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不思議なダンジョンの造り方~勇者は敵で、魔王も敵で!?〜  作者: さわらび
0.結婚できない男がダンジョンマスターになるまで
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4.妹という名の女王様

「よし!」

「よし! じゃないぃぃぃい!? 兄さん! ちょっとしっかりして! 兄さんー!!」

「うぉ!?」


 いつの間に現れたのか、そこには動かなくなった魔神を抱えて叫ぶ女が一人。

 兄さんということは、魔神レッドアイとやらの妹なんだろう。

 兄とは違い、見た目がかなり人間に近い。

 しかも結構美人だ。

 妹……女……。

 これはチャンス!


「くくく、貴様!」

「な、何?」


 やはり物々しい恰好をした妹は、俺の声におびえたようにこちらを見上げた。

 もはやどちらが魔神か分からないが、目的のためなら魔神でも魔王でもなってやる。

 俺にはその覚悟がある。


「兄を、その男を助けたいか?」

「もちろん! 兄さんを助けるためならなんでもします!」

「ならば……俺と結婚しろ!」

「やです」

「即答!?」


 女は答えると同時に抱えていた兄の亡骸をどうでもよさそうに投げ捨てると、そのまま勢いよく蹴り飛ばす。

 遺体は勢いよく地面を滑っていき――赤い線だけを残してどこかへと消えていった。


「えー……」

「大体前からうざかったんですよね。ちょっと先に生まれたからって兄貴面して。私のほうが優秀なのに、こいつがいるせいで上に行けないし。兄より優れた妹などいないとか、馬鹿じゃないの?」

「そう……ですか」

「そ。で、あんた」

「はい」


 なんだろう、一瞬で立場が逆転してしまった……。

 まるで生ごみでも見るような冷たい視線が突き刺さる。

 女に手を上げる趣味はないし、上げたところで敵う気もしない。

 ああ……せめて地獄に行く前に結婚したかった……。

 地獄にも女の子っているのかな……。


「ちょっと、何うなだれてるのよ」

「はい?」

「あいつから何も聞いてないの?」

「ああ……まだ名前しか聞いてない……です」

「ったく、役に立たないんだからあいつは。あんたは死んだ。ここまではいい?」

「はい」

「で、今度はこっちの世界で魔族の一員として勇者たちと戦ってもらうってわけ」

「はい……って、はい?」

「察しが悪いわね。背景としてはこうよ。昔、神と魔神が戦っていた。その戦いは長く続き、世界は崩壊の危機にあった。そこで神と魔神はある約束をしたのよ」

「約束?」

「そう、神や魔神の力は世界を壊しかねないほど強すぎる。そこで私たちは世界に力を振るわないっていう約束をしたのよ。それなのにあいつらは……」


 彼女はよほど悔しいのか、ぎりぎりと歯ぎしりをして俺の胸ぐらを掴んでくる!?

 っておい、またか!


「だっておかしいでしょ! 異世界で死んだ人を召喚して、神の力を分け与えてこっちの世界にリリースするなんて! 自分は直接手を下してないからオッケーとか、馬鹿じゃないの!?」

「……は?」

「おかげで優勢だった魔族の勢力は今では拮抗状態。 このまま勇者が増え続ければこっちの負けは明らかよ!」

「はぁ……」

「で、あんたの出番っていうわけ」

「俺の?」


 異世界から増え続ける勇者、負ける魔族。

 そして異世界から魔族側に召喚された俺……。

 つまり、そういうことか!


「そう、神に対抗してこっち側も異世界から戦力を召喚しようってわけ。

 で、あんたがその第一号」

「おお!」


 第一号、素晴らしい響きだ。

 なんかこう、特別な力が貰えそうな感じがする!

 なんだろう、何がいいかな。

 いや、俺が欲しい能力は既に決まっている。

 目を輝かせる俺に、しかし魔神妹は相変わらず冷めた目線を投げつける。


「俺が欲しい能力は……」

「あー無理無理」

「え?」

「だって、神の召喚システムに便乗してるだけだし。勇者の召喚に便乗してあんたを召喚しただけだから、細かい設定の仕方とか知らないのよねー」

「そんな無責任な!」

「ま、恨むならあんた自身の甲斐性のなさを恨みなさいよ」

「どういうことだ?」

「言ったでしょ、勇者の召喚に便乗したって。つまり、同じ場所、同じタイミングであんたの他に死んだ奴がいたってわけ。で、神はもう一人のほうを選んだ……。どういうことかわかるでしょ?」

「……つまり、俺はハズレってことか?」


 なんで結婚できないだけで死体に鞭打たれるようなこと言われなきゃいけないんだろう。

 しかも死んでまで結婚拒否られてるし。

 なんだろう、死ねってことか?

 いや、もう死んでるか……あはは、どうしろと。


「ハズレっていうか、カスね。人間の役に立つところを搾り取った後の搾りカスみたいなもんよ。あんたみたいなのが私と結婚なんて……っぷ」

「そこまでいうか!?」

「まー、兄さんが力の一部を与えてるみたいだし。適当に新しい人生楽しめばいいんじゃない?」

「力? どんな力なんだ? 結婚できるとか!?」

「いや、結婚は無理だと思うけど。ていうか力与えたの兄さんだからどんな力か知らないし」

「この役立たずが!」

「あん? 何か言った?」

「いえ、お兄様のことです」

「ならいいけど。っと、そろそろ時間ね」

「時間?」


気づくと俺の足元に暗く輝く魔法陣が現れていた。

その光の強さと反比例するように、俺の体が薄くなっていく!?


「ちょ、これは……?」

「じゃーねー、まあもう会うこともないだろうけど」

「ちょっと、まっ……!?」


まだ異世界のこと何にも聞いてない!

魔族って?

適当に生きろって、俺は向こうの世界でどうすりゃいいんだ!?

結婚できるのか!?


様々な疑問が浮かんでは消える。

しかし問いかける間もなく俺の視界は再び闇に落ちた。

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