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第三章 五話 白鮫江賊団編4

雛里SIDE


「あ、ありました」


ガチッ


一刀さんの鞄の中にらんたんがあることを思い出した私は手探りで鞄の前の空間に入ってあったらんたんを探して灯りを付けました。


「…!!」

「あ、驚かなくても大丈夫です。左慈さん、これは実は天の世界の……道具で……」


私はその時、灯りの中で左慈さんの姿を始めてみました。


「あれ……左慈さん……って…あれ?」

「……やっぱり、顔を見せられると思いだしてしまったみたいですね」


左慈さんの顔を見た途端、私は思い出しました。

左慈という人は、孫策さんと戦いの末死んでしまった一刀さんを今の姿に変えた人でした。

どうして今まで忘れていたのでしょう。

どうして『左慈』という名前を聞いた時この人のことを気づかなかったのでしょう?


「あなたの前から消える時にあなたに暗視をかけておいたのです。私の姿を思い出せないように。名前も忘れて、一刀さんに話す時も名前は話せず、そんな人が居たとしか言


えなかったはずです」

「……あわわ、確かにそうでした…私は一刀さんにあなたの名前を言っていません」

「一刀さんに私のことを気づかれたくなったのです。だけど、私が失敗したせいで、あなたたちを危険な目に合せるはめになりました」

「え?」


……どういうことですか?

って、良く見たら、左慈さんの体は所々変な跡がありました。


「これって……鱗?」

「……」


蛇の……鱗…


「……サッちゃんが…あなただったのですか?」

「はい」

「……ずっと、私たちの近くに居たんですか」

「はい」

「…どうして……」

「……私が消える時にあなたにお願いしたことを覚えていますか?」

「……」


確か、左慈さんは私たちに倉ちゃんのことを守ってあげるようにお願いしていました。

どうして突然現れて、その場にもなかった倉ちゃんのことを守ってあげてと言ったのか、あの時はわかりませんでした。

だけど、今はそれを聞くことができます。


「倉ちゃんとはどういう関係なのですか?」

「……あのコは、……恐らく、私の娘です」

「!!」


そんな……

でも、倉ちゃんは幼い時からずっとあの森にあった倉の中で一人で居たって……


「どうして倉ちゃんを一人にしたのですか?何かそうしなければいけない理由が…」

「残念ながら、それは私もわかりません」


……どういうことです?

自分の幼い娘を捨てておいて、理由が分からないなんて言い出すとはなんてことを……


「あなたの娘だと言ったじゃないですか!いくらなんでも無責任です!」

「……おかしく聞こえるかもしれませんが…私の時間だとあの娘はまだ生まれてもいません」

「……はい?」

「私には妻が居ます。……おかしく聞こえたらごめんなさい、でもあの人は今妊娠中です。その妊娠している娘が、いま一刀さんと一緖に居る倉ちゃんなんです」

「……何を言ってるのかわかりません」


私たちと一緖に居る倉ちゃんがいるのに、まだお母さんのお腹の中にある倉ちゃんも居るって……


「あなたたちは時間を過去から未来へと一直線でうごいていますが、私の時間はそうではありません。未来から過去につながることも出来る……球体のような時間の中で生き


ています」

「わかりません、だから何ですか?左慈さんから見ると、倉ちゃんはまだ生まれてなくて、私たちと一緖に居る倉ちゃんは、あなたにとって未来の存在だと言うのですか?」

「そういうことになります」


どうしてこんなことが……


「あなたは一体、誰なんですか?」

「……私は…」


ドーン!!


「ひゃっ!」


船が突然何かにぶつかったような音がすると同時に大きく揺れて、私は持っていたらんたんを落としてしまいました。

落ちたらんたんは遠くへ転がってまた左慈さんの姿が見えなくなっていました。


「あ」

「シーッ!」

「あわっ!」


らんたんを取りに行こうとした私を、左慈さんの手が突然抱きしめて私は声をあげてしまいました。


「な、何なんですか」

「……どうやら奴らの本拠地に到着したみたいですね」

「!」

「困りましたね。北郷一刀が来るにはまだ時間がかかりそうですし、仙術が使えない今ではあなたを助けることも私にはできません」


今まで忘れていた恐怖感がまた身を襲います。

捕まった女たちを性奴隷に売り付けるか、自分たちの慰み者にするか、どれもただでは済まないこと。

一刀さんが来るまで私が無事で居られるという保証がありません。


がちゃ


「!」


外からの光が見えてきました。

そして、江賊のような姿の怖そうな男二人が入ってきました。


「こら、出てこい!」

「おとなしくした方がいいぜ。余計なことしたら……」

「……っ!」

「鳳統ちゃん、ここは一応言う通りに従っておきましょう。できるだけ時間を稼がなければいけませんが、それ以前にあなたの身の安全が大事です」


左慈さんが小声でそう言いました。


「あぁん?なんだこの女は?小娘一人だけじゃなかったか?」

「知らんな。取り敢えず連れていこうぜ」

「…小娘はともかくこいつはなかなかいいからだしてるじゃねえか。連れて行く前にちょっと楽しむか?」

「!!」


江賊の一人が左慈さんの顎をつかんで下劣に笑みながらそう言いました。


「私で遊ぶですって?ふふっ、悪いけど、あんたみたいな口だけの男に弄ばれるほど純粋な女じゃないわ。残念だったわね。○貞」

「なっ!」


どうてい?


