野心男子に類なし
橘・・・大悟
テストの順位が発表されるとき、
いつも俺の下に書いてある名前だった。
その名前を発見したのと同時に、
いつも視線を感じていた。
「また睨んでるよ、橘のやつ」
「瀬戸くんのこと、ライバル視してるんじゃない」
いつも俺のことを見ていて、
逆に俺が見ると目をそらして去っていく。
橘大悟。
成績は良いけと人付き合いの良くない彼の評判は、
あまり良くなかった。
ただ橘のその視線は、
すごく心地よかった。
こう言うと偉そうに聞こえるかもしれないけど、
俺は要領が良いのか、なんでもそつなくこなすことができた。
問題が解けなくて悩んだこともなく、
運動ができなくて悩んだこともない。
楽譜だって読めば理解できたし、習字だって慣れればそれなりに上手く書けた。
特に手入れをしているわけでもないのに、肌は荒れないし、
何を飲んだわけでもないのに身長は伸びた。
・・・努力をしたことがなかった。
それは羨ましがられることなのかもしれない。
でも当事者からすると、そんなに魅力的なことでもなかった。
だって、何かをしたいとか何かが欲しいとか、
そういう欲求すらも沸かないんだから。
1位だって、なりたくてなったわけじゃない。
ただ普通にテストを受けたら1位になった。
それだけのことだ。
だから、1位になりたいと努力しているであろう橘のことが、
とても羨ましかった。
その情熱が、羨ましかった。
ところが、その情熱がどう捩れてしまったのか、
俺は橘に捕らえられてしまった。
全裸で写真を撮られて・・・
ものすごく怖かった。
でも抱かれることに抵抗はあるものの、
それほど嫌じゃなかった。
だってその間、橘はずっと・・・
俺を見て、俺のことを考えてくれるから。
きっと橘に抱かれたときから、いや、その前からずっと・・・
俺は橘のことが、好きだったんだ。
「うわっ!」
突然、座っていたソファに押し倒された。
犯人は・・・橘だ。
「な、なにを・・・」
「お前、何考えてんだよ。テレビと俺と交互に見やがって」
「え?嘘だ」
「嘘じゃない。チラチラチラチラ、なんなんだよ」
「み、見てない」
「・・・・・・そうか」
「ひゃ・・・っ」
橘の手がシャツの中に潜り込んできた。
冷たい手。
だけど俺は知っている。
橘がとても、熱いことを。
「犯してほしいなら、ちゃんと言え」
「・・・・・・思ってない」
橘。
上を目指して。
俺を意識して。
お前が思ってくれているから、
俺はお前より上でいられる。
俺をもっともっと、欲しがって。