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不思議なダンジョンの造り方~勇者は敵で、魔王も敵で!?〜  作者: さわらび
1.結婚できないダンジョンマスターが勇者を倒すまで
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43.石像という名の警備員


「いらっしゃいませー!」

「あら……?」

「むぐっ」


 壁に映し出された映像の中で、店の扉をくぐった女魔法使いが疑問の声を上げていた。

 急に止まったせいで、後ろから来ていた男剣士がその背中にぶつかって変な声を上げる。


「どうしたんだよ……」

「なんか……雰囲気違くない?」


 剣士の問いかけに部屋の中を見渡しながら答える魔法使い。

 魔法使いの言葉に、剣士も鼻をさすりながら首を左右に振って部屋の中を見渡していた。


「そうよ、壁が違うんだわ。前は通路と同じだったのに、壁紙が張ってあるじゃない!」

「ああ、そういえば……」


 そう、店の壁は前の無機質な感じではなく、淡い黄色の壁紙が張ってあって落ち着く感じになっていた。

 それ以外にも……


「それに前はなかった棚とか、机もなんか綺麗になってない?」

「言われてみれば、ハルちゃんの椅子もクッションが引いてあるな」

「そうなんですよー」


 気づいたことを次々と口にする魔法使いと剣士に、嬉しそうな笑顔を浮かべるハル。

 ちなみに壁紙、家具の他にも部屋の拡張や倉庫兼避難部屋の作成など、色々仕掛けを追加している。

 魔法使いはハルを後ろから軽くきゅっと抱くと、頬と頬をすり合わせながら言葉を続けた。


「でもどうしたの、これー」

「これはですねー、ト……」

「ト?」


 途中まで言いかけて、ハルは慌てて口をつぐむ。

 浮かれて俺の名前を言いかけたな、ハル……。

 まあ、ちゃんと約束を覚えてる当たり素晴らしいが。

 ……自分自身忘れがちだけど、建前的には俺と店は無関係。

 管理人だけどやってるのは受付と役人への報告だけだし。


「ト……ところで、その、ほら、あれですよ」

「あれ?」

「お姉さんとお兄さんは結婚とかしないんですか?」

「ばっ!?」


 いきなりの話題転換に、魔法使いは顔を真っ赤にして奇声を上げた。

 剣士も一瞬目を丸くしたが、すぐに気まずげにあらぬ方向を向いて沈黙する。

 魔法使いは顔を真っ赤にしたままバンバンとハルの背中を叩いて、

 

「こ、こんなやつと結婚なんてするわけないじゃない、やーねー!!」

「こっちだってお前みたいな乱暴女!」


 うおっ、やばいっ!?

 ハルが叩かれたことに反応してゴーレムが動き出した!

 俺が慌ててその動きを止めると、ゴーレムは再び所定の位置に戻り待機状態になる。

 普通のボディタッチと攻撃の判断が難しいな……まあ、様子見ながら調整していくか。

 このゴーレムはハルの護衛用に造ったものだが、改装された部屋に溶け込めずに似合わぬオブジェになっていた。

 いっそ値札でも貼ったら馴染めそうだが。

 まさかこんなもの買うやつもいないだろうし。

 ――そんなどうでもいいことを考えるうちにも、映像の中で話は進んでいく。


「ほらっ、行くわよ!」

「ちょ、買い物は……!?」


 勢いよく立ちあがった魔法使いは、剣士の手を握るとそのまま逃げるように店の外へと――つまり、ダンジョンの奥へと消えていった……。

 いやもう、本当になんで結婚しないんですかね、こいつら。

 熱々の二人とは対照的に、俺の心には寒風が吹きすさぶのだった……。


◇◆◇◆◇


 その後はぽつぽつと客が来るものの、特に変わったことはなく数時間が過ぎた。

 何をするでもなく店の様子を眺めるのも暇なもので、俺はいつしか浅い眠りに落ちていた。


 ――夢の中で俺は結婚していた。

 元いた世界の狭い部屋。

 朝の冷たい空気が、台所の方から流れてくる温かいみそ汁の香りで覆いつくされていく。

 そう、嫁は台所で朝食を作っている最中だった。

 後姿でもわかる、ボンキュッボンなナイスバディ。

 何故かその頭には猫耳が、お尻には尻尾が生えている。

 料理ができたのか、こっちを振り向いたその顔は――眼帯をした厳ついおっさん!?


