仮面の顔
何も作者から言うことはない。ただ見たまま、感じたまま受け止めて頂ければよい。
1
仮面の顔
本当の顔を隠すために 仮面をつける
本当の自分が隠れた 何たる快感
仮面の裏側で ほくそ笑む
快感を知った時から 仮面をつけ始める
そして いくつもいくつも仮面を作り続ける
ふと 自分の顔
本当の顔 本当の心を知ってほしくなって
仮面を はずしたくなった
おかしい どこにいったの
本当の顔 本当の心は
確かに自分には あったはず
そうだ 確かに おまえの顔は持っているよ
その仮面の顔 すべてが
おまえの 本当の顔 本当の心だよ
2
闇
心の闇と 夜の闇が重なった
一瞬過ぎる真っ暗な闇の世界
はてさて ここは
正気の世界 それとも
夢の世界・・・・‽
闇は一瞬に パッと広がって
此処は
己だけのシアター
そして
己がエンターテイメント
己の 己だけのテーマ
立体 平面 自由自在
底なしの スクリーン
闇の中で 宙に浮く 己の身体
底なしの スクリーン
周りに浮かぶは 己の欲望
ささやかな欲望が
際限なく 膨らむ
それを さえぎる
何者をも 阻止しようと
なりふり構わぬ 己の姿
心の闇と 夜の闇が重なった
真っ暗闇の 一瞬
己だけの シアター
おぼろげなる覚醒
幕間の 休憩か
現実に引き戻され
奇妙な安堵感・・・・・
3
空
今 一瞬として同じ空はない
とどまることを知らず
ただ たんたんと流れるだけ
ただ たんたんと青空を見せ
ただ たんたんと風を吹かせ
ただ たんたんと雲を呼び
ただ たんたんと雨を降らせ
ただ たんたんと雪を降らせ
ただ たんたんと流れるだけ
ただ時々 風雨 風雪 重なって
傍若無人に荒れ狂う
そして それが終わると
また
ただ たんたんと青空を見せ
ただ たんたんと四季の顔を演出する
今 一瞬として同じ空はない
人間によって変えられる大気圏
それによって どうなるの・・・・
それは 空の知らぬこと
ただ たんたんと
とどまることを 知らず・・・・
今 一瞬として同じ空はない・・・・
4
空気
いろんな音が聞こえる
いろんなものが見える
身にまとった繊維の感触
顔や手に触れている空気
吸い込む 吐き出す
何も考えず じっとしている
なぜか空気が・・・重い
こんなにも 重いものか
今更ながらに 気づく
このまま じっとしていては
なぜか はやる気持ち
新しい記憶 古い記憶 手繰る
いろんな声が聞こえる
いろんな人が見えてくる
行けるものなら飛んで行きたい
この空気の重さ 忘れさせてくえる
いとおしい 恋いこがれる君の所へ
5
揺れる
風が 気ままに吹いている
枯れススキが 風に揺れる
風に揺れる 枯れススキを見ている
みんな それぞれが 揺れている
ススキは
石垣に 窮屈な格好で生えたもの
斜面で 踏ん張っているもの
平地に 真っ直ぐ伸びているもの
倒れて 横になっているもの
みんな 枯れススキに変わりはないけれど
向いた方向も背丈も違う
みんな それぞれに揺れている
私の心も 揺れながら
風に揺れる 枯れススキを見ている・・・
6
雪が舞う
山の斜面に当たって風が舞う
立ち木 枯れ葉 枯れ草も
風に乗って 舞いを 舞う
すぐ上の お山は雪けむり
空も海も見えない雪けむり
枯れ葉 枯れ草 背景に
白い 白い 雪が舞う
家屋に当たって 風が舞う
風に右おう左おう 雪が舞う
雪けむりに さえぎられ
かぎられた 時空に
せわしなく忙しなく雪が舞う
7
吹雪の夜
風が鳴る 風が鳴る
闇の中を 風がうねる
外灯の明かりの中で
光る雪がうねる
光る雪が
頬をめがけて
飛んでくる
冷たい雪が頬や眼に当たる
寒気が
服を すり抜けてゆく
寒気が
身体の芯まで凍らせて
風が鳴る 闇を風がうねる
闇の中から
明かりの中から
雪が・・・雪が襲ってくる
8
通路のメジロ
ゴツンと何かが ぶつかった
ガラス越しの通路に
転がっている
