ダメ人間の幸せ日記 運動会
君は人の前に立ったことがあるか。
人の前にその人の代わりとなって表に立ったことがあるか。
人の前に立ち、堂々と能書きを垂れた後、
ものの見事に墓穴を掘ったことがあるか。
人間、負けると思っていてもやらねばならないことがある。
負けると思っていなくても負けることがある。
そういうことだ。
(どういうことだ?)
あれは、俺の5歳の時に起きたことだ。
人生初の晴れ舞台に立った時のことだ。
モモ組で1番可愛いいモニちゃんや憧れのアン先生の前で、
一世一代の宣言をした時のことだ。
俺の体は小さかった。
モモ組で1番体力がなかった。
体は軽く筋力も少ない。
多分に漏れず男の子だから口の回転も女の子には負けた。
同い年であっても
となりんちのバーバラちゃんのほうが心も体も圧倒的に強かった。
そんだけ俺は弱かった。
けんかをしたらまず負ける。
こぶしをを使っても口を使っても。どちらも負ける。
たぶん頭も弱かったな。
負ける勝負はしたくなくても、そこは幼さゆえの未熟さ。
勝てるはずもないのに勝負に出てしまう時がある。
思い出すだけで目頭が熱くなる。
哀れ、俺。どんまい、俺。
そんな事はどうでもいい。
今、語りたいのは、晴れの舞台で起きた、トラウマな出来事だ。
あの時俺は一瞬でもヒーローだった。
お受験で合格した幼稚園。
普通なら、金もコネない一般庶民な一園児が、園の代表になるなんてことは稀であろう。
そんな俺が何の陰謀に巻き込まれたか、秋の運動会の開会宣言をする人に選ばれた。
家族は喜んだね。
うちの子はやっぱりすごかった。とか
絶対見に行くから頑張ってね。とか
従妹の姉ちゃんも目を輝かせて、喜んでくれていた。
俺だって自分が誇らしかった。
注目セヨ。この俺を。
ばっちり決めて、女の子たちをメロメロにしてやんぜ。
そんな気持ちで臨んだ。晴れ舞台。
『これより第○回運動会を始めます』
園長先生の立った場所と同じところに立ち、
眼下に並ぶ下々を眺めながら。
日頃のうっぷんを晴らすべく、高々と開会宣言した俺は、相当な優越感を味わっていた。
モモ組のモニちゃん見てくれてるかな?ちら。目が合った。
うひゃひゃひゃひゃ。
俺、最高。
にやける顔を感じながら、お辞儀をした瞬間。
頭がマイクに当たり、マイクが地面に落ちてった。
一世一代の晴れ舞台は一瞬でコントに早変わり。
助けて、アン先生。
ドヤ顔は半泣き顔へ。
ダメ俺人生の始まりだった。
fin