一年後と、動き出した魔王軍
弟子入りから一年がたった頃にカーバイン王国の方で動きがあった
「魔族の連中がついに動いたらしい。今こそ連合を組み共に魔族共を殲滅しようと書いてあるね。しかし、動くまでに一年とは結構な時間をかけたようだね今代の魔王は」
この国については心配はしていない
なぜならばこの国の一兵卒から将軍に至るまで私の組んだカリキュラムに沿って訓練を施しなおしたからである。リアたちにも協力してもらい私の手や目のところにも気を配ってもらった
リアは世界樹であるレンとのふれあいでだいぶ子供好きな人格形成に至ったらしく母親やお姉さんぶりたいところがでてきている
その他の子たちも徐々にだが個性が出始めてきている
いいことだ。これからの時代には私たちの中核となる存在の一つでもあるからな
「こんな書状を各国に送るくらいだからある程度は勇者たちが育ったんじゃないの」
オフィリアは地面に大の字のなりながら私に問いかける
「ぜぇ、、、ぜぇ、、、そう、、なんですか?、、、師匠」
柊はまだ弟子入り一年目なのでまだ訓練終わりには息が切れている
二人も一年前よりかはだいぶ強くなったといってもいい。精神的にも肉体的にも
「いやそうでもないよ。一番強い勇者でもレベルだったかい?それが大体五十台だよ。でも私が知っている魔族陣営の幹部クラスたちはもっと上になるし、魔王なんて三桁は行くはずだよ」
二人ともが私の話に呆然としている
まあ、無理もない。この世界での三桁は彼女らからすれば無敵に近いからね
「でもまあどうする?オフィリアは戦争に手を貸すかい?」
私の問いかけに彼女は首を横に振る
「いえ、序盤は様子見よ。私から見て本当にこの国もやばそうなら勝手に介入させてもらうわ」
「連携を取らなくていいんですか?」
柊が体を起こしながら私たちに問いかける
「正直に言えば大事だけどこの国の戦力は自分でいうのもなんだけど他の国よりも大きく進歩しているし何よりも単純にただ強い」
他の国の軍隊や騎士団なんかはこの国の一般歩兵が三万ほどいれば簡単に壊滅できるだろうな
正直に言うとこの国以外の戦力は魔王軍との戦力さが大きく差ができている
まあ、そのための勇者なんだろうけどもね
「確実に勇者たちは今度の戦で大きく目立つことにはなるだろうし、積極的に巻き込まれるだろうね」
柊はこの一年でだいぶ彼らのことは自分の中で飲み込んだのかあまり関心を示さない
「あんな場面で囮に使われたら誰だって興味なくすわよ」
ではまずは最初の戦の見学にでも行きますか
「「え、、、本気ですか?」」
私ってこれでも女王なんですよ、とか
いつもみたいに遠見の力で観戦すればいいじゃないですか、とか
そんな事を言ってる二人を小脇に抱えて空間魔法で開戦場所に向かった
もちろん、後のことはリアたちに任せて
◇
実地訓練と野営訓練を兼ねた前乗りに来てから一週間がたちようやく人間側の戦力が魔王軍の潜む森と平原の境目のあたりまで近づいてきた
「なるほどね、あれが勇者なの。期待外れもいいところじゃない」
オフィリアが魔力を目に集めて各個人それぞれの魔力量や体内のオドの魔力を見てつぶやく
「本当にあれ、私と一緒に召喚された人たちですか。オドの流れも雑だし何よりも動きが素人臭い」
「柊と違って彼らはレベルが全て。だがらレベルを上げることだけをしてきたから魔力によるごり押しかレベルによるごり押しぐらいしかできないんだよ」
三人で話している内に戦いが始まっていた
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「人に害なす魔族共よ、滅びよ‼ 『炎よ 浄化の力を持って 害あるものよ滅せよ 炎槍 三十連弾‼』」
僕が唱えた詠唱によって僕の周りに炎で形成された槍が三十本現れる
今現在の僕が撃てる最大数を最初に撃ち込んで敵の鼻っ柱を折りに行く
今までの魔獣や魔物の討伐なんかではこれで済んだ
だから今度も大丈夫。これで終わる
「ヴォォォォォォ」
「ギギギギギギィィィ」
戦闘を走るゴフリンや忌まわしき最初の苦渋を味わったミノタウロスが貫かれて倒れていく
僕以外の勇者たちの魔法なんかでどんどんと敵の陣営がくずれていく
すると僕らがいる場所以外の位置に魔王軍が動いていく
僕らは無視された形になり、そのことに少し呆気に取られてしまったがすぐに殲滅しようと動こうとした
しかし、僕らの前に一体の魔族が立ちはだかったことで動けなくなってしまった
「初めましてだな勇者よ。第三師団の団長を務めさせてもらっているホーキンスというものだ」
ホーキンスと名乗った魔族は外見的には人に近いが頭にはねじれた羊の角、蝙蝠の羽をもつ明らかに高位魔族の姿である
魔族は高位になればなるほどに人の姿に近くなりその強さも次元が違うほどに上がっていく
僕は自分が勇者たちのリーダーである自覚がある
だからこそ、『こんなところで死んでいいはずがない』
しかし高位魔族からそんな簡単には逃げられない
近接戦をしかけて一気にたたこうかと考えていると、ホーキンスは笑う
「やはり異世界の勇者といっても今までと何も変わらんな。そんなに自分が特別な存在だとでも思っているのか。しょせんはただの人間族の支配のための御輿にすぎん」
その言葉を聞いた瞬間に僕は一気にホーキンスに近づき剣を、その昔邪龍を殺した聖剣を振るった
ホーキンスはふらりと右の手で撫でるように聖剣の側面を手の甲で滑らせて軌道をずらす
ずらされた状態で僕は右足を魔力で強化し蹴りつける
それを奴は左手で受け止めると予想していた僕だが奴は自分の翼で蹴りを防御してきた
とどめの用意していた無詠唱での特大の大きさの炎の槍の制御が緩む
槍の形状が保てなくなり一段階前の炎弾の状態になって破裂した
至近距離だったために僕も大きなやけどをしてしまった
奴にも多少のダメージが入ってると確信していた僕だが奴は無傷だった。奴は魔力で強化された翼で体を覆うことであの高密度の魔力から無傷でいたようだ。ということは僕の放った魔力強化済みの蹴りはただの片翼に止められたことになる
くそっ、ここまで実力の差があるのか
「こんな程度か?これがこの世界の希望として召喚された異世界の勇者の実力なのかと思うと残念で仕方ない。これならばまだ残りの勇者全員がかかってきた方がまだましだ。今までの勇者と比べると遥かに格下だな」
奴のセリフに頭に血が上る
僕が格下?この中で僕が一番、いやこの世界で一番強いのは僕なんだ
こんな奴に、こんな奴に馬鹿にされて黙ってられるか‼
僕の怒りが引き金になったのか魔力があふれ出るように僕の体から噴き出している
その時、自然とこの力の使い方が分かった
スキル名を唱える。『限界突破‼』っと僕が叫べばさらに魔力がほとばしる
「ほう、まだそんな力を隠していたとはな。これなら少しは楽しめそうだ」
奴は、ニヤリと笑ってそう言った