46.ボスという名の寄せ集め
「おう、遅かったな」
剣士たちが部屋に入ると、炎の巨人を一緒に倒した冒険者グループが床に座って声をかけてきた。
緊張した面持ちで部屋の奥を見つめる剣士。
その視線の奥には開かれた扉、そしてさらにその奥には巨大な闇が広がっていた。
「いくのか?」
「お前さんたちがいくんならな」
剣士の問いかけに冒険者たちは立ち上がりながら答える。
どうする――剣士の問いかける視線に、魔法使いとヒーラーは無言で頷いた。
「よし、いこう」
剣士たちを含めて7人の冒険者たちは次々と扉の奥に吸われるように部屋を後にする。
……扉が閉まる。
「さて、今度はどんなボスが相手なのかな」
「どんなお宝が出てくるかの間違いじゃないのか」
軽口をたたく冒険者たちを囲むように、黒い霧があたりを包み込む。
そして――やはり霧を割って出るようにゾンビが、スケルトンが、その姿を現した。
「これだけか?」
「油断するなよっ!」
言いながらも剣士が放つ剣がゾンビの首を飛ばす。
負けじと飛び交う稲妻が、炎がゾンビやスケルトンたちを土くれへと還していく。
徐々にその数を減らしていくゾンビたち。
――しかし、魔法使いの顔には喜びではなく不安が浮かんでいた。
「ねえ、なんかおかしくない?」
魔法使いが声をあげたのは、ちょうど最後の一体が首を飛ばされて地面に倒れるときだった。
「なにかって――」
誰かが言いかけた言葉は、しかし途中で部屋の中央に吸い込まれるように途切れた。
部屋の中央に突如黒い霧が、そして巨大な黒い魔法陣が浮かび上がる。
まるで引力を持つかのようなそれは、冒険者たちが倒したゾンビたちの死体を次々と吸い込み――
「くるぞっ!!」
霧を突き破って姿を現したのは、巨大な人型。
――しかし、それは巨人というよりは肉を、骨を無理やり人の形に押し込めたような物体だった。
「フレッシュゴーレム……っ!」
「任せろっ!」
巨人の一撃をヒーラーが盾で受け止める!
――が、
「くそっ、離しやがれっ!」
受け止めたゴーレムの拳から生えたゾンビの腕が、顔がその盾を奪おうと掴んで離さない。
そこへ反対の拳が襲い掛かり――しかし、割り込むように飛来した稲妻がゾンビの腕を、盾ごと吹き飛ばす!
自由になったヒーラーは転がるように身をかわすと、落ちていた盾を拾って構えなおした。
「ありがとなっ!」
「どーいたしましてっ!」
「で、どうするっ!?」
「どーするったって……」
距離を取りながら声をあげる冒険者たち。
巨人は見た目の動作こそゆっくりしていたが、実際は人が駆けるよりも早くその体を移動させていた。
――ついに冒険者の一人が追い付かれ、巨人の一撃をもろに食らってしまう!
「くそっ、足だ! まずは足を狙え!」
「りょーかいっ!」
ヒーラーの張り上げた声に、冒険者たちの攻撃が巨人の足へを集中する。
稲妻が、炎が巨人の足からゾンビを着実に焦がし、剥がしていく。
「うおおっ!」
掛け声とともに放たれた剣が、巨人の足を削りとる。
足を削がれ、バランスを崩した巨人に――
「もう一丁!」
剣士が、冒険者たちが続けてもう一撃を加えようとする。
しかし――
「なんだっ!?」
足から生えたゾンビの頭がいきなり膨れ上がったかと思うと――いきなり弾けた!
剣士はとっさに体を倒し、逆に巨人の足の方へ転がり込むことで何とか避けるが――
「あ…ぁぁ……」
爆発をまともに食らった冒険者の一人が、その武器を、体を溶かされて動かなくなった。
その様子を見て距離を取る剣士と入れ替わるように、稲妻が、炎が巨人の脚に飛来する!
「ライトニングランス!」
「ファイアランス!」
魔法使いと冒険者の一人が放った魔法が、巨人の足を炭化させ――ヒーラーの渾身の一撃が、その足を完全に砕いく!
重い地響きを立てて地に手をつく巨人。
その手が、頭が炭と化し、砕かれるまでにそれほど時間は掛からなかった――。
「なんとかなったな」
「まあな……」
苦い表情で元巨人だった炭を見下ろすヒーラーと剣士。
恐らく生き返るとはいえ、二人ほど死人が出ている。
そしてそれは自分だった可能性もあるのだ。
「ねえ、これ何かしら」
倒れた巨人の近くに落ちていた巻物を拾って魔法使いが声をあげる。
自然と集まる冒険者たち。
剣士は巻物を受け取ると、そこに書かれた文字を読み上げた。
「エンチャント・シャープネス?」
――と、巻物が光を放ち、その光が剣士の剣を包み込む!
巻物はやがて光を失うとがボロッと崩れ落ち――かわりに剣の柄にピシッと音を立てて青い線状の刻印が刻まれたのだった……。