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不思議なダンジョンの造り方~勇者は敵で、魔王も敵で!?〜  作者: さわらび
1.結婚できないダンジョンマスターが勇者を倒すまで
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32.捨て猫という名の拾い物

「ハルちゃん……?」

「あなたは……」


 路地裏の奥、ゴミ箱の中からその泣き声は聞こえていた。

 俺の声に答えて、汚れた猫耳がぴょこんとゴミ箱のふちから覗く。


「……何してるんだ?」


 ゴミ箱を上から覗いて問いかける。

 箱の中には、猫耳の少女が膝を抱えてうなだれていた。


「いいんです、放っておいてください。どうせ私なんか……」

「いや、そういうわけにもいかないだろ……」


 文字通り捨て猫のような姿になったハルを、俺は無理やりゴミ箱から引っ張り出す。

 彼女は引っ張り出された後も立ち上がらず、冷たい石畳にしゃがみこんだまま下を向いていた。


「話は聞いている。ってもさわり程度だけどな」

「そうですか……、だったら放っておいてください。私なんてゴミ箱で朽ち果てるのがお似合いなんです……」


 言って再びゴミ箱に戻ろうとするハル。

 俺は彼女の腕を掴むと、無理やり振り向かせた。


「なんですか、私がどうなろうとヤマダ様には関係ないでしょう」

「関係なくなんかないさ」

「……どういうことですか」

「君は強い人が好きだって言ってただろ?」

「……それが、何の関係があるんです?」

「俺は強いからな。困ってる人を助けるのが強い人ってもんだろう。それに――」


 俺はハルの目を見て少し間を置いた。

 これを言うのは恥ずかしいが……ためらってる場合でもないか。


「それに、俺は君の笑顔が好きだからな。それが見えなくなるのは嫌だ」

「なんですか、それ……一度会っただけなのに、なん、なんですか……」


 彼女の表情が一気に崩れる。

 しかし、表情が崩れきれる前に――ハルは俺の胸に顔を押し付けてきた。

 振り続ける冷たい雨とは違う、温かい液体が俺の服を濡らしていった。

 冷え切った空気、しかし俺に縋りつく少女の体はまるで春のような温かさだった……。


◇◆◇◆◇


「実はですね……」


 雨宿りに入ったカフェの中で、ハルはぽつりぽつりと語り始めた。

 少女の汚れた姿も相まって、周りの視線が痛い……。


「勇者様の転送の設定に失敗して、ちょっとその……」

「ちょっと?」

「王都に転送するはずが、魔王軍幹部の城のど真ん中に転送されちゃって」

「それは……」


 確かに勇者もびっくりだろう。

 回復&セーブポイントに行こうとしたらいきなりボス戦が始まったようなものだ。

 俺の反応を見て、ハルは慌てて言葉を重ねてくる。


「で、でもですね。勇者様は無事ご帰還されたんですよ!」

「ならいいじゃないか、何が問題だったんだ?」

「その、ご帰還されたんですけど、なんかちょっともげかけてて……」

「いやそれ無事じゃないし」

「しかも時限式の爆破の魔法を受けてたらしく、冒険者ギルドに戻ってきた途端に爆発して……」

「おい……」


 言われて階段の奥が焦げてたのを思い出す。

 転送陣のある部屋からそこそこ離れてるのに焦げてるってことは、結構ヤバい爆発だったんじゃ……。


「幸い死者は出なかったですし、勇者様以外はそんなに重症でもなかったので回復魔法ですぐ回復しましたし」

「で、その勇者は?」

「……ちょっと重症だったみたいで、大司教様のいらっしゃる王都へ運ばれて行きました……。転送陣は壊れたので、馬で」

「……ちなみに、その勇者ってあいつか?」

「いえ、別の男の勇者様です」


 死にかけた勇者が千歳じゃないと知って、少しほっとする。

 しかし、半死の状態で爆発食らって生きてるとか……さすが勇者といったところだろうか。

 まあ、運が悪かったというかなんというか……。

 死刑にならなかっただけ運がよかったのかもしれない。


「で、なんでまたあんなところに?」

「最初は他の仕事を探していたんですけど、どこも雇ってくれなくて……着の身着のままで寮から追い出されたから泊まれる場所もなくって……」


 まあ、そんなことがあれば雇ってくれるところもないだろう。

 冒険者ギルドが仕事の募集とかもやってるみたいだったし。

 しかし……なんでよりにもよってゴミ箱になんか入ってたんだ?

 いや、なんか捨て猫みたいで無駄に似合ってはいたけども。

 そんなことを考えていると、ハルが席を立って出口の方へと歩き始めた。


「お、おい」

「すみません、聞いてくれてありがとうございました」

「これからどうするんだ? 行く当てはあるのか?」

「それは……まあ、何とかなりますよ」


 そういって笑顔を浮かべたハルは、しかしそのまま消えてしまいそうなほど儚かった。

 俺は思わず立ち上がると彼女の手を掴み、こう言った。


「よかったらうちに来ないか? どうせ部屋も余ってるし……」

「でも……お金もないですし……」

「だったらちょっと働いてみないか? ちょうど人を探してたんだ」

「仕事、ですか……」


 俺の言葉に考え込むハル。

 彼女は少しの間悩んでいたようだったが、やがてその表情を笑顔に変えてこう言った。


「はい――!」

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