47.ホラーという名の吊り橋
「おー、騒いでる騒いでる」
映像の中で盛り上がる剣士たちを見て、俺は笑みを浮かべる。
あの巻物を作るのにどれだけ苦労したことか……。
ボスは今回はわざと少し弱めにして、さらにはドロップも固定と大判振る舞いな感じだった。
「まあ、初回くらいはなー」
気合を入れすぎると、前回みたいにあっさり全滅してしまうので加減が難しいんだよな。
まあ、少し様子見ながら調整していくか。
それにしても……他の映像を見ながら思う。
「羨ましい……」
何がって?
映像の中では男女混合のパーティが暗い通路を歩いていた。
女の冒険者は怖いからなのか男の冒険者にぴったりとくっついて離れない。
なんかもう、いっそ男の冒険者だけ皆殺しにしてやろうか…… 映像に向かって念を送る俺。
別にここからコントロールできるわけでもないが、そうでもしないと気が済まない。
死ねーモテる男は死ねー、むしろ殺す。
「……はぁ」
空しさを覚えてため息がこぼれる。
……なんだろうな、遊園地のお化け屋敷とかと同じなのかな。
恐怖体験が吊り橋効果で男女の仲を深める――みたいな。
ってことは俺も女の子と一緒にダンジョンに潜れば結婚までいけるのか?
まあ、その前に一緒に潜る女の子を見つけないといけないわけだが。
「あーあ、人間で常識があって可愛い女の子が降ってこないかなぁ……」
映像を見ながらぼやく俺。
映像の中では冒険者たちがいちゃついて――ふと。
その光景を見てふと思いつく。
これはもしかして使えるんじゃ……。
――しかし、考えがまとまり切る前に店の方で異変が起きていることに気づいて俺は声を上げた。
「なんだ、こいつ……」
店の中の様子が映し出されたその映像の中では、ぼろ布を纏った男がハルに向かって手を伸ばしていた。
瞬間、ハルが教えたとおりに仕掛けを利用して倉庫に逃げ込み――ゴーレムが男を軽く小突く。
これは警告だ。これを無視して店の物を勝手に持ち出したり、ハルに危害を加えようとするとゴーレムが戦闘モードに入る仕組みになっている。
男は背中から、その身なりとは不釣り合いな長剣を引き抜くとゴーレムに向かって振り下ろした。
「馬鹿なやつ……」
ゴーレムは大きさこそ小さいがそれなりに魔力が込められている。
並の冒険者では傷一つすらつけることができないだろう。
案の定、剣はゴーレムにあっさり弾かれて、逆に今度はゴーレムの打撃がぼろ布の男を襲う!
一発、二発……並の冒険者なら一撃で粉砕するその打撃を、男はしのぎ、耐えているようだった。
できればその高そうな剣が折れる前に死んでくれないかなーなどと思っていると、突如男の体が光を纏い始めた。
ゴーレムが打撃を加えるたびにその輝きは増していき――
「うおっ!?」
瞬間、映像が光で覆いつくされて、代わりに小さな振動が部屋を襲った。
やがて光が収まるとそこには男の姿はなく――無残に破壊されたゴーレムと、壁をえぐるような剣撃の後だけが残っていたのだった……。
「……まじでか」
思わずその光景に見入っていた俺だったが、何とか正気に戻ると止まっていた脳みそを再起動させる。
なんだあいつ。
冒険者ってあんなに強いやつらばっかりなのか?
結構魔力込めたし、かなり強力なゴーレムのはずだったんだが……。
今まで見た中だとあのぼろ布の男が例外な気がするが――とはいえ他にもああいうやつらが現れないとも限らない。
最低限ハルは仕掛けで身を隠せるが、商品の方はそうもいかない。
じゃあ商品や金も……と思うが、一緒に隠してしまうと無理に探す奴が現れてハルまで危険にさらしかねない。
とはいえゴーレムもあの大きさだとあの強さが限度だし……。
「もっとでかくする、数を増やす……いや、あれ以上場所取るのはなぁ……」
そもそも今のゴーレムですら結構邪魔になってたし。
なんかこう、場所も取らずに、犯罪を防いでかつ相手を後悔させるような良い方法がないものか……。
そんな都合のいい方法があるわけ――いや、あるか?
後悔というキーワードで、ふと脳裏をよぎるものがあった。
でも、あれはなぁ……。
いまいち気乗りはしないけど……まあ、試してみるか……。
若干トラウマになった光景を思い出しつつ、俺は地下室を後にしたのだった。