うぐいす色の小鳥
淡い黄色の腹を上にして
二本の足 わずかに
ピクピク動かして
閉じた目に白いアイライン
数秒後 パッチリ目を見開いた
通路の真ん中
あおむけ 動けない
そこは 猫の通る道
何時 通るか・・・わからないけど
冷たい風に 羽毛が一羽根
胸のあたりで たなびいている
それ以外の外傷
見た目には 見当たらない
眼はパチクリ動いているが
まだまだ体は 動かない・・・・
ガラス越しの景色は
冬の枯葉色
熟した 赤い柿の実
元気いっぱいメジロが群がる
怖い人間 大きな手を差し伸べて
「さぁ 群れにお帰り」
と 体は起こしてくれたけど
怖い通路の真ん中で立ったままで
飛び立てない・・・・
次の日の午後 人のうわさを聞いた
「メジロが 通路で転がっていたんだって」
ガラス越しの景色は 枯れ葉色
熟しきった 赤い柿の実に
赤い実ついばむメジロや小鳥の群れ
白い猫が 通路を音もなく
小走りに 通り過ぎて行った・・・・
9
完熟柿
やわい陽のひかり 鳥たちが鳴きさえずる
周りは みんな枯れ草 枯れ葉色
そん中 熟しきった赤い柿の実たわわ
重みに耐えている 細い柿の木 細い枝
気まぐれカラス 飛んできて
止まった柿の木 揺れに揺れ重たさ増して
ついばむたびに 折れてしまいそう
周りの枯れ草の中で
キジバトがピョンピョン
周りの木の枝で
ヒヨドリ ホオジロ 小鳥たち
みんな みんな 寄ってたかって
「カラス帰れ 帰れ」の
シュプレヒコール
そばにある緑葉樹の中で
目立ちはしないが メジロの姿…見え隠れ
熟しきった 赤い柿の実たわわ
細い柿の木 細い枝 柿の木重さに耐えている
カラスが大きく羽ばたき去った そのあとは
メジロも加わり 甘い柿の実 争奪戦
やがて柿の実 なくなった
柿の木 萎えて疲れて見える・・・・・
数日たって柿の木見れば
やわい陽のひかりを浴びながらシャキッと立って
もう 来年の実りの秋に向かっているよう・・・
10
車窓
夜明け前の空 白みかける
まだ闇のままでいたい冬の朝
車で坂道を下りる
昼間見慣れた風景だが
朝早い 明け行く風景は
また おもむきが変わる
くねくね曲がりながら
屋並みを潜り抜けたとき
眼前に瀬戸の景色が広がる
寝ぼけ眼が目を覚ました
一秒か二秒 過ぎた時
慌てた脳はシャッターをきった
そして網膜に映った像を
脳内キャンバスに一気に描く
一景一景の物体だけがハッキリして
影は おぼろに滲んで
余計ものが見えないのがいい
影のガードレールの上に
盛り上がった紅葉した落葉樹
まだ目覚めぬ穏やかな海
海を挟んで重なり合う島々
日の出前のわずかに赤味を帯び
垂れこめた雲の空
これで絵は描けた・・・
あの一瞬に目覚めさせた瀬戸の風景
その感動は心の片隅に飾られて
これから先 いつまでも残るだろう
今 車窓風景は海沿いの道を走っている
11
夜明け前
うす暗さの中 すでに一日の
営みは始まっているのだ
綺麗な街の顔や 薄汚れた街の顔
すべてを さらけ出す
陽の光は まだまだだ
駅に向かう架橋の線路
並走する道路と商店街
街路樹の上に顔を出し
点滅する信号機
その下を蠢く スモールランプの車体
駅舎の影が だんだん近づいてくる
太いコンクリートで林立する架橋の柱
その下
柱の裾を小さい人影が駅へ駅へと向かう
また
スーツの上にブルゾンを着こんで
寒さしのぎながら 自転車が行く
人々は みんな みんな駅舎の方へ
駅舎の中 駅舎に吸い込まれて行く
街は 夜明け前で薄暗い
街の” えくぼ ”も” あばた”も
まだ” シミ ”一つ 見えぬ
すべてを さらけ出す
陽の光は・・・もう間近い・・・・
12
捨てられたポリ袋
物売りの手から離れた 真新しい
小さなポリ袋 一枚
街中公園の上を ヒラリ ヒラリ
風に、乗って ヒラリ ヒラリ
「 なぜっ? って 聞かれても 」
「・・・・・・」
真新しい 小さなポリ袋
一枚 迷子・・・・
