誘惑×炭酸÷アルコール
「誕生日おめでとう」
月並みな台詞と共に、私に渡されたのは、ワインボトルだった。
私の誕生日。パーティーにこぎつけてあなたの自宅で遊んでたときだった。
ワインボトルの中身は透き通った金色で、あなたが歩く振動に揺られてシュワシュワと泡を立てていた。
コルクはしっかりと閉められていて、ラベルは貼ってないけど人目でわかる。
・・・シャンパンだ。
「えっ? ちょっと・・・私たちは、未成年っ!」
「だから何?」
私の戸惑いに、彼は即答した。
「『だから何?』じゃなくてっ! ・・・ぁあ、何ていうか! 本気なの?」
「うん、本気」
って言ってる間に、あなたはワイングラスを2つ取り出して、私に差し出してくる。私は渋々グラスを受け取るけど
「本当に飲むの?」
「うん」ってあなたは頷いて、コルクを開けた。パンッってコルクは飛び跳ねて、キレイな弧を描いてから壁にぶつかった。
ボトルの小さな口からは、甘い香りが漏れていた。小さく聞こえる炭酸の音がシュワシュワって、とても心地いい音だった。
トクトクトクって、あなたは自分のグラスにシャンパンを注ぐ。グラスが金色に光って、また気泡でその光が分散して、とてもキレイだった。宝石みたいに、美味しそうに輝いていた。
次は私のグラスにトクトクと注いだ。宝石のお酒を手にしていると、すごく悪いことをしてるみたいだった。
お酒が初めての私はそのグラスを口につける勇気が出ない。
ところが、あなたのグラスではもうシャンパンがなくなっていて
「あぁ、美味しい!」
「ちょっ・・っ! そんな一気に飲んだら・・・」
「大丈夫だって。それより、飲まないのか?」
「えっ?」
急にあなたは顔を急接近させて、私をじっと見つめる。このまま10cmも顔を近づけば、鼻と鼻が当たりそうな、そんな距離感だった。
あなたはとっくに頬を紅くして、瞳はすでにとろんと溶けていた。もしかして・・・いや、もしかしなくても・・・酔ってる?
「ちょっと待ってっ・・・近いってっ」
「・・・怖いの?」
あなたがからかうように尋ねるから、私も少し引けなくなって
「別に、怖いわけじゃないけど・・・」
「しゃあねえな」
・・・え?
あなたは私のグラスに口をつけて、ニコッって笑うと、私にキスをした。
突然すぎて、私は何の反応も出来なかった。口の中を通る甘い液体をそのまま喉にスルーパスしてしまう。
気泡が口の中でパチパチと暴れるけど、別段お酒のような変な味はしなかった。
唖然とする私に、あなたは濡れた唇でもう一度笑った。
「ばぁか。シャンメリーだって」