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不思議なダンジョンの造り方~勇者は敵で、魔王も敵で!?〜  作者: さわらび
1.結婚できないダンジョンマスターが勇者を倒すまで
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17.冒険者という名の便利屋

「ここが――」

「そう、ここが冒険者の町、ファリスリアよ」


 ダンジョンを出て森の中を歩くこと三時間、俺たちはやっと町にたどり着いていた。

 石造りの家々に石で舗装された道。

 そしてなにより道を往く人々!

 ああ……思わず抱き着きそうになり自制する。

 やっと……やっとまともな人間に出会える!

 可愛い顔して男でしたとか、見た目も中身も残念でしたとか、そういうのじゃなく!

 こんな当たり前のことがこんなに幸せだなんて……。


「ねえ……ちょっと、ねえってば!」

「はっ!?」


 フィーネに肩を叩かれて我に返る。

 やばいやばい、あまりの嬉しさにちょっと遠い世界に行ってしまっていたみたいだ。

 俺は深呼吸をすると、あたりを見渡して言った。


「さて、女の子はどこに居るんだ?」

「……あんた、何しに来たのよ」


 こちらを見るフィーネの目が冷たい。

 何しに来たかって?

 決まってる。結婚だ。

 そう、そのためには……


「……そうか、冒険者ギルドだっけ?」

「本気で忘れてたわね」


 目的を思い出した俺は、フィーネの視線を避けつつあたりを見渡す。

 石造りの家々、その道の脇では果物や肉、よくわからない雑貨などの露店でにぎわっていた。

 そして何よりも道を往く人々。

 シャツにズボンという恰好をした人だけでなく、剣を下げた者や鎧を着ている者などが道を行き交っている。

 その光景を見て、改めて実感する。

 ――ああ、マジで異世界なんだなぁ。

 まあ、魔法を使ってる時点で異世界なんだけども。

 ダンジョンにいる間は、なんというかゲームのような感じが強くて、いまいち現実感が感じられなかったのだ。


「ほら、早く行くわよ!」


 腕を引っ張るフィーネ。

 まあ、まずは金稼ぎ。

 婚活はその後だ……。

 そんなことを考えながら、俺は冒険者ギルドへと歩き始めたのだった。


◇◆◇◆◇


「はい、これが冒険者の登録証になります」

「ありがとうございます」


 言葉とともに差し出されるカード。

 そう、俺たちは今、冒険者ギルドで冒険者としての登録を終えたところだった。

 中には大きな受付と数人の受付嬢が忙しそうに冒険者や書類の相手をしていた。

 奥には上に続く大きな階段が見える。


 そして目の前に差し出されたカード。

 俺はしかし、差し出されたカードではなく手を取り見つめていた。

 うっすらと透き通るような白い指。

 そのまま視線を上にあげる。

 白い肌にすーっと通った鼻、はっきりとした目。

 お世辞を言うまでもなく美人な彼女は、やはり美しいその目でこちらを見ていた。


「あの……」

「ああ、すみません。ちょっとお願いがあるのですが……」

「はぁ……」

「俺と結婚――ぶぺらっ!?」


 そこまで言ったところで頭に衝撃が走った。

 そのまま机に勢いよく顔がぶつかり、目の前に星が散る。

 痛い……。

 俺はめり込んだ顔を無理やり引きはがすと抗議の声をあげた。


「なにすんだよ……」

「あんたがなにやってんのよ……」

「お前、あんま目立つことするなよな」

「どっちがよ!?」

「あのー……」

「ああ、すみません」


 俺は改めて女性の方へ向き直るとカードを受け取る。

 名刺サイズの薄い金属製のカード。

 そこには奇麗な字で俺の名前と登録番号が書かれていた。

 ぺらぺらと裏返したりしてみるが、特にほかに情報は書かれていない。


「これで登録は完了になります。その、なくすと再発行にお金がかかるので気を付けてくださいね」

「お金って?」

「一度目の再発行が一万フィル、二度目は二万フィル……と増えていく感じですね」

「……気を付けます」

「後、依頼の実績はこちらで管理しているので、過去の履歴が見たい場合はおっしゃってください」

「実績?」

「ええ、例えばこの依頼に成功したとか、失敗したとか、そういう情報です。他の人も照会することができるので、ベテランになると実績を見た人が直接依頼~ていうこともあるみたいですね」

