カナカナとなく冬のセミ
セミを見つけた。木にとまっていた。なんてことはない街路樹だったけど、セミがとまっているからか、何故だかその木だけ他とは違って見えた。
セミはないていた。カナカナ、と。ひとり寂しく、カナカナ、と。
雪が降ってきた。もう冬も半ばだから当たり前だと思う。シンシンと降る雪と、カナカナとなくセミの組み合わせはどことなく可笑しくて、僕はふふふ、と声をもらした。
「おや、そこに誰かいるのですか」 僕に気付いたのか、セミが話しかけてきた。
「僕が、いるよ。」 僕は答えた。
「やあ、初めまして」
「初めまして。」 すると、セミは尋ねてきた。
「どうか、私のお願いを聞いていただけませんか」 ずるい言い方だな、と僕は思った。別にセミがずるいとは思ったわけじゃないけど、ただ、そんな言い方のできる言葉を、僕は、ずるい、と思った。
「いいよ。」 でも、なんだかよくわからないけど、僕はそう答えていた。
「なあに、簡単ですよ。しばらく私の話し相手になってほしいのです」 と、セミは言った。
「話し相手。」
「そう、話し相手です」
「それはまた、どうして?」
「それは、ほら、私はセミでしょう」
「うん。」
「それで、セミというのは、ふつうは、夏にいるものでしょう」
「うん」 でも、今は冬だ。
「だから、私にはいま、話し相手が、いないのですよ」
「そっか、それで、僕に」 なんだか僕は寂しくなった。
僕は、セミは寂しいんじゃないかと思った。そうなると、もう、セミが最初からずっと寂しいとしか感じていないんじゃないかと思えてきて、なんだかそれがあながち間違っていないように感じた。
「ねえ」 だから、僕は尋ねた。
「はい、なんでしょう」
「ねえ、君は、寂しいの?」
「寂しい、ですか…、んん、どうなんでしょうね」 セミはどこか悲しそうに答えた。
「わからないの?」
「いいえ、たしかに寂しいのでしょうね、でも、私はもうそんなことを思う心もなくしてしまったみたいですよ」
「でも、こころは、なくなったりしないよ」
「ふふ、そうなのかもしれませんね。」 そういったセミの声は、やっぱり寂しそうで、悲しそうだった。
「そうだよ、きっと。」
「そうですか」
「うん」
「ええ」
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「それじゃあ、僕は、そろそろいかなくちゃならないから」
「はい、そうですか、残念ですね」セミの声は、やっぱり同じだった。
「うん。でも、じゃあね」
「あの、また、来てくれませんか?」
「話し相手になるの?」
「ええ、是非」
僕はふふふ、とわらうと、セミに背を向けて、町の中へとあるいていった。
ありがとうございました