25.勝利という名の甘味
「ただいま」
「あ、おかえりなさい!」
ダンジョンに戻ると、受付で座っていたロッテが出迎えてくれた。
机の上には何枚かの硬貨、そして大量のお菓子が山積みになっている。
チョコレート、クッキー、これは……ケーキか?
なんとなく手に取ってみるが、何の変哲もないクッキーだった。
「これは……なんだ?」
「お菓子です」
「いや、それは見ればわかるけど……」
笑顔で答えるロッテだが、何の答えにもなっていない。
答える気がないのか、ロッテはこちらを笑顔で見つめていた。
「おい、フィー……」
仕方ないのでフィーネに聞いてみようとして気づく。
フィーネが居ない。
あたりを見渡すが、彼女の姿はどこにも見えなかった。
……館に戻ったのか?
「なあ、フィーネはどうしたんだ?」
「ああ、フィーネさんなら……」
とそこで言葉を切って、机の下をのぞき込むロッテ。
釣られて俺も机の下をのぞき込む。
そこには……フィーネが膝を抱えて何かをブツブツと呟いていた。
なんか……ちょっと怖い。
「どうしたんだ、これ」
「実はご主人様が居ない間にちょっとした勝負をしたんですよ」
「勝負?」
「ええ、ボクとフィーネさん、どっちがより女として魅力的かっていう」
「ほう」
「で、冒険者の方にお菓子をねだって、より多く貰えた方が勝ちっていうことになったんですが」
「ああ、そういうことか……」
最後まで聞くまでもなく、状況がわかった。
つまり机の上のお菓子の山はロッテの戦果で、フィーネが机の下にいるのはボロ負けしたショックからだろう。
一応女のフィーネが、男のロッテに負けたらそりゃショックか……。
まあ、やや幼いものの、いや、だからこそ男の保護欲を煽るようなロッテ、その言動は計算されつくしている。
対して一応女なもののその魅力を全く生かせていないフィーネ、しかもアホ。
勝敗は見るまでもないだろう。
……ま、しばらく放っておいてやるか。
「で、そっちはどうだったんです?」
「ああ、見ての通り大漁だ」
ゴーレムが背負う籠を指さして、俺は笑顔を浮かべた。
いろんな種類が手に入ったし、状態もいい。
ロッテはそんな俺の右手を両手でぎゅっと握ってくる。
手を包み込む、ひんやりと柔らかい感触が気持ちいい。
だが男だ。
「さすがご主人様ですね!」
「まあな」
「じゃあお祝いにこれ、食べちゃいましょう!」
「いいのか?」
「もちろんですよー。ボクのものはご主人様のものです」
「いや、自分で食えるから……」
あーん、とばかりにロッテはクッキーを摘まむと俺の口に押し当ててくる。
俺はそれを手で振り払うと、自分でクッキーを手に取り口にした。
……うん、甘い。
ちょっとぱさぱさしてるけど、普通に美味しい。
「普通に美味しいな」
「まあ、そんなに高いものでもないですしね」
「ちょっと! なに人のこと無視してお菓子食べてるのよ!」
「ああ、悪い。食べるか?」
「食べないわよ!」
机の下から勢いよく這い出してきたフィーネは、叫びながら俺の手を勢いよく叩いた。
その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
なんだろう、そんなにクッキーは嫌いだったか……?
「悪かったな。ほら、飴ちゃんだ」
「要らないわよ!」
「ああ、甘いもの嫌いだったのか」
「好きだけど」
「じゃあいいじゃないですか、ほら」
「そうじゃなくて!」
フィーネは差し出してきたロッテの手を振り払うと、げんなりした様子で言葉を続けた。
「ていうか、あんたら分かっててやってるでしょ……」
「まあ、遊びはここまでとして、だ」
俺はゴーレムの背負う籠の蓋をあけて中をフィーネに見せた。
驚いたのか、フィーネが目を丸くして固まる。
「これ……」
「どうよ?」
「いや、これならいけると思うけど……本当にあんたが?」
「ああ、まあ千歳――勇者の分も混ざってはいるけどな」
「はあ……あんたって、本当に魔力だけは凄いのね。凄いのは札書いたわたしだけど。」
フィーネが感嘆の言葉を漏らすも、自己主張を忘れない。
俺はそんなフィーネの頭を軽くたたくと、言葉を続けた。
「んじゃ頼んだぞ」
「へいへい」
館へ戻るフィーネの後を追いかけるようにゴーレムが歩いていく。
さて、俺も準備するか……。
俺は軽く指を鳴らすと、やはり館へと歩き出したのだった。