冷たい風に乗って ヒラリ ヒラリ
公園ベンチ足元に 浅いくぼみ水溜り
どっぷり浸かったウインナーの空袋
水がなくなり ペッシャンコ
土が絡まり 泥まみれ
「 なぜっ? って 聞かれても 」
「 ・・・・・ 」
空袋一枚 捨て子 泥まみれ
街中公園 落葉樹 その樹にもたれ
若いアツアツ男女二人連れ
風のせいかわからぬが ゆさゆさ
枯れ葉 カラカラカラカラ風に舞う
「 なぜっ? って 聞かれても 」
「・・・・・・」
アツアツ カップル抱き合い一つ
街中小さい公園に 背丈の違う男児二人
ダダダダ 右手に紙飛行機かかげて
ダダダダダっと怒涛のごとく入ってくる
紙飛行機飛ばし 飛ばした飛行機追いかける
子供の後についてきた 若い小太り親父も
子供と必死になって 紙飛行機の後を追う
風に乗って ヒラリ ヒラリ
飛んでいる 小さなポリ袋一枚 独り言
「 元の姿に帰りたい 帰りたいけど帰れない 」
迷子のポリ袋一枚 つぶやきながら・・・・
冷たい空っ風に乗って どこかへ飛ばされて行った
真昼の公園 ベンチから弁当食べて立ち上がる
どこの誰に 捨てられたのか
泥まみれの ウインナーの空袋
恨めしそうに 見上げている「 ・・・・・ 」
13
春日和
庭の乾いた土の上
咲いている…白い一初
赤いチューリップ
花の咲いた木
咲かせる木
みんな みんな
きみどり若葉
山裾の斜面
小さな草原
三人娘の
はしゃぎ声
わらび ぜんまい
つくし採る
まだまだ残る
枯れススキ
取って代わるか
きみどり若葉
下から ぐんぐん
14
移ろい
花の痕 残して
桜の花びらが ひらひら
春風に舞う
川土手や川面に落ちて
自然の流れに身をまかす
きれいな みどり
剪定された ツツジの小山
花びらの詰まった莟
「 さぁ 主役の交代よ 」
っと
莟 弾けそう
莟の先に花色のぞかせ
「 待てない 」と
ポツポツポツポツ
いっぱい いっぱい つけている
15
蜘蛛の糸
温かい 春の日差しに
何もかも 生き生き
輝いて見える
緑の葉が 生い茂る
コブシの木と枇杷の木
その わずかな隙間に
小さく 小さく何かが
キラキラ光って見える
気になって 近づくと
濃い緑の枇杷の葉っぱ
柔い黄緑のコブシの葉
その葉と葉の間に
蜘蛛の糸が張られている
張られた蜘蛛の糸は鋭く光る
桜の花びらが一ひら
糸に絡まって ひら ひら
キラキラ輝きながら
わずかな風に 揺れている
蜘蛛には 迷惑な獲物
だが 桜の花びらは
最後に輝ける場所を得て
蜘蛛の糸と 一緒に
キラキラ必死で綺麗に輝いてる
16
けものみち
ポカポカ陽気の朝
周りは みんな春気分
子狸が お山の階段降りてくる
ぴょこぴょこ
二匹の子狸匂い嗅ぎ嗅ぎ階段降りてくる
子狸達よ
出歩くのは暗い夜だよ
さぁ 巣穴へ帰っておいで
寝ん寝の時間だよ
そこは 獣道を切断して
人間が 勝手に作った階段だよ
人間に近ずくな
見つかったら 素早く逃げて帰れ
初めは珍しがって
可愛いなどと 言うけれど
飽きれば すぐに邪魔物なんだ
そして 今じゃ嫌われ物
あの笑顔に 騙されるな
春は こんもり緑の春草
ここは わらびの芽吹く場所
気配がする 怖い人間が上がってくる
さぁ 早く早く 食事と散歩は夜だよ
あぁ~あ 昔はよかった
山の木の実や 草原の虫たち
お山にある食べ物を食べ
自然のおきてに従って
生きてさえいればよかったのに
あぁ~あ 昔の暮らしが懐かしい・・・・・
17
チューリップ
赤いチューリップが一本
プランターの中で目立つ
すくすく真っ直ぐ育っている
「 赤いチューリップは 私だけ 」
春日和の中で 眩しく元気に誇らしげ
夜中に たたきつけるような
激しい雨音を聞いた
翌朝 あぁ~あ チューリップが・・・
強い雨に打たれて折れ曲がって
まるで釣鐘のように地面を向いている
春の日差しは 優しくあったか
一日が過ぎ プランターを見る
地面を向いたチューリップ
