自動人形、付喪神、そして始まる"勇者召喚"
レンとの遊びはだいたい一日ぐらいかかってします
彼女との遊びは私も嫌いではないので一日程度の拘束時間はたいして気にしないのだ
しかし、この先の懸念として異世界人が召喚され始めれば彼女との遊びはだいぶ時間が限られてしまうだろうな
そこで私は考えた
「たしかSFなんかには魂を持ったロボットなんかがいたな」
だが今回の星はファンタジー路線を進む予定なのでロボットのような科学ではなくファンタジーにありがちな地球にも存在した人形を使うとしよう
俗に言うところの"自動人形"と呼ばれるものである
レンとの遊びは作った人形の子達と色々な種族の者達と私達でローテーションを組ながら回していくことにしようかな
私は思い立ったが吉日の通りにその日のうちに各種族や楓と相談を済ませた
各種族の長たちは即答に近い感じで承諾してくれて楓は逆に私がこの星に誕生してはじめてのファンタジー感のあるものを製作すると言うことの方に興味を向けていた
もちろんのこと楓も話し相手になることには承諾を得ている
自動人形製作の期間は精々が三日ほどで終わった
最後の仕上げには魂の定着があるがそこは簡単に終わった
気合いだ、とにかく気合いだ
いつも通りに終わらせる
人形の目が開く。私の目には彼女の魂と肉体がしっかりと結びあいその存在が確かに生きていると実感できる
出来は上々だ。しばらくは様子見が必要だ
彼女が一体どんな人格や能力を持つのかはこれから先の私たちとの生活の中で決まってくるだろう
私は楓の世話役や遊び相手をしていれば深淵なる知識が、レンとの生活で明るい感情や子供のような無邪気さを兼ね備えてほしいと思っている
さて、金型は出来ている
量産してから順次作業をして大量生産していこうかな
楓とレンの世話役として産み出したこの子は今後生まれてくる子達の指導役兼リーダーとしての機能をもうひとつくらい付け加えよう
「君の長きに渡る人生に幸あることを望む。私から祝福を授けよう。君は我ら煉獄に生まれし最初の子供。共に生きよう。命名、
"守護者"リア」
命名した瞬間に彼女の存在感が大きくなった
今の彼女は小さく薄いが自我があり、単純な力はどの種族にも劣る。まあ、生まれたてなので仕方がないが
自動人形そのものには成長する肉体と精神を与えてある
運動や筋肉トレーニングをすれば筋力や体力がつき、座禅や深い教養などで精神の質の向上を行えるなどの技能を与えた
これで均一化された能力や軍隊ではなくアンバランスだがそこがまた生き物臭いような個人個人で様々な者達が出てくるだろう
ではお披露目といこうか
◇
お披露目の結果は上々だ
レンも楓もリアを気に入ってくれたようで随分と仲がよさげに団らんをしている
これでまた一つ懸念材料が減った
モドキたちには悪いがこの星は楓と私とその家族の世界だ
滅びるそのときまでにその事をしっかりとモドキどもに教育したいと思う
最近はなにやら人間同士の戦争や魔物や魔族達との戦争がところどころで起きている
そしてついに奴隷文化が始まった
世界大戦でも奴隷という階級に貶められた色々な人種たちがいた
私は遭遇したりしたときには秘密裏に救出なんかをしていたものだ
しかしこちらは地球ではない
魔法という力を使えるファンタジー世界なのだ
かつて見た奴隷の扱いよりもこちらの世界のほうがさらに扱いがひどい
人族が同じように人族を戦争によって奴隷に貶めた者達を使い魔族や魔物の大群に向かっていっている
そこに獣人やドワーフなどの異種族の者達が協力して戦線を維持している
しばらくは持ちこたえていたが急に奴隷たちが担当している部分が崩れてしまった
おぉ、と思ったら次の瞬間にそこに一条の光線が走った
龍・竜族と龍人族が加勢に来ていた
崩れた戦線が一気に優勢に傾き始めた
そこからは長々と泥沼の長期戦争になっていった
戦場である平原は死体があふれかえり血だまりやクレーターがそこかしこに存在していた
大半の死体の内訳は人族の奴隷や戦士がほとんどで、敵側は魔族の死体は数体ほどでそのほとんどが魔物たちであった
