36.墓地という名のパーティ会場
「ファイアボルト!」
魔法の札が燃え尽きると同時に、数体のゾンビが火球を受けて灰と化していく。
冒険者ギルドから歩くこと数時間、俺達は街の共同墓地に来ていた。
普段は静かなのだろう墓地も、今は溢れかえったアンデットと冒険者たちで賑わっている。
「しかしキリがないな、これ……」
「ですねぇ……」
「つかお前、なんでついてきたんだ? 別に帰ってよかったのに」
「そんなつれないこと言わないでくださいよー、お役に立ちますよ?」
「役に立つってもなぁ……」
「あ、信じていませんね?」
疑わしい目を向ける俺にロッテはそう言い返すと、ゴーレムに背負わせた籠を漁り始めた。
なんだ……?
疑問に思う間にもゾンビが、スケルトンがこちらに押し寄せてくる。
俺は迎え撃つために魔法を放とうとするが――
トサッ。
それよりも早く、近寄っていたゾンビの首が軽い音を立てて地面に転がった。
「どうです?」
自慢気な笑顔を俺に向けるロッテ。
その手には、ショーテルと言ったか――異様な弧を描く剣が握られていた。
ロッテは死神のように刃をゾンビの首に当てると、そのまま一気に引き抜いていく!
その度に一個、また一個とゾンビの体から首が落ちていった。
「おい、左!」
ゾンビに紛れて近寄っていたスケルトンが、構えた盾を前に、剣を上に振り上げる!
しかし、その剣が振り下ろされるよりも早く――ロッテの横殴りの剣撃が、まるで盾を避けるかのように突き刺さった。
そうか、あの剣の刃が曲がってるのは盾越しに相手を斬るためのものなのか……。
感心する間にも、体勢を崩したスケルトンの腕が、足が砕かれて地面に落ちていき……後には動かなくなった骨が残されるだけとなった。
「ね、役に立つでしょう?」
「まあな……ちょ、臭いからあんまこっち寄んな」
「ちょっとそれは酷くないですか!?」
ゾンビの返り血を押し付けようとしてくるロッテを避けながら、俺は辺りを見渡す。
一向に減る気配が見えないアンデットたちと、それを迎い打つ冒険者たち。
ギルドの補給所に近いからか、冒険者もあまりここを離れようとはしないようだった。
少し離れた場所ではヒーラーが浄化魔法でアンデットたちを灰に還しているのが見える。
「それにしても何なんだろうな」
「というと?」
「焼け石に水っていうか、アンデットの発生源を探して潰す必要があるんじゃねぇか?」
「んー、確かにそうですね」
「それにここだと人の目が多すぎて動きづらいし……」
わざと力を押えて魔法を撃つのも、中々にだるいものがあった。
力を抑えて撃っても魔法の札は燃えてなくなるから、なんか損した気分になるし。
本気で撃ちたい気持ちを抑えて、俺は新しい札を取り出した。
そう、確かに本気で魔法を撃てばこの辺を一掃するのも簡単だろうが――さすがに人目が多すぎる。
別に冒険者として大成したいわけでもないし、逆に目立って魔族側の人間だとばれる方が怖かった。
「なあ、アンデットってあっちの方から来てるよな」
「そうですね」
「ていうことは、あっちの方にいけば何か原因がわかるんじゃないのか?」
「そうですね……なんか単純な気もしますけど」
「いいんだよ、人生単純なくらいで」
今、俺たちが居るのは墓地の入口の辺り。
一方、ゾンビは墓地の奥の方から湧いているようだった。
だったら墓地の奥にいけば発生源を探れるのではないか……。
例えば悪の魔法使いが召喚しまくってるとか、魔界とのゲートが開いてるとか。
昔読んだ漫画を思い浮かべながら奥の方を眺める。
――と、
「あれ?」
「どうしました?」
「なんか、あっちの方に誰か歩いていってないか?」
「あ、本当ですね」
暗くてよく見えないが、目を凝らすと一人の人影が墓地の奥へと歩いていくのが見えた。
人影は少しの間だけ月に照らされていたが、すぐに闇に隠れて見えなくなってしまう。
「気になりますね」
「だな……、いってみるか」
どちらにせよ奥にいくことには変わりがない。
俺はロッテの言葉に頷くと、人影を追って墓地の奥へを歩き始めたのだった……。