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第一章 六話 お出掛け(後編)

ばーーくーーはーーーつ

雛里SIDE


「…一刀さん!」


一体どこにいるんですか、一刀さん……


「一刀さーん!!」


あ。

あの細道から出てくる人って……


「一刀さん!」

「……!士元か」


こっちに気づいた一刀さんはゆっくりとこっちに来ました。


「買い物は終わったのか?」

「それどころじゃありません!」

「……?」

「一体どこに居たのですか」

「いや、ちょっとな……ううん…ちょっと見物のため見回ってたのだが…探してたのか」

「当たり前です。どうしてちゃんと待っていないんですか」

「……何もそこまで怒ることはないだろ。何かあったのか」


キラキラっ


「……あ」

「?」


時は日が頂点に昇る頃。

一刀さんの服は、朝よりも更に強くなった日差しに輝いていました。


「…一刀さん、今直ぐ脱いでください」

「え?」

「いいからその上着脱いでください!」

「わわわー、わかった。わかったから……!」


私が無理矢理上着を引っ張って脱がそうとすると、慌てた一刀さんは急いで上着を脱いで自分の腰に巻きました。

が、まだ輝いて目立ちます。


「あわわ……」

「…なんだ?どうしたのだ?」


一刀さんは私がやってることがわからなくてそのまま私を見つめてます。


「あの、実は…一刀さん」

「あ、そうだ。士元」

「はい?」

「買い物は済んだのだな」

「はい?…はい、そうですけど」

「丁度いい。孔明と会う前に少し付き合ってくれ」

「え?」


<pf>



一刀さんが私を連れてきた場所は街のある高価な飾りを扱って居る店でした。

宝石や女の人の指輪、首飾り、壁に飾るための装式用剣など、いろんなものが揃ってます。


「店主」

「一刀さん?」


どうしてこんなところに……


「はい、どちらさまでしょうか」

「少しいいか」

「結構ですが、どのような用件で……」

「商談だが、こいつをどのぐらいの値段なら買うかね」

「あ」


分かりました。

朝言っていた一刀さんの時計。

一刀さんはここにそれを売るつもりです。


……あれ、でもそれってこんなところに売ってしまったら……


「…これは…?」

「時計だ。手首に付ける仕組みになっていて、東方の匠が作ったものだ」

「……少し見せていただいても…」

「お好きに」


一刀さんが時計を店の人に渡すと、店の人はそれを宝石の傷を見るときに使う小さな拡大鏡で見ました。


「ものはほぼ新しいものと同じですね。うまく保管されていたようです」

「それも重要だな」

「もちろんです。恐れながら、わたくしの店に来ている方々は皆この辺りの方の中でも裕福な商人や貴族やその若様など。質はわたくしの店で一番大事なものです」

「が、その物件は他の宝石や金銀のものとは違う。大事なのはそれがこの大陸でたった一つだけのものだと言うことだ」

「…たしかに、手につける時計など聞いたことがありませんね。失礼ながらこれはどのような方法で手に入れたのでしょうか」

「それを知らせたら商売にならん。東方の海を渡ったところから持ってきたとだけ言おう」

「こんなものがまたあるのですか?」

「そういうのは、それ一つしかない。それをつくった匠も今は居ない。もう当分そのようなものを作れる人は現れないだろう」

「なるほど………」


店の人は商人の顔になってもう一度その時計を見てみたり、自分の手首に付けてみたりします。


「どうする、買うか?」

「……良いでしょう。お値段はどれぐらいで?」

「……」


お値段のことを聞くと、一刀さんはそこに座って私を目線を合わせました。


「士元」

「な、何ですか?」

「……鶏一匹ならいくらだ?」

「……………え?」


なんですか、その基準!?


「えっと………ぐらい…」

「じゃあ、それを十倍すれば」

「……ぐらいです」

「じゃあ、千倍」

「……一刀さん、もしかして」


そんな価格であれを売るつもりですか?


