12.設計という名のフィーリング
「さて、ダンジョンだが……」
「ダンジョンっていったらモンスターじゃないですかね、後は罠とか」
「ダンジョンっていったらお宝よ! ロマンよ!」
ロッテとフィーネが口々に勝手なことを言う。
調査隊の視察から一夜明けて、俺たちはどんなダンジョンを造るかを話し合っていた。
「つかロッテ、お前はもう自由なんだから別にここに居る必要はないんだぞ?」
「だからー、昨日も言ったじゃないですか」
ロッテは頬を膨らませると俺を軽く睨んでくる。
そう、昨日の夜。
眠りに落ちかけた俺を起こしたのは、なぜか戻ってきたロッテだった。
理由を聞く俺に、ロッテは俺の胸元に縋り付いてこう言った。
ご主人様のことが好きだから……じゃ駄目ですか?
だが男だ。
……正直、たまに誘惑に負けそうになるし、婚活の邪魔になりそうなのでどこかへ行ってくれて良かったのだが……。
まあ人手が居るのも事実だし、男ならあまり気兼ねなく使うことができる。
そう考えた俺はロッテを空いている部屋に押し込んだのだった。
「……つかお前、面白がってないか?」
「そんなことないですよー」
「そんなことよりお宝よ! お宝を用意するのよ!」
「お宝ってもなぁ……どうやって用意するつもりだ?」
「そうね、えーっと……買う?」
「お前、金あるのか?」
「うっ……作るとか」
「剣ならもうないぞ。どっかの誰かのせいでな」
「じゃあ、じゃあ……」
悩んでいるフィーネに、ロッテが何かを囁いた。
フィーネは閃いた! とばかりに顔を輝かせて声を上げる。
「ないなら盗めばいいじゃない!」
「保釈金なら払わんぞ」
「違うわよ、ちょっと借りるだけよ。後でちゃんと返せば犯罪じゃないわ!」
「いや犯罪だろ」
つかロッテは何を吹き込んでるんだ。
可愛い顔して、やっぱり魔族ということなのだろうか。
この馬鹿は本当にやりかねないから、変なことを吹き込むのはやめてほしい。
「ま、なんにせよ今あるもので何とかするしかないだろ」
「って言っても、お金も武器も何にもないですよ?」
「とりあえずロッテ、お前は使えそうなものを集めてくれ」
「使えそうなものといっても……」
「フライパン、鍋、ほうき、服、なんでもいい」
「わかりました」
ロッテは返事をすると、ぱたぱたと部屋を出ていった。
さてと、後は……。
「おい、フィーネ」
「なによ」
「お前は昨日話したやつの準備を頼む」
「……いいけど、あんたも変なこと考えるわね。上手くいくか分からないわよ」
フィーネはそう言うと机の上に紙を広げ、本を睨みながら何かを書き始めた。
若干不安ではあるが、まあ魔法に関しては信頼しても大丈夫だろう。
さて、後は……。
俺は想像を広げながら部屋を後にしたのだった。
◇◆◇◆◇
「どんなダンジョンにするかなー」
つぶやいた言葉が響いて消える。
俺は今、館の地下に作った部屋に一人こもっていた。
魔法で造られたその部屋には、やはり魔法の明かりが灯っていた。
……秘密基地っぽくってちょっと楽しい。
さて、ダンジョン造りっていっても使える時間は七日間……いや、もう六日間か。
時間もないし、できることは限られている。
とはいえ焦って造っても後々困るのが目に見えている。
システム作りと同じで、ちゃんと設計をしないと……。
いや、別にずっとここに居るわけじゃないし適当でいいのか?
ともあれ目標は初心者向けダンジョン。
そもそもの目的は調査隊を誤魔化すことなのだから、無駄に大きくする必要もない。
適当な初心者向けダンジョンを造って、適当に満足して帰ってもらえばいい。
初心者向けっていうと、部屋は……3~4部屋もあればいいか。
いや、さすがに少なすぎるか?
罠やモンスターも、いざ考え出すと止まらなかった。
あんまり過激にしすぎて死人が出るのは避けたいが、初心者の冒険者がどれくらいの強さなのか分からない。
……唯一知っている冒険者といえばフィーネだが、それは参考にしない方がいいだろう。
あいつがクリアできるダンジョンっていうとモンスターも何も配置できなくなる。
ついでにいうと自分で試す気もない。
魔力の強さは魔王並みらしいが、それ以外は特に変わってないっぽいし。
モテるようになったわけでもなさそうだし。
結婚できるわけでもないし。
下手に試して怪我をしたり死んだりするようなことは避けたかった。
実際に試せないのは痛いが――まあ、そこは想像で補うしかない。
「――ま、色々やってみるか」
俺はそう言うと、壁に向かって作業を始めたのだった。