も一度 茎を折れ曲がらせて
くねくね曲がったままで しっかり空向いた
青空を仰いだ 赤いチューリップが
凛として青空を見つめて 咲いている・・・
18
蟻ぁー
雨模様の朝
ドアの下の隙間から
”蟻んこ”が
ゾロゾロ ゾロゾロ
中に入って
床を這いまわる
待て待て 待て待て
ちょっと待て
まだまだ シュッと一吹き
殺虫剤の用意なし
後先考えず
とっさに慌てて
掃除機取り出し
戻って見れば
ありゃー
”蟻んこ”まばら
蟻の大群 退いている
”蟻んこ””蟻んこ”どこ
どこどこ どこへ行った
19
若葉
萌えの若葉 色鮮やかに
みなぎる精気 四月の風が
柔い葉っぱ 揺らしている
飛び交う小鳥
小枝に止まって 歌 歌う
雀の群れが 左右に飛び回る
若草 萌える 草むらに
白や黒の蝶々 ヒラヒラ
狸の親子も 顔を出して
みんな みんな
お山の ”すだま” に
操られている 操られている
20
ゆり
そうか・・・今年も逢えるんだね
しっかり根付いた球根から太い茎
真っ直ぐ 力強く息づいている
あの かぐわしい
白百合を その頂きにつけるんだね
君たちは そうやって
毎年毎年 花を咲かせる・・・・
あぁ
去年逢った 白百合の残影が
あの香りとともに
私の脳裏を かすめてゆく・・・・
21
春雷
闇の中 閃光が走る
雷鳴が轟く
浮かび上がる
二人のシルエット
闇の中 閃光が走る
雷鳴が轟く
それぞれが一人で
寒い冬を過ごした二人
相手の温もり むさぼり絡む
閃光が二人を貫く
雷鳴が轟く
激しく降りだした
雨音が二人を包む
悦楽の波が揺れ動く
そして
雨音が止むころ
お互いのすべてを
許し合えた歓び
じっと確かめながら
遠くの雷鳴を聞く・・・・
22
星
夜明け前の空 西の裏山に
赤味をおびた 月が沈む
まだ暗い 五月の空に
満天の星空が広がる
中にキラキラ
大きな星が一つ輝いている
さわやかな空気
咲き始めた白いツツジが
ぼんやりと浮かんでいる
そんな自然の雰囲気に
なんの抵抗もなく
溶け込める 己がうれしい
そして
東の空が白むころ
小鳥が囀り始める
わずかな陽の光を感じて
新緑から深緑に変わる
山の木の葉は生き生き
目を覚ましている
その頭上の西の空で
星たちが ニコニコ
地上を 眺めている・・・・・
23
ツツジ
花 花 花 花 花
赤 白 斑
見事に咲いた
サツキツツジの小山
いくつも いくつも
いくつも並んでいる
かすかに揺れる花
花は漏斗形 先の五裂
中の蕊 チラチラ
蜜の香り群がる蜜蜂
花は漏斗形
さぁ 入りやすいよ
蜜蜂 ブーン ブーン
蜜蜂が中に飛び込んで
足で蕊ゆすり 蜜を吸う
ゆったり ゆったり
ゆったり 花が 揺れる
24
今が盛りか
ツツジも 今が盛りか
土に帰る 花びら
チラホラ落としている
朝早くから
せっせと働く 蜜蜂
囀りに
いっそう磨きをかけた鶯も
今が盛りか・・・・
やがて 梅雨が来て
みんな流されて
その後は
山の鳴き声は あの蝉に
取って代わられる・・・・・
25
おねがい
大祭を終えて
閑静な神社
おまいり定位置
おやしろ前で
先に おまいり
緑のバッタ一匹
急いで飛んだは
いいけれど
鉄の垣根に体当たり
さぞや さぞや
痛かろうに・・・
何か・・・
聞かれて困る
気恥ずかしい
お願い・・・
していたのかな
わたしなんか
いつも いつも
欲にまみれた
気恥ずかしい
お願いばっかり
緑のバッタさん
そんなに大慌て
しなくても・・・
26
硝子の鏡
透明ガラスは鏡 その硝子戸に
小さな小鳥 突っ込んで
ゴツンと強く体当たり
小さな小鳥 ポトリと落ちた
透明ガラスは鏡 むこうの山から
いきおいよく 飛んできて
ゴツンと当たった
ポトリと落ちて 気絶した・・・
外はそよ風 初夏の空は晴れ渡り
山は深緑 陽を浴びて生き生き
囀り小鳥 飛び交う小鳥
透明ガラス そのそばで
ちいさな体 痙攣させて
一羽の小鳥 息 引き取った・・・・