「そんなのボッタクリですよ」

「大丈夫。金の単位が知りたいだけだから」

「えっと……」


私は値段を言うと、一刀さんは笑って立ち上がりました。


「店主」

「そして豪快に言いました」

「××××で、どうだ?」


それは……鶏で言うと1万匹分の値段でした。





「……そのような値段、聞いたことがありません」

「そして、店主もそのようなものは売ったことがない」

「そのとおりです。だからこそ、このようなものをそんな値段で買うわけにはなりませんね」

「……」

「この店で一番高い宝石でも、それよりは安いです」

「店主、さっきこう言ったな。自分の店には多くの金持ちたちが通ってると」

「そ、そうですが……」

「その中で、いきなり金持ちになった部類の人たちがいるだろ?例えば……朝廷の宦官たちに賄賂を入れて一気にあがったものや……」

「………」

「そいつらの息子や娘にこれを売ってみろ。今俺が言った何十倍の価格でも、世界でたった一つの宝石だとボッタクったら家ごとお前に与えてくれるだろう」

「…………いくらなんでも、その価格はこちらには払えそうにないですね。×××ならどうですか?」

「仕方ないね。それじゃあ、××○で。じゃなければ、それをこのままあそこの豪族の家に俺が仕上げた価格の二倍に売ってしまうぞ。それならお前には何の利益もあるまい」

「うぅぅむ………」


店の人は少し唸ってました。

こんな金、まるで聞いたこともありません。

一刀さんは一体そんな金で何をしようとしてるんでしょうか……


「いいでしょう。×○×です。これ以上はこちらとしても払えません」


店の人が言った価格は一刀さんが言った値段の五分の一。つまり鶏でだと二千匹です


「……まぁ、初商談だ。それぐらいで負けてやろう」

「宜しいですか」

「結構で。先払いで一割をここでもらおう。物はここで預かっておけ」

「いいでしょう。ご安心を、わたくしは客からの信頼を食べて生きる商人ですから」

「……信用しよう」


一刀さんは、時計をその人に渡しました。



<pf>



そうやって、一刀さんには今、鶏二百匹分の…


「もう鶏はいいです」

「何の話だ?」

「なんでもありません」


それより、


「そのお金、どうするのですか。もしかして、本当に鶏を……」

「じゃなければ鶏単位で聞いてないだろ」

「やっぱり……」

「まぁ、鶏だけだとつまらないか……他に豚とか…この中国だから羊の肉とかも売ってるんじゃないか」

「もしかして、そのお金で、全部肉を買うつもりですか」


今日のお肉屋さんのおじさんたちは売上げが絶好調になりそうです。


「……あ、そういえば…」

「何ですか?」


そういえば、一刀さんを探してたのって、何か言いたいことがあった気がするんですけど……

何かもう、頭の中に鶏の話しか残っていません。


「俺のせいで二人の飾りが買えなくなってたな」

「……あ」


そういえば、朝ご飯抜いて二人で飾りを買おうと思ってたのに、一刀さんにバレてしまって……


「金はあるし…借りもある。返さない理由はない」

「え?じゃあ……」

「取り敢えず孔明のところに行こう。話はそれからだ」

「……はい!」


この時はすごく嬉しかったです。


・・・


・・



「二人とも私を置いてどこに行ってたんですか!」

「「すみません」」


今はすごく辛いです。

街の真ん中で正座されて、一刀さんと一緖に朱里ちゃんの説教をうけています。

こういう時の朱里ちゃんは、百合お姉ちゃんを思い出させます。


「心配したんだよ!」

「いや、孔明、実は俺が…」

「北郷さんのことは心配していません!」

「だろうな」


即座にそっぽを向いて口を閉じます。

あれ、一刀さん、拗ねてます?


「雛里ちゃん!」

「は、はい!」

「今まで北郷さんと何処行ってたの?」

「え、えっと……時計を店に売ってて…その前は街で一刀さんを探していて……その前には……」


あ。


「あわわー!!」


思い出しました!


