵で、魔王も敵で!?〜  作者: さわらび
1.結婚できないダンジョンマスターが勇者を倒すまで
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52.普通という名の幸せ

「グォォォォォォ……」


 勇者の一閃を受けて、ボスであるゴーレムが土くれへと還っていく。

 

「きゃー!!」

「さすが勇者様、お強いんですね!」

「あんな凶悪そうなゴーレムを一撃で……」

「いや、相手が弱かっただけのことですよ」


 三人の女に囲まれて謙遜する勇者。

 くそっ、本来はそのポジションは俺のものなのに……っ!!

 ダンジョン合コンの目玉である、ドキッ! ダンジョンで絆を深めようツアーは、しかし俺の勇者への憎しみを深めるだけのツアーと化していた。

 女の子に強いところを見せつけて、かつちょっぴり怖い思いなどもして良い仲になる……というのが狙いだったのだが、俺が呪文を唱えるよりも早く勇者の剣閃がモンスターをことごとく真っ二つに切り捨てていた。

 その度に勇者の周りで盛り上がる女たち。

 

「さあ、この勢いでさくっと行きましょう」

「「はい!」」


 もはや俺たち――といっても俺と村人Aの二人だけだが、は少し離れた場所をついて歩くだけになっていた。

 折れそうになる心を何とか奮い立たせて手にした札を握りしめる。

 次の階層からは少し難易度が上がるし、勇者一人ではさばききれない――かもしれない。

 そこで少しでもいいところを見せれば……あるいは勇者を後ろから全力で誤射するとか。

 そんなことを考えながら、下へと続く階段を下りていく。


「暑いねー……」

「そうですわね……」


 汗を垂らしながら愚痴をこぼすハム子に、狐さんが同意する。

 女性陣のその汗で服がぺったりと体に吸い付いている姿を見て、少し元気が湧いてきた。

 さらに汗でうっとうしくなったのか、狐さんがその黒い長髪をひもで結わえると、歩く度にちらり、ちらりと白いうなじが見え隠れする。

 昔、上司がうなじの良さを語っていたが――今になってようやく意味が分かった!

 うなじに限らず、こう、見えそうで見えないっていうのがなんともまた……。

 ――と、いきなり地面が盛り上がったかと思うと姿を現したサラマンダーが犬子に向かって襲い掛かる。

 やばい、上――というかうなじばかり見ていて気付くのが遅れたっ!?


「危ないっ!」

「きゃっ!?」


 素早く反応した村人Aが犬子をかばい、サラマンダーの爪をその背に受ける!

 サラマンダーはそのまま大きく口を開けて炎を吐こうとするが――させるかっ!


「アイスボルト!」


 声と共に出現した氷の弾がサラマンダーを一気に凍り付かせる。

 

「大丈夫ですか!?」

「ああ、大丈夫……」


 犬子の問いに、背中から血を流しながら答える村人A。

 その顔は苦痛で若干歪んではいたが、しかし何とか笑顔を浮かべていた。

 

「ヒーリング……」

 

 犬子が唱えると、その手にした札が燃え尽きるとともに村人Aの傷が癒えていく。

 村人Aの顔から苦痛が徐々に抜けていき、やがて二人は安心した表情で見つめあっていた。

 ……え?

 いや、ちょっと待ってほしい。

 何この良い雰囲気。

 

「あら、もしかして……」

「カップル成立?」


 ハム子と狐さんの茶化すような言葉に、顔を真っ赤にしながらうつむく二人。

 しかし、その口からは否定の言葉は出てこない。

 え、まじで?


「じゃあ、邪魔しても悪いし私たちは先に行きましょっ!」

「そうね」

「そうですね、それじゃまた後でお会いしましょう」


 勇者と女二人は、そう言い残すと勝手に先に進んでいってしまう。

 取り残された俺は、座ったままの村人Aを犬子を見る。

 あれ、さっきよりさらに距離近くなってない?

 うん……俺、邪魔だよね……。

 勇者たちを追うためか、あるいはこの場から離れるためか……自分でもどっちかわからないまま、俺は小走りで勇者たちの後を追ったのだった……。


◇◆◇◆◇


「それにしても何で勇者様がこんなイベントに参加されたんですかねぇ?」


 あの後、俺は勇者と横並びになると疑問に思ってたことを口にした。

 若干卑屈っぽいというか、嫌みっぽい言い方になっている気もするが、まあ仕方がないだろう。

 何せ一か月以上かけて準備したこの一大イベントを台無しにされたのだ。

 殺されないだけでもありがたいと思ってほしい。

 ……まあ、勇者を倒せるかという問題はあるけど。


「僕も男ですからね、やはり魅力的な女性には興味がありますよ」

「勇者様なら女性には困らないでしょう。わざわざこんな田舎まで聞いて、しかも勇者であることを隠してまで……」

「たしかに中央にいれば声をかけてくれる女性は大勢います。けど……」


 勇者はそこで一旦言葉を区切ると、軽く後ろを振りい向いて言葉を続ける。

 その表情に、一瞬冷たい印象を受けたのは気のせいだろうか。


「それは勇者に惚れているんであって、僕に惚れているんじゃない。僕は僕という人間に惚れてほしいんですよ。そう……ちゃんと僕を責めてくれる人じゃないと」


 勇者ではなく、自分という人間に惚れてほしいねぇ……だったらその立派な鎧や剣も置いてこいって話しだ。

 ついでに顔面を机の角にぶつけて、その整った顔を歪ませてから来てほしい。

 今の話を聞いて、若干気まずくなったのか言葉が少なくなるハム子と狐さん。

 よし、この雰囲気に乗じて何とか主導権を取り戻そう……!

 そろそろあそこに着くはずだし……。


「っと、ここは――?」


 扉をくぐった勇者が、目を丸くして歩みを止める。

 ここが最後の勝負所だ――。

 俺は勇者の背を押すと、浮かんできた笑顔を噛み殺しながら部屋の中へと入っていったのだった。





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