「おら、金出せって言ってんだよ!」


 っは!?

 映像から響いてきた声にぱっと目が覚める。

 くそっ、折角の夢だったのに……。

 そんなことを思いながら映像を見ると、スキンヘッドのおっさんとその仲間二人がまさに強盗しようとしているところだった。


「うおっ!?」

「なんだぁ?」


 驚きの声をあげるごろつき達。

 それもそのはず、目の前からいきなりハルが姿を消したのだった。

 ……まあ、仕掛けを作動させて逃げただけだけど。

 ごろつき達は少しの間、カウンターの奥をのぞき込んだりしていたが、やがて肩をすくめると品物を袋に詰め始める。

 しかし――


「あん?」

「どうした?」

「いや、こいつがよ……」


 ゴーレムに小突かれて、下卑た笑いをあげながら武器を構えるスキンヘッド。

 それを見た他のごろつき達も武器を構えながらゴーレムを取り囲む。

 ゴーレムはごろつき達と同じかそれよりも小さいくらいの大きさで、取り囲まれると外からはほとんど見えなくなってしまった。


「この雑魚が、なんか文句でもあるのか――よっ!!」


 スキンヘッドがいい放つと同時に手にしたフレイル――鉄製のとげ付き棍棒を力任せにゴーレムに向かって振り下ろす!

 ――しかし部屋に響いたのは岩が砕ける音ではなく、金属が金属を弾くような音。

 反動で彼の手を離れたフレイルが、勢いよく壁にめり込んで鈍い音を立てた。


「なんだ、こいつ――!?」


 スキンヘッドが驚愕の表情を浮かべたのはその硬さゆえか、あるいはゴーレムが振り上げた腕を自分に向かって振り下ろすのを見たせいか――。

 ポカンと口を開けていた彼だったが、それはゴーレムの腕によって閉じられることとなった。

 そして――無理やり口を閉じさせられた頭は体と共に地面まで圧縮され、血をまき散らしながら地面と一体となったのだった。


「ひっ!?」

「くそっ、アイシクルランス!」

 

 ごろつきの一人が放った氷の槍が、ゴーレムを氷漬けにする。

 燃え尽きた札が、ちりちりと力の残滓を散らしながら地面に落ちていく。

 

「へっ、ざまぁみやが……」


 安堵の笑みを浮かべたごろつきだったが、その言葉はピシっという音によって中断された。

 その音が大きくなるにつれて、ごろつき達の顔に恐怖が浮かび上がってくる。


「う、嘘だろ……」


 ごろつきが上げたその言葉に答えるように、氷の呪縛から解き放たれたゴーレムが腕を横なぎに振るう!

 

「ぐべっ!?」

「ばっ!?」


 何かが砕けるような音と共に壁に叩きつけられる二人。

 一人は壁ともろに激突して紅い色を壁に彩ったが、もう一人はそれがクッションになったのか生きてはいるようだった。

 しかし――


「分かった、金か? 金だな、ほら!?」


 潰れてない方の手で財布を出し放り投げるが、しかしその男の上に黒い影が覆いかぶさる。

 そして――数瞬後、二人の男だったものは混ざり合い、奇妙な赤いオブジェと化していたのだった……。


◇◆◇◆◇


「グロっ!?」


 映像から目を逸らして何とか吐き気を堪える。

 ……まあ、これでハルの身の安全は確保できたかな。

 あのゴーレム、なりは小さくても込められた魔力はかなりのものだ。

 ぶっちゃけダンジョンの中で一番強いモンスターである。

 しかし――……ため息と共に言葉がこぼれる。


「これ、片付けるの誰がやるんだ……?」


 答えの分かり切った俺の問いかけに、映像の中のゴーレムの雄たけびだけが答えたのだった……。


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