「はわっ!な、何急に叫びながら立ち上がっちゃって」

「あのね、朱里ちゃん。さっき掲示板でこんな話が書かれていて……」

「俺はいつまで正座してればいいんだ?」

「北郷さんはそのままでいいです。立って話すと頸が痛みますから」

「そうか。それはたしかに良くないな」


というわけで一刀さんは正座のままで、私は掲示板で見た予言のことを二人に話しました。


<pf>


「それって……じゃあ、北郷さんが……」


話を聞いたら、朱里ちゃんもどういうことが気がついて一刀さんの方を見ました。


「道理で先俺に上着を脱げって言ってたのか」

「え!?雛里ちゃん…こんな真昼間になんてことを……」


え!?何か視線がこっちに傾いてる!?


「あ、あわわ、あれは、ほ、他に邪があったわけではなきゅ…!単に輝いてる服を着ていて人たちに目立ったら危ないかなとおもっただけででしゅね」

「……とはいえ、さっきまででも俺は普通に街を歩いていた。別に人の服が輝いてるとか、人は気づかないし、気づいたところでその人の服が輝いてるからって自分たちを救う天の御使いとなんて思わない」

「一刀さん?」

「俺の世界でも良くあった話だ。時代にて終末感を感じる時、いろいろな予言がある。救世論、滅亡論、だが、結局どっちもその結果を出すのはその時を生きる人間たちの仕業だ。天から落ちてきた胡散臭い天の御使いじゃなくて…な」

「でも、実際そんな予言をした人が居ますし、一刀さんはここに来ました」

「ただの偶然だ。度が過ぎたインチキ占い。ただ……」


その時、きのせいでしょうか。

一刀さんの顔が少し笑ったように見えました。


「乱世を鎮めるか………それが俺がこの世界に来た理由というもの……俺が目指すべき目標ということか……人間一人に背負わせるには荷が重すぎる」

「こんな時代です。もしこんな話が本当に大陸中に広まっているとしたら、それを信じる人たちも多いはずです」


朱里ちゃんも真剣なかおで言いました。


「人は自分に出来ることをしなければならない。自分で全力を出さない者には、天も手を伸ばしてくれない。それがこんな紙で人が誑かされるのなら、人たちは自分たちで自分たちを守る意志を失うかもしれない」

「だ、だけど、天の御使いは実際にこうしているじゃないですか」

「俺に何の力があって天下を鎮める……俺は知らない世界に落ちた人間。力も知識も足りない。人たちが求めるようなことが出来る神のような存在ではない」

「…………」

「結局、あの文が本当か否かが問題ではなく、それを信じるか否かが状況を変えることになるでしょう」

「もし信じる人が多くて、人たちが本当に天の御使いを求めるなら、それを名乗る者も現れる。朝廷に力が残ってる今のうちはまだ静かだろうけど、そのうち現れては人たちを誑かすだろう。そして、天を取ろうとする英雄たちもまたその天の御使いを名乗るか、もしくはそういう連中を手を組む。そうすると乱世は更に加速するだろう」

