26.ツンデレという名の常連
「グォォォォォォ……」
ズシン、と大きな音を立ててゴーレムが土くれに還っていく。
その後を追うように、カランとおたま――普通の料理道具のあれ、が音を立てて落ちた。
ガララ……と音を立てて部屋の扉が開いていく。
「スカか……」
「中々でないわねー」
ヒュンヒュンとおたまを振る剣士に、魔法使いが同意する。
部屋にいる他の男たちも報酬が普通のおたまだったことを知るとつまらなそうに入口に引き返そうとしていた。
しかし、彼らが部屋を出る前に、おたまを見ていた魔法使いが何かに気づいたように声を上げる。
「あれ?」
「どうした?」
「あれ……あんなの前からあったっけ?」
そういって彼女が指さした先には、確かに今まではなかった小さな部屋。
その部屋の中ではさらに下へと続く階段が大きく口を開けていた。
「なんだありゃ……」
「行ってみる?」
言いながら、既に魔法使いは歩き始めている。
その様子を見て、慌てて剣士が後を追いかけていく。
他の男たちも顔を見合わせるとその後へと続いていったのだった……。
◇◆◇◆◇
「なんか……熱くない?」
「たしかに……それになんか不気味だな」
汗を拭きながら二人は通路を進んでいく。
通路は一階が人工的な造りだったのに対して、二階は壁や地面が砂や岩でできていた。
その広い通路は、足元の砂か、あるいは壁か、通路自体が熱を放っているように熱かった。
二人が歩くその跡を追いかけるように砂が盛り上がっていく。
「ねえ、なにか感じない?」
「何かって……うぉぁ!?」
ドバァッ!
二人の後ろで砂が音を立ててはじけ飛ぶ!
振り返った二人の視界は吹き上げた炎の赤で埋め尽くされていた。
「なんだこれ!?」
「ちょっと!?」
慌てて距離を取る二人。
そんな二人を追いかけるように、炎を割って一匹のトカゲが飛び出してくる!
「サラマンダー!?」
噛みついてきたサラマンダーを剣士が咄嗟に剣で受け止める。
その大きさはあまり大きくなく、人の子供と同じくらいの長さだろうか。
剣士はそのまま勢いよく剣を振ると、振りほどかれたそいつは宙を舞って地面に着地した。
そこへ――
「ライトニングボルト!」
魔法使いの魔法が突き刺さった!
直撃を食らったサラマンダーは、痙攣しながら地面を転がりまわる。
「やったの……?」
しかし、魔法使いの言葉に答えるようにサラマンダーは体勢を立て直すと、大きく息を吸い込んだ。
そしてそのまま彼女に向かって炎を吐き出そうとするが――
「おらっ!」
炎が吐き出されるよりも早く、その頭に剣が突き刺さる!
傷口から漏れた炎が周囲を赤く照らし――しかし炎を吐き出すこともなく、サラマンダーはそのまま動かなくなった。
「あ、ありがと……」
「なに、お前に傷をつけるわけにはいかないからな」
魔法使いの言葉に、剣士は軽く彼女の肩を叩いて答えた。
魔法使いの顔が赤く染まっているのは熱いからだろうか、それとも……。
◇◆◇◆◇
「あーもー、なんなんだよこいつら!」
暗い部屋で一人、転げまわりながら俺は叫んだ。
なんなんだよこいつら、ツンデレかよ!
もう結婚しちまえよ!
いや、実際に結婚してるのかもしれないけど。
この剣士と魔法使いの二人、彼らはダンジョンが始まってからすっかり常連になっていた。
最初のお宝が忘れられないのかもしれない。
「しかしまあ、ちょうどいい強さみたいだな」
俺は壁に映った映像を見て呟いた。
あのトカゲ――サラマンダーというらしい、は今回ダンジョンを拡張するにあたって用意した新モンスターだ。
フィーネ曰く、全く知らないモンスターは召喚できないとのこと。
であればと、召喚できるモンスターを増やすべく倒したモンスターを研究用に持って帰ってきたのだった。
ちなみに今回はわざと弱めの個体を召喚するようにしている。
自分たちが戦ったサラマンダーは今のよりも倍以上大きかったが、それだと強すぎる気がしたからだ。
まあ、それでも結構苦戦してるようだったが、とりあえず死人が出なければいい。
さすがに危ないと思ったのか、二人は他のパーティと合流し、計七人で慎重に先へを進んでいた。
映像の中で、火を吐く鳥――ヒクイドリが、氷の魔法を受けて地に落ちるのが見える。
慣れてきたのか、小型のサラマンダーが地面から現れると同時に複数の剣撃を浴びせる冒険者たち。
――まあ、さすがに七人もいればこんなもんか。
数の暴力で負けていくモンスターを見ながら考える。
人数によって沸くモンスターの数を変える、とかできればいいんだけどな……。
そんなことを考える間にも、彼らはさらに下の階へと歩みを進めていたのだった。