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不思議なダンジョンの造り方~勇者は敵で、魔王も敵で!?〜  作者: さわらび
1.結婚できないダンジョンマスターが勇者を倒すまで
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48.警備員という名の処刑人

 いつになったら俺は結婚できるんだろうか……。

 この世界にきて数か月たつのに、結婚どころか彼女すら――いや、そもそもまともな女の知り合いすらいないこの現状。

 しいて言うならハルだが……さすがに14歳はないな。

 映像の中で笑顔を浮かべるハルを見て思う。

 客が去った後、彼女は猫っぽい動作で伸びをするとぶるぶると頭を震わせた。

 時間は――よくわからないが深夜。

 そろそろダンジョンも人が減ってくる頃合いである。


「そろそろかな……」


 今までの経験上、強盗は深夜に起こることが多い。

 まあ、起きるときは一晩に何度も起きるけど起きないときは全然起きないからなー……。

 ここ一週間、夜に起きて監視しているがこういうときに限って中々起きない。

 暇つぶしにつけ始めたハルの観察日記がすでに30ページを超えていた。

 これで何も起きなかったら、ただの変態だよな俺……。

 そんなことを考えていると――来たっ!


「おお!?」


 映像の中でガラの悪い三人組がハルに向かって剣を向けるのが見える。

 瞬間、ハルは部屋の中から姿を消して――


◇◆◇◆◇


「なんだぁ!?」


 ハルに剣を突きつけていた男が驚きの声をあげる。

 同じく目を瞬かせてあたりを見渡す取り巻きの二人。


「……消えましたね」

「んなことは見ればわかるんだよ!」


 声を荒げる男に張り倒され、取り巻きの一人が地面に転がる。

 男は緊張した面持ちで部屋の中を探っていたが、自分たち以外は部屋にいないとわかると取り巻き立ちに指示を出した。


「おう、お前ら」

「へい!」

「さっさと詰め込んでずらかるぞ!」


 男は取り巻きたちが品物を、金を手当たり次第に詰め込んでいくのを眺めながらぶつぶつと考えを呟いていた。


「おい」

「へい」

「なんか妙だと思わねぇか?」

「何か……っていうと?」

「情報にあった店番のゴーレムは居ねぇ、女は消える……」

「はぁ……まあ、楽でいいじゃないすか」

「まあ、そうだけどな。折角これの出番があると思ったんだが……」


 残念そうに男は言うと、懐から取り出した袋を開いた。

 そこには袋の底に、黒い粉が少しだけ入っているのが見える。

 

「お頭、終わりやした!」

「おう、ずらかるぞ!」

「へい!」

 

 二人が荷物を持ったのを確認し、男はダンジョンから出るべく元来た道を引き返す。

 店の扉をくぐった瞬間、男たちは寒気を感じたように身を震わせてその歩みを止めた。


「……嫌な感じがする、急ぐぞ!」

「へ、へい」


 何かから逃げるように、足取りを早める男たち。

 しかし男たちを遮るように黒い霧が通路に立ち込める。


「ちっ、雑魚が……」


 男はいらだったように剣を抜くと、黒い霧から湧いてきたものに向かって振り下ろす!

 が――


「何っ!?」


 その剣は霧から出てきた鎌によって弾かれる!

 霧が晴れたその後に残されたのは――鎌を構えた一体の死神だった。

 

「お頭っ!!」

「下がってろ!」


 男は声をあげて取り巻きを制止すると、力に任せて死神を押し返した。

 相手が力負けして体制が崩したところを狙い、男は死神の腕を切り落とす!

 返す刃でもう片方の腕を切り下ろし――そのまま勢いを利用して剣を死神の頭に振り下ろした!

 

「ふんっ、なめやが――」

「イィィィィイイィイィィイィィ!?」

「うおっ!?」


 突然上がった奇声に驚いたのか、男は剣を取り落として耳をふさぐ。

 ――やがて死神が動きを止めると男は耳から手を離して剣を拾い、ついでに転がっている死神の死体を蹴り飛ばした。


「うっさいんだよ、こいつ!」

「さすがですねお頭!」

「まあな」

「さすが元騎士!」

「おい、余計なこと言ってないでさっさと――」


 歩き始めた足を地につけるのも忘れて、その動きを、言葉を止める男。

 その視線の先には先ほどと同じ黒い霧――。


「お頭、こっちもですぜ!」


 取り巻きの声に男が振り向くと、そこにはやはり通路を塞ぐように黒い霧が立ち込めていた。

 やがて黒い霧と共に魔法陣が消えると――


「来るぞっ!!」


 現れた死神が鎌を構えるよりも早く、男の一撃が死神の頭を貫く!

 男は剣を引き抜くともう一体の死神に切りかかろうとするが――

 

「イィィィィイイィイィィイィィ!?」

「ぐあっ!?」


 真横で上がった奇声に動きが止まったところを狙われて足を斬られる!

 続いて振り下ろされてきた鎌を何とか剣で弾くと、男は後ろに向かって声を張り上げた。


「おい、逃げるぞ! おい――」


 返事がない。

 後ろに下がって振り向くと、そこにはすでに動かなくなった取り巻きたちと、それを囲むように死神が三体。 


「そういうことかよ、くそっ……」


 前には死神が一体、後ろには三体。

 逃げるなら前だ――そう判断した男が駆け出すよりも早く、再び現れた黒い霧が通路の前を塞ぐ。


「おいおい、まじかよ……」


 後ろに三体、前に五体。

 死神たちはじわりじわりとその包囲を縮めていく。

 男は剣を放り投げると、懐から袋を取り出して呟いた。


「くそっ、何なんだよこいつら……」


 男は袋を開けて中身を振りまこうとしたが――それよりも早く、死神たちの鎌が男の体を貫いたのだった。


◇◆◇◆◇



「……終わったか?」


 映像の中で男の動きが止まるのを確認して、俺はようやく耳から手を離した。

 ……何度聞いてもあの叫び声は慣れないな。

 結局最後まで倒せなかったし。

 今でもたまに、追ってきた死神たちに囲まれる夢を見る……。


「まあ、これで店は大丈夫そうだな!」


 無理やり明るく口に出して思考を切り替える。

 強盗の損害などはあったものの、店の売り上げと入場料でそこそこのお金ができていた。

 これでようやく本来の目的に戻ることができる。

 そのためには……。

 俺は持ってきた紙を広げると、計画のための第一歩を刻み始めたのだった。

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