「そんな……」


二人の話を合わせると、

結局あの予言は世を乱れを更に深くすることでしかないというわけじゃないですか。


「と、それはそうとしてだ」


咄嗟に、一刀さんが正座から立ち上がりました。

少し足がビリビリしてるようでしたが、顔にはあまり出ていません。


「孔明、買い物などはもう全部済んだな」

「あ、はい、二人が居ない間、待ってるだけでもなんでして、残った用事も済ませました」

「丁度いい。朝のご飯のお礼だ。行こう」

「え?どこに……」

「あ、一刀さんが時計売った金で私たちのお飾り買ってくれるって…」

「はわ!い、いいんですか?」

「まぁ…金が許す範囲内でね」


いっておきますけど、私たちが買おうとした飾りなんて、にわ……


あわわ……


<pf>


「雛里ちゃん、これなんてどう?」

「えっと……ちょっと派手じゃないかな。あまり高いものにすると、他の娘たちにどうやって買ったのかって聞かれちゃうし」

「はわわ…それもそうだね」


というわけで、私たちは朝見ていた飾り屋さんのところに来ています。

飾り屋っていっても、一刀さんが時計を売っていたような豪華なものを扱うところではなく、普通の庶民の人たちが使う飾りなどを扱ってるところです。


「決まったか」

「あ、もうちょっと待っててください」

「………」


一刀さんはあまりこういうのには興味がないらしく、外で私たちが選ぶのを待っててくれています。

今度はどこかにいってしまわなければいいのですが……

後、あまり日に当たるところにも……


「……!店主」


と思ったら、突然一刀さんが店の人を呼びました。


「はい、なんでしょう」

「あれは……?」

「ああ、お客さん目がいいですね。今日新しく入ったものでして……狼の皮を使った手袋です」


一刀さんが見たのは手袋。指のところはなく、手のひらの部分だけはめるものです。

でも、何故か一刀さんの顔が暗いです。


「…狼というのは…あの水鏡塾の山の裏のものか」

「!どうしてそれを……」

「……あいつ」


眉間に皺を作りながら一刀さんはその手袋を取りました。


「……もらおう」

「はい、ありがとうございます」

「………」

「一刀さん?」


その日、一刀さんは帰るまでずっと顔を暗くしていました。


……ちなみに飾りを買ったお金以外には本当に全部鶏を買いました。




<pf>



その日の夜のことです。


朱里ちゃんから、その日買った自分たちのものを整理していました。


「あれ?」


そしたら、私が買った本の中に、自分が選んでいないものが入っていました。


「朱里ちゃん、これ、私のじゃないけど…」

「え?でも、雛里ちゃん、私に本くれる時それも一緖にあったよ?」

「あわわ、そうだったの」


間違って取っちゃったかな。

どんな本だろう。


ぴらっ……


………



「あ、あわわー!!」

「はわっ!何!何!!」


すごく驚いて本を閉じました。


「どうしたの、雛里ちゃん、夜なのにあまり大きな声するとびっくりするじゃない」

「な、なななな、」


何あれー!


男の人たちが……!

男の人たち同士で裸で絡みあって…!!


「えっと……何々……」

「朱里ちゃん、だめ!それは…!」


私が落とした本を、朱里ちゃんが開いて読み始めました。


「ふむふむ…」

「……朱里ちゃん?」

「…考えだけだと新しいけど、文章はいまいちだね。こういうのは読者の想像力に任せるってものじゃないよ」

「朱里ちゃん?」


何か冷静に評価してる。


「朱里ちゃん、なんともないの?」

「へ?」

「だって、男の人二人で……おかしいじゃない」

「…雛里ちゃん、今の時代はね。恋愛は男と女の間のものだけではないと思うの」

「…へ?」


何を……


「そう、あの最近北で有名になっている曹嵩さんの娘、曹孟徳だって、女の子が好きで男の人はまったく側に置かず、毎晩その閨の中では女の人の嬌声が上がると言うよ。それなら…!男同士の、友情を越えた「愛」があってもおかしくない!」

「朱里ちゃん、落ち着いて!」


こんなの私が知ってる朱里ちゃんと違う!


「そう!いや、むしろ男の人の間の友情なんて実は全部嘘だよ!男同士の友情なんてあるはずないもん!実は好きなのに、それを隠すために友情という安易な言葉が生まれたんだよ」


いやああ、朱里ちゃんが壊れてるー!


「そうだ。雛里ちゃん」

「ひっ!」

「な、何か怖い」

「ほら、雛里ちゃんも一緖に読もうね。こんなのじゃなくても、私が他にいい作品たくさん買ってきてあるから」

「わ、私、ちょっと一刀さんのところに行ってきくるね。あの鶏どうするのか気になるし…先に寝てて…行ってきましゅ!」


逃げよう!

朱里ちゃんが寝るまで!


<pf>


一刀さんの部屋に付いて直ぐに門を開きました。


がらっ!


「一刀さん!」

「なっ!」


………


「……あわわー!!」


・・・


・・



少し時間が過ぎて、


がちゃ


「……鳳士元?」

「あ、あの、ごめんなさい」

「…いや、鍵締めてなかった俺のせいだ」


なんといいますか……

さっき本の中に出てきた男の人たちより体がすごかったで、あわわ!なんでもないです!


