宣戦布告
なんでも勇者訪問の内訳はホーキンスという魔族と戦っていた古條君とさらに勇者が三人とカーバイン王国の騎士数名らしい
「明らかに面倒事を持ち込まれるような気がするわ」
オフィリアはどんよりした空気を纏いうつむいている
お着きの侍女や宰相なんかが励ましている
彼女の両親は早々に隠居を決め込みあとは任せたとばかりにオフィリアに押し付けて二人は毎日家で動物や近所の子供たちとふれあっているらしい
柊は私を見ながらなにか言いたそうにしている
「柊、大丈夫だよ。打ち合わせ通りにやれば問題ないよ。なにかいってきたり、仕掛けてきても今の君やオフィリアなら軽くあしらえるから」
私の言葉に柊は徐々に緊張が解けていく
「そうよ、私も柊の為ならなんだってしてあげるわ。だから遠慮なく言ってね」
「ありがとう、オフィリアさん」
伝令役の騎士が玉座の間に勇者が到着したことを告げた
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「初めまして、カーバイン王国に召喚された勇者、古條 亮と申します。後ろの三人は僕と同じ召喚された勇者たちです」
やはり彼が最初に喋るということは今回の謁見は古條くんがカーバイン王国に進言したんだろうな。後ろの三人は全員女性のようだな。勝ち気そうな子、おどおどしている子、無表情な子の四人パーティーのように見える
他の勇者たちの内情はどうかは知らないがこの四人は帝国にくる必要があると思ったんだろうな
「初めまして、エルドラント帝国の女王です。してカーバイン王国の勇者たちが一体なんの用件ですか?」
オフィリアがそう勇者たちに問うと勝ち気な子が舌打ちをする
「分からないわけないよな、女王さん。今回の戦の協力要請の無視をしたことの説明を聞きに来てやったんだよ。言い訳するなら早くしな、私たちも暇じゃないんでね」
一国の王に向かってものすごい言葉遣いと上から目線だな。カーバインの連中は一体何をもって勇者たちにこの国に来させたんだ。礼儀もなっていないし用件を聞かれたのに答えもしない。これが正式に使者としてきているんだから驚きだ
「もう一度聞きます。一体なんの用事で来たのかしら」
オフィリアの答えに再び勝ち気な子が怒鳴り散らそうとしたが古條君が止めに入った
「響子、やめないか。失礼しました。今回僕らが帝国に来たのは響子の言ったように前回の戦の際の協力要請の無視の件と人を探しています」
「人探しですか。それと協力要請はあくまで要請であって強制力を持つ命令ではありません。それも一国の王がなぜ他国の王に命令されなければならないのですか?」
オフィリアが言い切るとさすがにこの答えは予想外だったのか四人ともが固まっている。そこに休まず叩きつける
「それと、あなた方が探されている人はこの国にいますよ。しかし、彼女はこの場にいないということから察してくださいね」
柊はこの場にいない。先程の三人での打ち合わせは最悪のケースである、[直接会わせろ]というものになったときの対策である。ようやく再起動した古條くんはオフィリアに問い詰める
「この国にいるんだな、彼女が‼今すぐ会わせてくれ‼」
「いやよ。察してくれといったじゃない。そんなことも理解できないの?彼女は貴方たちに会いたくないと言っているの」
ハッキリと古條くんにオフィリアが告げると一人でぶつぶつと呟き始めた。内容は至ってシンプルだ。どうしてなんだとか、彼女はこの国の人間たちに奴隷かなにかにされてるんだとか、まさに正義感の塊のような男だな。観察はすんだ、彼は名前で呼ぶような価値はないな
「では、二つの用件も解決したのだしお引き取り願えるかしら。私も貴方たち同様に暇ではないの」
勇者君は急に静になりオフィリアを睨んでいる。恐らくは奴隷にしていいようにもてあそんでいると勘違いをしたままなのだろうな
「女王よ、再び会うときは戦場だ。貴様が帝国を終わらせたものとして後世に俺たちが歴史に記してやるから、覚悟しておけ」
「今さら後悔しても遅せえからな。素直に謝罪すればいいものを」
うん。こいつらは一体本当に何を考えてるんだ。しかしこれはいいタイミングだ。このままカーバインやその連合とやりあうことになればモドキどもも自分達の手札の何枚かは使ってくるだろうな
「宣戦布告確かに受け取ったわ。では、早く国に帰ったら」
勇者たちは悠々と歩いて帰ろうとしたが周りの視線を感じてそそくさと早足になって帰っていった
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「柊の出番はなくてすんだな。彼が勝手に勘違いしてくれたお陰だね」
「そうですね。私も映像で確認しましたけどあれはひどいですね。こちらの都合関係なしですね」
「所詮は子供。しかも甘やかされて鍛えられた子供。自分の力に酔いまくってるわね。ホーキンスとの戦いのあとの彼とは別人ね。恐らくはあのあとの訓練で彼に匹敵する人間がいないから増長したんでしょうね」
まあ、なんにせよ宣戦布告はなった。しかも勇者からだ。これで今回の協力要請は完全に無視していい流れになったな。問題は本当に連合組んでまで帝国を襲いにくるかだな
「まあ大丈夫だよね。この国って一般兵士からいっておかしいもん。普通にオーがと殴りあってたよね」
少し張り切りすぎただけだ。若気の至りだな
「警戒するのはただひとつ、モドキどもの戦力だけだ。そこさえ気を付ければこの国の戦力だけでも問題ない。さあ、二人とも修行に戻ろうか。万一何かあると困るのは君たちだよ」
二人は諦めたように私のゲートを潜っていく。うんうん。素直なのはいいことだよ。さあ、何をしてくる?神の名を語るモドキども