27
ツバメの巣
雀が チュッチ チュッチ飛び回る
緑の風薫る電線でツバメが鳴いている
つがいのツバメが帰って来たんだ
子育て住み家のある場所に・・・
緑の風薫る電線にツバメが二羽
同じ方向見て 鳴いている
(あの二階の軒下にある巣は確か・・)
(そうよ わたし達が作った巣よ・・)
雀が チュッチ チュッチと飛び回る
軒下の白く乾いた巣の周りを飛び回る
おやおや? 巣の周りを警戒し
雀が鳴きながら乾いた巣に出入りする
ツバメが留守の間に ちゃっかり雀が
住み着いた
相変わらずツバメは向かいの電線で
雀の餌運び眺め 何やら鳴いている
つがいのツバメ一緒に飛び立った
戻ったツバメは電線から一階に急降下
一階 軒下に
おぉー あった あったよ一階 軒下に
まだ色の黒い 真新しいツバメの巣・・・・・
28
朝雲
明け行く東の空は
朝霧 朝焼け 七変化
目前浮かぶ影雲 黒い雲
縁取り赤く朝焼け重々しい
ちょいと 突っつけば
今にも雨が 落ちてきそう
外灯ぼやける 朝の屋並み
朝の始まり新聞配達バイク音
空はグングン明かるく
明けて行く
浮かんだ影雲 黒い雲
明け行く空に包まれて上へ 上へ
黒さ薄れて 縁取り薄いピンク色
29
池の鯉
呼吸する 深緑の茂る
木立に囲まれた 小池
大きい鯉が十尾 泳いでいた
小鳥がさえずり
緑の香り薫る朝
大声が
「池の水が干上がっている」
「あぁ~あ」
ため息 つきつき
水を入れ替えている
呼吸する 緑の葉が茂る
木立に囲まれた 小池
小鳥がさえずり
緑の香り薫る 午後
水の満たされた
小池の中を
小さな鯉が 三尾
すいすい すいすい泳いでいる
30
愛の一粒
雨は自然の恵み 一粒 一粒は
小さな 小さな 愛の粒
花ひらいた紫陽花に
雨がシトシトシトシト降り注ぐ
愛の恵みを 小さな一粒の雨に
いっぱい いっぱい詰め込んで
草木も 大地も嬉しそう
びしょ濡れ鳥たち
喜々と鳴いています
愛の一粒 降り積もり
夏の渇きを潤すでしょう
愛の粒が生き物たちに降り注ぐ
31
あさがお
小さな双葉 五月二十八日
狭い箱の土の中から 小さな緑の双葉が顔を出した
小さい 小さい葉っぱが…少しづつ少しづつ大きくなる
これは何だ 凝視してみても分からない 何だ何だ
立てかけてあった種袋 前屈み
ちょっと 指で起こしてみる
朝顔の文字が顔を出す 頭の中に朝顔の花が広がる
つる 六月二十日
朝顔の つるは伸びるよ どこまでも 上に行きたや支えが欲しい
咲いたのです 七月一日
つるが伸び 葉が大きく繁り
あまりカッコ良くないけれど
あまり大きくはないけれど
葉っぱの陰ではあるけれど
わたしは 朝日に向かって
精一杯 咲きました
生きる喜び感じながら・・・・・
ごめんなさい 七月十一日
おくれて ごめんなさい つるは背比べしながら大きくなりました
でも わたしはあせりませんでした自然に身を任せていたのです
それで今朝 やっと咲かせる時が来たようです 朝の数時間を
一生懸命咲いて見せます これからの何日か分かりませんが
精一杯 花ひらいて朝の数時間の命を・・・・
ひと夏の終わり 九月十一日
もう わずかに残る葉も上の方だけ 下の葉は枯れ
今まで支えてくれた 腐葉土と一体に見えています
そして その距離が次第に遠くに感じられてきました
わたしの命も終わりです 最後まで
あなたが 楽しんでくれた嬉しさを抱きながら
ひと夏の思い出を終えます・・・・ありがとう あなた
32
花咲く時空
日差しの注ぐプランターに 百合の花が
両端に 二本づつ並んで咲いている
真ん中の枯れ切った茎に気づかず
何の不思議も感じず綺麗な百合に見入る
百合は勢いよく背を伸ばし葉を茂らせて
その頂きには 青く花袋莟 ふっくら莟
綺麗に開花した百合の花は香りを放つ
花ひらいた百合は 四方を向いて叫んでいる
「わたしを見て わたしに優しく触れて
そして わたしの香りで酔わせてあげる」