「って、あれ?それを持ってどこに行くんですか?」

「うん?ああ」


一刀さんの背中と両手には、今日街で買った調理してない鶏がたくさん入っていました。

かなりの数なのに、持っていて重くないのでしょうか。


「ちょっと出かける。他の人たちには言わないでくれ」

「こんな夜にですか?………私も一緖に行きます」

「いや、鳳士元は…」

「じゃないと、水鏡先生に言いに行きます」

「……わかった」


仕方ないなと言いながら、一刀さんは私に以前見たランタンを渡しました。


「ちゃんと持っていてくれ。今度は間違って足元を見間違っちゃいけないからな」

「あ、はい…」


<pf>



塾の後門に出た先に、随分と奥まで入ってきています。


「か、一刀さん、ちょっと深く入り過ぎじゃないですか?」

「これぐらいじゃないと、今あいつらなさそうだからな」

「どういう……あ」


まさか、一刀さんがここに来た理由って


「まぁ、ここぐらいでいいか。すーー」


息を吸った一刀さんは、


ひゅううーーーーーーーーーーーー


長く強く口笛を吹き始めました。


「一刀さん、もしかしてあの狼たちを……


ひゅーーーーーーっ


「そうだよ」


口笛を止めて一刀さんは答えました。


「どうしてですか?せっかく無事に戻ってきたのに」

「だからじゃないか。俺は約束は必ず守るんだ。俺を信じてくれるものは誰でも裏切りはしない。それが人じゃないとしてもだ」


ひゅーーーーー!!


「……」


そう言って一刀さんはまた口笛を吹き始めました。


そして、


アウーーーーーー!!


アウーーーーーー!!


アウウウーー!!


周りから狼の鳴き声が上がってきます。


「うぅぅっ!」


私は怖くなって一刀さんの近くに迫りました。


「大丈夫だよ。今度は食われたいしないさ。ちゃんとお供えも用意してあるし」


やがて、一匹、二匹と狼たちが姿を見せてきました。

そして、


「……また会ったな」


グルルー


あの時の大きな狼、この群れの主です。


「約束を守りに来た」


そう言った一刀さんは、自分が持ってきた鶏が入った箱たちをおろしました。


グルルーー……


「なんと言ってるんですか?」

「……俺たちは人間に餌をもらう犬とは違うとな。おい、おい、頼むよ。俺は約束した通りに…」


グルルー!!


「!!」


主狼の唸りに一刀さんは少し下がりました。


「……事情は分かっている。あの時の奴、人間に狩られたな」

「へ?」


じゃあ、あの飾り屋で買った手袋って、ここの狼さんたちの仲間の……


グルル……


「……あぁ……悪い……息子だったか」

「あ」


しかも、主狼の息子。


「食べ物がないところで丁度人間が通るのを見たのだろう。普段なら団体で襲うべきだが、奴は恐らくお腹が減っていて他の奴らと肉を分けたくなかった。だから一人で襲ったのが……運悪くも返り討ちにあったってわけか」


グルルー……『愚かな息子だった』※理解しやすくするため翻訳します。雛里ちゃんはこれがどういう意味か知りません。


「そう言うな。ただ飢えていたせいで頭が回らなかっただけだ。あ、それと……」


………


「あいつの皮の一部だ。これもお前にあげよう」


一刀さんは手袋を持ち出して鶏の箱の上に置きながら言いました。


グルルー……『肉はもらおう。それは持って行け』


「そうか……」


目を閉じて軽くため息をついた一刀さんは、その手袋を自分の懐に戻しました。


……アオオーー『お前ら、食っていいぞ』

アオオーー『食いもん!食いもんだ!!』

アオオーーー『俺が一番のりだ!』


狼たちが鳴き始めると、一匹、二匹、どんどん前に出て箱を倒して中の鶏をかじりはじめました。


グルルーー『礼を言わねばならん。貴様がきてなければ、俺たちは今夜にでも街を襲っていたかもしれない』


「……塾は襲わないのか」


グルルー『そこの若い女には恩がある』


「そうか………また来るとしよう


グルルーーー!!『一度はもらう。だが俺たちは飼い犬ではない。俺たちを餌付けようとすれば貴様も食ってやる』


「約束では数倍で返すと言っていた。それではまだ二倍ぐらいにしかなってない」


まさか、また買ってくる気ですか、鶏?


