雪女の赤い手袋
このあたたかい街にも木枯らしは吹いて、みんなの体を震わせます。
そんな街の片隅で、男の子と女の子が誰にも知られず会っていました。、
トムという名のその男の子は、
「ロケットにまたがって空を飛べたら」
とか
「人に親切にするのがいいならなんで公園に住んでる人は追い払うの? 」
とか自由な心でいろいろ話す子で、両親には「困った子供」と言われていました。
特にトムが近所の人たちを
「となりの人が死のうが気にも留めない人たち」
と言うのには、逆にトムの方を怒る始末でした。
「私のお母さんは雪女だったの」
両親に怒られ街の片隅でくさっていたトムを慰めてくれた女の子はそう言いました。
「あたたかいこの街にいられなくなって、北の国に帰ったの」
お母さん手づくりの「お守りの赤いマフラー」は彼女の宝物で、トムにも触らせてくれません。
そんなある日のこと、トムが大切にしていた「秘密基地」が消えていました。
「あれはもう使えない、机とかイスとかの、ゴミだったじゃないか」
両親や大人たちはそう言います。
「あんなものを貯め込むなんて、まったく迷惑な奴だ! 」
と怒りだす者さえいました。
「もうイヤだ! この街から出て行く! 」
女の子がいくらなだめてもトムはそう言いだして聞きません。
「あなたが街を出る前にどうしてもあげたいものがあるの。それが出来るまで待って」
女の子がトムにそう言い聞かせてから数日後、彼女の首から赤いマフラーは消え、トムの赤い手袋が出来上がっていました。
「これがあなたを守ってくれる。私が編み直したの。大丈夫。いつまでもひどいことばかりじゃない」
その翌日、街に大雪が降りました。
あの薄汚れた街も薄暗い裏道も、みんな真っ白になりました。
「お宅は大丈夫でしたか? 」
「おかげさまで。そちらはいかがですか? 」
街の人たちはお互いを気遣いあい、あの無関心な様子とはまるで別人のようでした。
「トムや、お前の秘密基地を作ったぞ」
大雪で仕事に行けないトムの父は、大きな雪の山に穴を掘ってトムのための秘密基地を作りました。
「すごいや! あの子の言った通りだ! 」
……だけどそれ以来、トムが女の子と会うことはありませんでした。
しばらくすると街やまわりの人たちは前のように戻ってしまいました。トムがいやな思いをすることも多々ありましたが、その手には必ずあの赤い手袋がありました。
”これがあなたを守ってくれる。
大丈夫。
いつまでもひどいことばかりじゃない”
……そう囁きながら。
(終)