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不思議なダンジョンの造り方~勇者は敵で、魔王も敵で!?〜  作者: さわらび
0.結婚できない男がダンジョンマスターになるまで
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2.トラックという名の死神!?

「おぼろぇぇぇぇっ……」


 生暖かいものが胃から喉へと逆流し、排水溝へと流れては消えていく。

 冷え切った体の中で、喉だけが灼けつくような感覚を覚えていた。


「うー、さすがに飲みすぎたか……」


 アルコールも一緒に吐き出したおかげで、大分酔いが冷めてきた……。

 冷静になったところで居酒屋での出来事を思い出し、今度は顔が熱くなるのを感じる。

 普通に可愛かったなぁ……あの店員。

 今度会ったら謝らないと。

 そしてそこから始まる……恋!

 ……まあ、出禁になってなければだけど。


 ぺっぺと口の中のものを吐き捨て、そのまま空を見上げる。

 赤みがかった満月が世界を暗く照らしていた。

 一人黄昏ている俺の横を車が一台、また一台と走り去っていく。

 ……帰るか。

 終電、まだあるかな。

 スマホの電源を入れ、検索しようとした瞬間!


「おぼふっ!?」

「おろぇぇぇぇっ……!?」


 俺は何者かに押し倒され、顔に何か生暖かいものが降り注ぐのを感じた。

 なんだこれ、この酸っぱくて酒臭いものは……まさかっ!

 うっ……。


「おぼろぇぇぇっ……」

「おろ、おぇぇぇぇ……」


 匂いにつられ、忘れかけていた吐き気が勢いよく口から噴き出していた。

 それでさらに勢いづいたのか、顔にかかる飛沫も勢いを増す。

 この汚くて臭い負のスパイラルは、お互いの胃の中身が空になるまで続いたのだった……。


 ……数分後。

 お互いに出すものがなくなったのか、俺たちは道で力尽きたように倒れていた。


「重い……臭い、どけ……」

「れでーに向かって重いとか臭いとか、そんなこという男は死ね」


 俺のつぶやきに、若い女の声が答える。

 そうか……今俺に乗ってるのは女なのか……。

 俺は残る力をすべて込めると、今日の恨みを晴らすように女を道路へと転がした。

 ちゃんと歩道側に転がすという配慮は忘れない。

 うむ、俺ってジェントルメン。


「痛っ!? 女性に暴力ふるうなんて最低じゃない! この童貞がっ!」

「どどどど童貞ちゃうわ!」


 勢いよく体を起こして反論する。

 そのまま立ち上がって女の顔を見るが、まったく見覚えはない。

 赤の他人だ。

 童貞だということがバレているはずがない。


「はっ! どうだか。あんたみたいなやつがモテるわけないし。見てるだけで吐き気がするのよ、あんた」

「いや、主にお前の吐瀉物のせいだろそれ」

「はぁ? あんたの顔まで私のせいにするわけ? はいはいそーですよ、ポストが赤いのも私が振られたのも全部私が悪いっていうんでしょ!」

「ポストが赤いのは知らんが、振られたのはお前のせいだろうな。自業自得ってやつだろ」

「うっさいわね、このハゲ。髪が衰退しすぎて脳みそまで衰退してんじゃないの?」

「ハゲてねーよ。まだハゲてねーよ。よく見ろよ、どこがハゲてるっていうんだよ!?」


 思わず額に手を当てると、べしゃりという感触。

 ううっ……こいつのゲロ思いっきりかぶってたの忘れてた。

 ……覚悟はできている。

 親父も祖父も今ではぴっかぴかになって輝いている。

 だがまだその時じゃない。

 俺はまだハゲじゃない!

 俺は額に当てた手でそのまま髪をかき上げ、女に見せつける。


「ほら、どこがハゲてるっていうんだ? どこがハゲてるっていうんだ?」

「しつこいわね。そんなこと言ってるからハゲなのよ」

「だからハゲじゃ……」

「あーあー残念でしたー。あんたの髪の毛は衰退しましたー。妖精さんに全部ぶっこ抜かれましたー」

「うぜぇ…… これだから女は……」

「これだから女は? ハゲてるのも童貞なのもあんたのせいでしょ」

「ハゲてもいないし童貞でもない!」


 半分嘘だけど。

 別に誰かが損するわけじゃないし、それくらいの嘘はいいだろう。

 女は俺の胸ぐらを掴んで引き寄せると、酒臭い息を吹きかけながら言ってくる。

 鼻と鼻が触れ合いそうな距離になるが、全然ドキリとしないのはその上で激しく自己主張している眉毛のせいだろうか。


「だったら言ってみなさいよ! 顔良し、スタイル良し、性格良しの私がなんで振られたのか!」

「鏡よ鏡! どうかこのバカに答えを教えてやってくれ!」

「なんでよ、私の何が悪いっていうのよ! バカでブスでも若い方がいいって、意味わかんない。27でババア呼ばわりって何様のつもりよ! 男って若けりゃなんでもいいわけ!?」

「あん? それいうなら女だってそうだろう」

「はぁ? どういう意味よ!」

「年収、貯金、家、車…… 所詮女は金しか見てないんだろ? 金、金、金、浅ましいんだよ!」

「そんなクズな女と一緒にしないでよ! ていうかそれってあんたが単に甲斐性なしなだけじゃないの? 自分がショボいのを女のせいにしてるんじゃないわよ」

「甲斐性なし……」


 図星を突かれ、言葉を失くす俺。

 と同時に、忘れていた絶望感がどっと押し寄せてきた。

 甲斐性なし……。

 金がすべてだとは思わないが、それでも無いよりはあった方が絶対いいのは分かっている。

 わかっているが……。

 甲斐性なし……。

 なんだろう、一生懸命働いてるんだけどな。

 みんなが寝てる時も頑張って働いてるんだけどな。

 なんでこんなにお金がないんだろう……。

 るーるー。


「あの、なんかごめん。見た目冴えないしゲロ臭いし甲斐性もない童貞でも、きっといつか素敵な彼女が見つかるわよ。私は死んでも嫌だけど」

「んなっ!? なんで初対面の女性にそこまでボロくそに言われにゃならんのだ! しかもゲロ臭いのはお前のせいだろうが! 大体そういうお前だってその眉毛……」


 そこで言葉を切ったのは言い過ぎたと思ったからではない。

 トラックが勢いよくこっちに突っ込んでくるのが見えたからだ!

 女はこちらを向いているせいで、トラックには全く気づいていない。

 こんな毛虫が顔をのたくってるような女でも、さすがに目の前で死んだら後味が悪い。

 ゲロだけに。

 なんて言ってる場合じゃない!

 くそっ、間に合うかっ……!?


「ふんぬっ!」

「ゆべしっ!?」


 俺は勢いよく彼女を突き飛ばすと、そのまま自分も避けようとする――が。

 女は思っていたよりも重く、突き飛ばした時点で勢いは完全に殺されてしまっていた。

 彼女と入れ替わる形になった俺の視界にトラックが勢いよく飛び込んできて――

 次の瞬間、俺はトラックと壁に挟まれていた。

 息ができない。

 結婚もできない。

 このまま結婚できないまま俺は死ぬのか……?

 いやだ、まだ死にたくない。

 だってまだ結婚していな……。


 そこまで考えたところで、俺の意識は完全に途絶えたのだった……。

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