「帰るよ、鳳士元」

「あ、あの!」


あの場でどうしても聞きたかったです。


<pf>


「一刀さん、約束って大事にしてるんですか?」

「……?約束を守ることは大事だ。約束は自分がそれが出来ると言い切ったものと同時に相手に自分を信じてもいいと安心させたものでもある。約束を守らないことは自分と相手の信頼を裏切ることだ。人間としてすることではない」

「じゃあ、どうして私のこと、真名で呼んでくれないんですか?」

「……え?」


グルルー!!『許された真名を呼ばないなど、許されてない真名を呼ぶことに等しい罪だな!』


「……ぁ…ぁ……マジで?」


一刀さんの顔が白くなっています。


「いや、あの、態とじゃなくてなあの……覚えてはいたんだけど……何か呼ぼうとしたら、余計にあの時のこと思い出しちゃって……」

「………」

「…済まん!」

「あの時のことって…何ですか?」

「え?そりゃ…うん…アレだ…分かるだろ?」


一刀さん、ランタンで顔を見てみると、ちょっと赤くなってます。

……何か面白いです。


「わかりません。何なんですか?私の大事な大事な真名を呼んでくれないなんて、一体どんなことがあったのですか?」

「っ!」

「なんですか?」


態と近づいて、一刀さんを困らせてみます。


「っ、ほ、鳳士元と………」

「真名で呼んでください」

「ひ、雛里と……」

「あ、ちゃん付けした方がいいです」

「!」

「私と、何ですか?」

「わ、態とやってるだろ」

「何怒っているのですか?怒る側は真名を穢された私の方なんです。一刀さんが怒る場面なんかじゃありません」


今日散々一刀さんのせいで変なことに合いましたから、今回はそのお返しです。


「………///////」

「……<<にっこり>>」

「ひ、雛里……ちゃんと……キスしたこと思い出すから」

「……」

「………」

「…あ、あわわ…」

「//////」

「//////」


え、自爆?

自爆ですか、これ?

良く考えてみると自爆ですね。


「き、キスって言うんですか。接吻のこと」

「……あぁ」


グルルー<<お前ら帰って家でやれ>>


狼さんが何か唸ってますが聞こえません。


「わ、私も実は、それちょっと気にしてましたけど…でも、ほ、ほら、あれです。よくよく考えてみるとですね……」

「………」

「……」


逃れません。

いえ、逃れる道が見当たりません。

そんなことはなかった?いいえ、当たってましたから。あの時気絶したけど完全に感触残ってましたから。

互い承知の上でなかったことにしますか?いや、朱里ちゃんもう知ってますから。私の初めて奪われたのもう確定ですから。


「と、とにかく!そんなどうでもいいことよりもですね」

「どうでもいいのか!」


なんでそこで私が考えた最後の逃げ道を防ぐのですか、この人は!


「どうでもいいです!(駄目押し)それより、真名のことです!」

「は、はい」

「こ、今回のことは許してあげます。だから、今度はちゃんと真名で呼んでください」

「………」

「いいですか?」

「…分かった……でもちゃんはやめろ」

「付けてください」

「何故そこで引かない」

「引きませんよ。一刀さんに断る資格なんてありません」

「そんな……」

「どうしてそこまで嫌がるんですか」

「じゃあ、お前が俺をさん抜いて呼んでみろ」

「!………い、いいですよ」

「!」

「すー……一刀」

「………」

「……///////………さん」

「お、お前も、駄目じゃないか//////」

「ごめんなしゃい。あうぅ……」


グルルー『お前らもう帰れ、マジで』


何か、すごく恥ずかしいことやっちゃった気がします。





それからも数日間、一刀さんは街で鶏や豚やいろんな肉を買ってきて、狼さんたちに披露しました。

一刀さんはあの時狼さんたちに言った言葉を本当に守るためにあの時計を売ったのです。

あの日以来私は付いて言ったことはないです。だけど、一刀さんはやっぱりずっといい人だなって思いました。

そして、この人が天の御使いになるのなら、きっと乱世に苦しんでいる人たちを助けてくれるって、私たちを助けてくれるって思いました。

そして、そんな風になったら私がこの人の軍師になれればいいなとも…思いました。




・・・


・・





狼の声:俺たちの声

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