誘われて近ずく 上はまだ莟
黄色い 百合が咲いている 咲いている
上はまだ莟 下から花開いる 開いている
かぐわしい香りは そよ風によって
より一層引き立てられ ほどよい酔い加減
目を落とせば足元にはpetunaの花園
しばらくして 我に返った
両端の百合と百合の間に 白く枯れた茎が
おぼろに見えてくる 白い茎が
枯れた茎が 徐々に存在感を増してくる
ハッキリと四月の赤いチューリップが
思い出され 時空の中へ入り込んでゆく
四月の あのチューリップ 茎が 葉が
枯れて 枯れて 枯れ切って・・・・・
夏の陽の中で 細く・・白く・・無言で立っている
33
蝉しぐれ
街中の国道を走る車は ひっきりなし
けっして 静かな日常ではない
バスを降り ビルの玄関前に着いた
と同時に
凄まじい鳴き声に 聴覚は奪われる
ショーン ションションション ジー
耳を劈く蝉の声 ビルの玄関 午前9時
まだ朝なのに 灼熱の太陽の照り返し
今まで ずーと 気にも留めなかった
どでかい一本の木 その木に
密集して立錐の余地もなく葉が繫って
覆いかぶさる深緑の怪物
その一本の怪物から ジージーと
脈打つ鳴き声をバックグランドに
ションションションション ジー
ションションションション ジー
断続的に繰り返す 凄まじい蝉の声
足早にビルの中に 逃げ込む
4時間後 ビルの中から出る
あっ・・蝉の声がピタリと止んでいる
その瞬間・・・・・
日常が 日常ではなく どこか
違う次元が 目の前に広がっている
34
真夏の夜
夏の夜の闇に咲く
花火が 打ち上がる
眼も奪い 心も奪われ
燃えあがらせる
綺麗な残像が
消えぬ間に
また打ち上がる花火
闇の中に咲く花火
花火よ
何を想うて
燃えて咲く
消えては咲いて
燃えあがる
心を もてあそんで
また消える
闇の中に咲く花火
花火よ・・・
心の中で燃え続ける
綺麗な残像は
ひとりぽっちの私を
いつまでも恋しがらせる
35
蟹
蟹は べつに此処に来たかった訳ではない
水路に入り込み 進みすぎて我が帰り道を
探しあぐねているうちに 迷い込んだのだ
ましてや こんな人の大勢いる
ビルの人ごみの中に
「蟹がいる」
誰かが大声を出した
「どれどれ」
人が集まって蟹を取り囲む
前列で 小さい男の子が蟹を見ている
蟹が 壁沿いに少し動く
「坊や 蟹がほしいのかい」
誰かが言った
男の子 はにかむ
やがて守衛が来て 大きな手で蟹を
ひょいと掴んで蟹を見た 少し口元がゆるむ
そして外に出て行こうとする
男の子 急いで母親の許へ行って
母親の袖を掴む 掴んだ袖を黙って引っ張る
「どうしたの? あの蟹がいるの?」
母親が手提げの中から 渋々ポリ袋を出した
男の子 鷲掴みに引き取って守衛の後を追う
透明のポリ袋に蟹を入れて 一目散に
母親のひざ元へ 蟹を眺めて満足そう
蟹は 此処に来たかった…訳じゃないんだ
36
蝶々
ひらり ひらひら
蝶々が飛ぶ
遠い蝉の声
山裾草むら
虫の音にぎやか
石垣 蔦草
小さい葉っぱ
蝶一羽 止まる
翅をゆっくり
たたんだり開いたり
うごかしている
かと 思えば
翅をたたんで
じっとして線に
突如!
ふわっと 飛んで
宙に浮き 滑空する
石垣 蔦草
大きい葉っぱ
翅をひろげ 蝶止まる
にぎやか虫の音
山裾 草むらに
色の同じ蝶が
ひらひら 見え隠れ
37
宵の月
お月さま 母の顔に
似ています
少しふっくらしましたね
でも なんだか悲しそう
まだ明るさ残る
宵の空で 泣いています
秋の草むら 虫が鳴く
ぴらぴら舞うのは蛾か蝶か
だんだん お空も暗くなる
お月さま 「笑って!」
上弦の月は 母の顔
やがて十五夜 来ると言うに
38
思秋
まだ 陽は残っている
いかつい親父が一人
西の空を眺める
山の木立のシルエット
ひときわ大きく鳴く虫は
秋を待ちわびていた
コオロギの仲間たち
この親父
今も無視の居所悪いのに
なぜか?
