41.剣という名の鈍器
「サモンゴーレム!」
燃え尽きた札が、地面に落ちるよりも早く現れた影にのまれて消える。
空を覆うように巨大な魔法陣が現れ、黒い煙に包まれる。
しかし――
「ヴォルァァーー!!」
ゴーレムが現れるよりも早く、氷の装甲を逆立てたアイスドラゴンが完成した氷の槍を解き放つ!
――あと少しなのに、死んでたまるかっ!!
「いっけぇぇ――!」
魔法陣の中身を無理やり引っ張り出すように俺は空を掴むと、迫りくる氷の槍に向かって投げ放つ!
黒い霧を突き破って現れた巨大な石の剣が氷の槍を砕き、その先端を凍らせながらも――その質量でドラゴンを叩き潰す!
再びあたりに吹き荒れる雪煙によって視界が遮られる。
「今度こそ――やったか?」
言わない方がいいような気もするが、つい口に出してしまう。
手ごたえはあったが――。
静寂。
いや、ピシッ、ビキキッ!という音がドラゴンの方から俺たちの方へと近づいてくる。
「やばっ!?」
広がってくる氷の割れ目に、慌てて剣――の形をしたゴーレムを送還する俺。
その後も少しの間、氷が割れる音が響いていたが、やがて雪煙と共に収まると、そこには――
「グルッ・・・・・・」
地面である氷に穿たれた巨大な穴と、前足を一本失いながらも残る足で立ち、こちらを睥睨するアイスドラゴンの姿があった。
狙いが逸れたか――。
氷の槍に気を取られ過ぎて、その奥のドラゴンのど真ん中にぶち当てるには至らなかったらしい。
それでもドラゴンのダメージは大きく、その足元にできた穴には体から、ちぎれた前足から流れ出る青い血が満たされていた。
「・・・・・・」
アイスドラゴンののっぺりとした顔から視線を外さぬまま、俺はポーチから札を引き抜く。
これ以上やり合えば足場が崩れて最悪死ぬ恐れもあるが――戦わなければ待っているのは確実な死だ。
もはや後のことなど考えずに全力で魔法を撃つしかない!
ドラゴンがその身を震わせると、傷口を覆うように氷が広がっていき――
「来るか――っ」
札を握りしめ、呪文を唱えようとするが――
「うおっ!?」
振動。
そしてドラゴンを覆うように雪煙が広がる。
不安定になった足場で転びそうになるが、しかし札だけは落とさぬよう必死に握りしめる!
そうする間にも振動は遠く、小さくなっていき――
「――あれ?」
雪煙が収まると、そこには大きなクレーターと、青い血が溜まった穴だけが残されていたのだった・・・・・・。
◇◆◇◆◇
「トシさん・・・・・・・?」
「気づいたか」
頭を振りながら起き上がるハル。
目立った外傷はなかったので特に回復魔法もかけずに寝かせておいたのだが、それで大丈夫だったらしい。
知識がないので不安だったが――帰ったら応急治療とか勉強しよう。
そういう学校行ったら女の子とも仲良くなれそうだし。・・・・・・いや、リーニャと結婚するならそこはもういいけど。
「倒した・・・・・・んですね」
「ああ」
「よかったっ――!
座ったまま抱き着いてくるハルを、頭を撫でてなだめる俺。
いつまでもこうしていたい衝動に駆られるが――
「ほらっ、血を回収してさっさと帰ろうぜ」
「はいっ!」
ハルは顔をコートの袖で拭きながらもカバンから水筒を取り出す。
俺はそれを受け取り、アイスドラゴンの血を汲もうとするが――
「うぷっ!?」
「トシさん!?」
痛みと疲労で力が入らず、顔面から血の海にダイブしてしまう!
幸いハルがすぐに引っ張り上げてくれたおかげで沈まずに済んだが――
「ありがとな」
「いえっ――」
笑いをこらえるように俯きながら、ハル。
俺は真っ青に染まってるであろう顔を適当に拭くと、今度こそ水筒を青い血で満たしたのだった・・・・・・。