つまりは完全に戦力で人族と協力関係にある種族達は魔族側に劣っている
「やはり勇者召喚までの時間がなかなかに少なそうだな。しかしリアたち自動人形の戦力たちでも十分いけるが戦力的に大きく余裕を持たせたいな」
一緒に見ていた楓も私の意見に賛成のようだった
「そうだね。リアたちに不満は一切ないけどやっぱり適応できる戦力範囲を広げる必要があるね」
「リアたち自動人形は万能型の戦闘能力を持っているが、それぞれの能力に特化した戦力がいずれ必要になってくるだろうな」
細かい情報はやはり現地で見たほうが手には入りやすい
前世を含めた自分の過去の経験からだ
◇
今までの最大規模の戦争から大体百~二百年ぐらい経つころには特化戦力としての数も揃ってきた
日本に強く残る信仰を思い出したのである
"長く大切に使われるものには魂が宿る"
付喪神である。地球でもいくつかは見たが星の終焉に近くなると年々すぎるほどに個体数が減っていった
それを思い出したのである。付喪神たちは武器から婚姻道具などの日常的なものまで幅広くジャンルを問わない
リアたち自動人形の武器としてもパートナーとしても十分な者たちだ
実質的には二人一組や物によっては三人や四人一組となることだってあるので戦力的に大幅なプラスとなる
彼ら彼女らの存在を生み出すのには時間が百年以上かかった
私の技能である最近習得した時空間に関する能力を使えば百年などは結界範囲に指定すれば簡単に付喪神が生み出せる
しかし、それをしなかったのは宿る魂の質の問題である
リアたち自動人形の場合は逆に宿してから質を高めることができるので最初に魂の定着をした
日常品などは煉獄に住むみんなに協力してもらい大事に使用して壊れたら補修もした
武器の類いは百~二百の時間の流れで起きた戦争に片っ端から戦闘用の自動人形の人員を派遣してばれないように偽装して参加させた
「おはよう、新たなる煉獄に住まう家族達よ。君たちは煉獄に生まれた物の神だ。この星の神様もどきとは違う。これから起こるもどきたちとの戦争に力を貸してくれ、平穏なる日常を取り戻すために‼」
私がそう演説すれば付喪神たちは一斉に声をあげた
楓も嬉しそうに光っている
「私もそろそろ最高の肉体を準備しないとね」
楓の呟きは私の耳にはしっかりと届いていた
○
楓は演説の最中に呟いたとおりに自分の肉体を星の力で創造しはじめた
地球では肉体を作り出すまでに時間がかかり過ぎてしまうということで断念した
しかし、ここは地球とは違う概念で時代が進む世界である
さらに楓は自らが生み出した肉体に星の核そのものを内蔵し本当の意味で自分の肉体を作り出そうとしていた
だが問題がある。星の核を移せばこの星にどんな影響がでるかわからない
「朔夜、心配しないで。想定内だよ。私の一割か二割程度の力の塊を作り出してその力の塊を星の核として運用するよ。もちろん自我なんかもない本当の意味でのただの核だけどね」
しっかりと考えていたようでアフターケアもバッチリのようだ
まあ、昔から自分に関することは一切手を抜かない性格だったからな
「楓に肉体か。これからは地上にデートとか行こうか」
「デートか~、そのあとにしっぽりと二人だけで一夜を過ごして二人に子供を~、っていう流れなんかあったりして」
楓は色を次々変えて感情を表現していく
私もそうなればいいなと、そう感じずにはいられなかった
「では、さっさとモドキどもを滅ぼして平穏なる日常を取り戻そう」
地球では叶わなかった血の繋がった家族に囲まれるという夢のために私たちは再び動き出そうとしていた
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ある国のある宗教の宗主に信託が下された
"異世界より勇者を召喚し魔王を討て"
"すべての種族は魔王討伐に向けて協力せよ"
"さすれば魔王は滅び、再びの平穏が訪れるであろう"
短い信託だったが宗主は国王にこれを報告し、ついに朔夜と楓の懸念通りに異世界より勇者召喚が行われたのである
"煉獄の主"、"星の王" 朔夜
"星の核"、"生命の母" 楓
二人の影の支配者による暗躍がここに始まろうとしていた