黙って聞き入っている
ひときわ大きい虫の音は
コオロギの仲間が鳴く合唱
他の音なら・・・
間違いなく「やかましい」
ひとこと怒鳴って
この場所から逃げ出すのに
やっぱり秋の ど真ん中
39
コスモス
秋空の下で コスモスが咲いている
コスモスには 青い秋空がにあう
まだ緑の山の麓コスモスが咲いている
しなやかに しなやかに ゆれる
コスモスには 優しい微風がにあう
しなやかにゆれるコスモスを見ている
遠い日の光景が おぼろに蘇る
初秋の畑の斜面に いっぱい
いっぱい咲いて 微風にゆれている
柔い小春日和の 陽だまりの縁側
老いた母一人 無言のまま眺めている
秋空の下で コスモスが咲いている
丹精込めて見守られたプランターで
精一杯背伸びしてコスモスが咲いている
咲いたコスモスを 今 私は見ている
心地良い 微風を頬に感じながら・・・
40
蛾
黄色い枯れ葉ひらひら
ヒラリ舞い落ちる
黄色い蛾一匹 翅ひろげ
コンクリートの通路で
動かない 斜めのまま
もう日が暮れる
上を向いた蛾の翅が
冷たい風に
ピラピラ揺れる
太めの蛾の胴は粉まみれ
横を茶色の枯れ葉が
カラコロと風に飛ばされ
転がって通り過ぎる
もう日が暮れて
外は真っ暗
戸を開ける
冷たい風が頬に当たる
何者か・・・金粉散らして
中に飛び込んだ
黄色い あの蛾・・・?
電灯の灯りめがけて
翅音たて まっしぐら
目を離したすきに
いずこかに消えた
翌日 朝早くから通路を通る
いるではないか
黄色い 蛾一匹・・・
元いた所に ちゃんといる
斜め上を向いたまま
冷たい風を受けながら
翅を ピラピラ揺らしている
41
母親
流れゆく時は止まらず
今はただ成すすべなく
母の顔 横で見守る
老いた顔に
深く刻まれた しわ
その しわの一つ一つ
じっと見ていると
苦労をかけた日々を
昨日のように思いだす
「ごめんね 母さん」
詫びながら 我が母の
病の床を 後にして
働く思い 我のみぞ知る
42
彼岸に咲く花
暑くもなく 寒くもなく
今歩いている 胸の内は
あまり穏やかとは言えぬ
成すに 成されぬ
日々の思いが去来している
天上に咲くという
白い彼岸花
地上で真っ赤に咲いた彼岸花
無表情に 並んで咲いている
わたしの足音を聞いて
池の鯉がいっせいに浮上して
口をパクパクやっている
すまないねー
わたしはお前たちに
餌をやる人ではないんだよ
43
眺める
神社の境内で
虫の音を聞きながら
空を眺めている
視線の先の空の下には
あなたがいる
刻一刻と暗くなってゆく
暗くなればなるほどに
あなたの面影は
ハッキリ脳裏に浮かぶ
振り払おうとしても
振り払おうとしても
あなたの面影は
わたしの心を締め付ける
そこから わたしは
逃げ出すこともできない
ただ 空を眺めているだけ
いつの日か 忘れてしまえる
その時が 来るまでは・・・
44
秋恋
穏やかな昼下がり
山の木の葉が揺れています
そよ風に ゆらりゆらゆら
白い蝶が 木の葉の合間を
ヒラヒラヒラヒラ飛んでいます
穏やかな昼下がり
山の木の葉が揺れています
秋恋に 色づきながら・・・
あなたと わたしの
シルエット
ゆらりゆらゆら揺れています
穏やかな昼下がり
色鮮やかなに 紅葉しながら
山の木の葉がゆらゆら揺れています
45
恋風
さしたる風ではないが揺れている
ゆれているのは わたしの恋心
外吹く風は秋風 気持ちの良いもの
微妙に揺れ動かす奴は 何者
揺れは徐々に大きくなる
何かに掴まりたいのに掴まれない
おまえに会えない寂しさという奴
「あなたにが恋しい」などと
おまえがメールしてくるから・・・
46
恋心
天高く などと言う秋晴れの一日だった
朝は ちょっぴり蒲団の中に未練が残る
起きて いつものように一日が始まる
そして…あなたに会えず今日も終える
夜の帳が下りて ひとりの夜がやってくる
あなたへの想いが張り裂けそうで
外に出てみる 暗くて何も見えないが
いる筈のない あなたの姿を懸命に探す
ひとり寒さに耐えながら夜空を見上げる
満天に輝いている星・・・・・
知らぬ間に 恋しい願いを そっとつぶやく
47
おやすみ
あなたは今 とても綺麗ですよ
燃えるような その紅葉は
おやすみ前の お化粧ですか
風に揺れる その輝きは
お仕事を終えた 自信ですか
その優しさは また芽吹く日を
夢見ているからですか
あなたは今 とても綺麗ですよ
これから長い冬ですね
春の目覚めまで ゆっくり
ゆっくりと おやすみなさい
48
冬至の雨
雨上がりの空中を
ぼんやり眺める
山頂に 天霧が
立ちのぼる
目の前の草木は
雨に洗われ
ほこりが落ちて
輪郭がはっきりし
わずかに吹く風に
微妙に揺れている
きれいだなーって
柄にもなく思った
我が身は邪心を洗われ
寒さだけが沁みてくる
49
冬模様
晴れていたと思っていた空が
にわかに 雲におおわれた
隠れた太陽から にぶい光
枯れ葉の木立 風にゆれ
枯れススキが 風にゆれ
黒い一羽のカラスが空を飛ぶ
白い 白い雪が舞い始める・・・
50
しあわせ
今 眠ることを考えている
布団の中で
身体も温まってきた
空腹でも満腹でもない
今は ただ眠ることだけを
これも しあわせなのだろう
51
至福
今日も一日 無事に過ごせたね
ゆっくり休んで
明日も元気に過ごそうね
毎日 同じ言葉で終わるけど
あなたは
もう 飽きてはいませんか
でも わたしは
こうして
あなたに言えるときが
至福のときです
いつも
おなじ言葉で ごめんなさい
52
小さな自転車
建物にさえぎられた隙間から
遊園地の一部が見える
その視界の真ん中に
小さな ピンクの
かわいい自転車が一台
ポツンと置いてある
どうしたのだろう
ちょっと前に歩いて
視界をひろげてみる
あっ いた いた
小さな かわいい 娘<おんな>の子
ピンクのブルゾン
かっこいいピンクのヘルメット
自転車乗りの準備体操かな?