「へー、ちなみにこいつのはどんなんなんだ?」

「えーと、フィーネさんのは……これですね」


 言って差し出された書類。

 そこにはフィーネの輝かしい実績が記載されていた。


 盗賊団の討伐:成功

 ゴブリンの討伐:失敗

 ブルーハーブの採集:失敗

 オークの討伐:失敗

 ブルーハーブの採集:失敗

 レッドハーブの採集:失敗

 トイレの掃除:失敗

 ……


「見事に失敗だらけだな」

「いーじゃない最後に成功してるし」

「別にお前の手柄じゃないだろ……ていうか採集に失敗するのも謎だけど、何をどうやったらトイレ掃除に失敗できるんだよ」

「うっさいわね、色々あったのよ!」


 言われて色々考えてみるが、何をどう考えてもトイレ掃除に失敗する原因を想像することはできなかった。

 こいつ冒険者に向いてないっていうか、人としてなんかもうダメな気がする……。


「後は、あちらの掲示板に依頼書が貼られているので、受けたいときはこちらにお持ちください」


 女性が指さしたほうに視線を向けると、紙が貼られた掲示板が存在を主張していた。

 掲示板は一つだけでなく、横並びに5台並んでいる。


「複数あるのは?」

「ああ、手前から奥にいくにつれて依頼の難易度が上がっていくんですよ。特に制限はないんですけど、自分にあった難易度を選んで行ってくださいね」

「了解」


 とりあえずは一番手前の一番易しいところからだろう。

 掲示板の方へ歩きかけて、ふと思い出す。

 ――と、あれ聞こうと思ってたんだった。


「すみません、ちょっと聞きたいんですが……」

「はい?」

「ダンジョンの情報とかってどこにあるんですか?」

「ダンジョン……ですか」


 女性は少し怪訝な顔をすると、先ほどとは反対側を指さした。

 そちらにはやはり紙の貼られた掲示板。


「ダンジョンに限らず、冒険に役立つ情報などは定期的にあそこに張り出されるので、適宜チェックしておくといいですよ。……まあ、最初はダンジョン探索じゃなくて薬草の採集とか、ゴブリンの討伐をお勧めしますけど」

「いや、ちょっとダンジョンに興味があって……」

「まあ、死なない程度にがんばってくださいね」


 気のせいか反応がちょっと冷たい。

 ……ともあれ、気を取り直して情報掲示板の方へと歩いていく。

 そこには薬草の見分け方やモンスターの特徴などが書かれた紙が大量に貼られていた。

 その中の一番新しい紙に目がいく。

 その紙には、こう書かれていた。


 『新ダンジョン発見される!

  ダルトン隊長率いる調査団が町の近くに新たなダンジョンを発見した。

  調査団の発表によるとダンジョンは1階層しかなく初心者向け。

  ダンジョンは7部屋構成で、出現モンスターは……。

  ……

  ……』


 そうか、うちのダンジョンに来たやつらもこれを見てやってきたんだな。

 ご丁寧に地図まで書いてある。

 思わず手に取り読み始め……。

 っと、これはこれで興味深いが目的は別にある。

 えーっと……。

 俺は掲示板に張られた紙の海をあさっていく。

 トロールの繁殖方法、違う。

 ドラゴンの目玉の煮込み料理……。

 興味はそそられるが、今じゃない。

 しばらく紙と格闘していた俺だったが、ようやく目的の物を探し当てる。

 よし、後は……。

 俺は紙を手に取ると、依頼が貼られた掲示板の方へと歩いていった。

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