そばで 白髪のおじいちゃん
にこり にっこり顔を崩している
53
朝霧
明けゆく朝 表面穏やかな海
朝の瀬戸内 冬の海
海上をただよう霧は 湯けむり
小島に囲まれた狭い海は
タオルでも頭にのせて
入って浸かっても似合いそう
表面穏やかな海も
海底の潮の流れは早い
対岸には 工場の煙突が見える
暫く経ち霧は晴れ湯けむり消えて
ひと時 朝の爽やかさを
冬の陽が包み込んでくれるだろう
そして あの工場の煙突から
モクモク煙が立ちあがる
煙が空を覆いはじめ 海に映る
その時
表面穏やかさを よそおっている海は
さざ波をたて映る煙をかき消すに違いない
54
あかり
該当の あかりだけが
眩しいほどに目について
カーテンを閉める
あかりのない場所が
何故か恋しくなって
山側の裏木戸を出た
あの明るい外灯などない
冷たい風を吸い込む
眼が慣れるにつれて
懐かしい やわらかい
薄明かりの世界にひたる
空に黄色い半月の月がある
55
雨音
けだるい朝の目覚め
耳の底に雨音が聞こえる
カーテンを開ける
ガラスに付着する水滴
外は何も見えない
着替えをして外に出る
ひっきりなしの雨音
雨が落ちて弾ける音
軒先から落ちる
大粒になった雨水
空はまだ黒に近い灰色
向かいの家の明かりに
降り続く雨粒が見える
56
冬の立ち木
枯れ葉が落ちて裸になった木の幹は
冬空に向かって立っている
幹の中では もう
来春に向かって躍動していることだろう
冷たい北風に吹かれながら・・・・・
57
たそがれ
まだ かすかに夕日の残る空
数分前 数羽のカラスが
シルエットになって飛んでいった
かなしい歌 うれしかった歌
今日への別れの歌 歌いながら
58
万両の赤い実
薄く霜に覆われた
濃い緑の葉の下で
真っ赤に燃える万両の実
やわらかい朝日をあびて
キラキラと輝きながら
生き生きと霜をとかしている
59
つぼみ
一昨日以来続いた雨
連夜風も吹いていた
雨の止んだ朝
風に吹かれた枯れ葉が
雨に打たれた椿の花が
地上に落ち散乱している
梅の木の下で
もう盛りの過ぎ去った
小菊の花が
足元から葉を枯らして
梅の木にもたれかかり
ようやく立っている
花の生気は消え失せ
終わりを静かに待っている
梅は勢いよく葉を茂らせ
雨の水滴をからませて
生き生きと呼吸をしている
梅の緑の葉に見とれながら
緑の葉を一枚一枚丹念に凝視
「うわぁ!」
その枝に その枝に
小さい 小さい 小さい
莟がいっぱい
その蕾の先っちょに赤色覗かせて
「私は紅梅よ」と叫んでいる・・・
60
みそか
自然に 生かされていることを
知った時から”古人”は
空を仰ぎ見 眺め
いろんな現象を眺め
命をつなぐ為に己を見詰め
月を 太陽を 自然を
見詰めながら暦を作った
そして
西暦の大晦日
わたしは自然の恵みの中
冬の太陽の光を浴び
呼吸しながら・・・立っている
了
「自然の中で生かされている事を忘れることなかれ」作者はそう言い聞かせている。