「こ、この女、言ってくれたな!」

「<<ペチッ>>っ!」

「左慈さん!」

「……ふっ」


男に一度殴られた左慈さんはそれも構わずにまたあの江賊の人を見て鼻笑いをしました。


「て、てめぇー」

「おい、寄せ。遊んでる暇はねーぞ」

「ちぇっ、後で覚えてろよ、女。お頭の許可が落ちた途端貴様のその口からひぃひぃ言わせてやる」

「……………<<チラッ>>お前のソレじゃ無理そうだけどね」

「ぷっ!」

「おい、てめぇも笑うんじゃねー!」


…良くわかりません。


<pf>


船が着いた場所は江の本流から離れたところにある洞窟のようなところでした。

船三隻が停泊できるほど大きなもので、中も結構おくぶかくまで続いているみたいです。


江賊たちに離していた手首をまた縛られて、船から降りました。

他の港から奪った品たちが下ろされるのが見えています。


「捕まった人は私たちだけみたいです」

「そのようですね」

「何ぶつぶつ言ってんだ、あぁん?」

「…あなたの股間についてるのが(P音)って話よ♪」

「き、貴様ーー!」

「良く分かったな」<<他の江賊

「てめぇからぶっ殺すぞ!(泣)」


江賊の男の人が本当に泣いています。

一体左慈さんは何を言ったのでしょうか。

後で一刀さんに聞いてみることにします。


・・・


・・



「お頭に女を連れて来たって伝えろ」


洞窟の中を結構進んだ後、洞窟の中更に洞窟があるような形の場所の前に止まった江賊たちは、前で見張りをしている人にそう言いました。

中に入ってしばらくして戻ってきた見張りの人が、私たちを中で入れさせました。


中に入ると、部屋のような内部は、岩の壁にいろんな武器が飾ってありました。

そして、その内側に、この江賊のお頭らしき人が座っていました。


「お頭、今回旅館から攫ってきた女たちですぜ」

「うむ…」

「……あわ?」


洞窟の暗い影でお頭の顔は良く見えませんでした。

でも、この声は、どこかで聞いたことがあるように覚えます。


「……!!」

「あわわっ!」

「……っ!!」


そして、頭の人が洞窟においた松明の光の中に入ってくると、その人の顔を見た私や左慈さんも、そして、そのお頭も私を見て驚きました。


「小娘……」

「あなたは……」


一刀さんが死んだ時、私は孫策さんを恨みました。当然です。だって一刀さんはあの人のせいで死んだわけですから。

でも、本当に一刀さんを死なせる原因を作ったのは誰でしょう。

街の人たち?それもあります。でも、もっと根本的な人が居たのでした。私は、一年間その人の存在を忘れていました。


そう、初めて私たちが居た街を襲った裴元紹さんを裏切った小隊長、そして、孫策たちに裴元紹さんの居場所をチクるように街の長老たちを促したあの男です。


「く、くはははは!!!!」

「お、お頭?」

「てめぇら!良くやってくれたじゃねーか!気分だ!そこの蛇女は好きにしていいぞ!」

「ほ、ほんとですか!」

「!」

「左慈さん!」

「……そう、それがあなたのやり方なのね。あくまでも人の欲望を……」


私は左慈さんのことを心配して叫びましたが、左慈さんはまったく別のことを考えているように江賊のお頭になったあの男を見ながら言いました。


「連れていけ。俺はこの小娘と済ます話がある」

「へーい」

「へへへっ、覚悟しろよ、女。かわいがってやるぜ」

「左慈さん!」

「……まぁ、それぐらい読んでいたわ。でも、いいの?それがあなたの唯一の弱点を晒すことになるのよ?」

「何わけわかんないこと言ってんだ、さっさと来い!」

「……これだから童貞は話にならないっていうんですよ」


伏せ字忘れてます!伏せ字!


「て、てめぇ……ふん、調子こいてられるのも今のうちだぜ」

「……鳳統ちゃん、なんとか時間を稼いでください。そしたらあの人が必ずあなたを助けに来ます」


左慈さんは最後にそうだけ言って、あの江賊の男たちにおとなしく連れて行きました。


「左慈さん!」

「おっと、人のこと心配してる場合じゃねーだろ、小娘。お前とは済まさなけりゃいけないことがたくさんある」

「っ!」


そして、私の方にはあの男が迫ってきて居ました。


<pf>


一刀SIDE



「お前が渡したレーダーという奴が指す通りに着いた」

「らしいな」


凌操が投げたレーダーをつかんで前を見た。

目の前には滝が見えて、レーダはその先を指していた。


「古典的だな」

「あの中に、江賊たちの巣があるというの?」


外に出てきた蓮華が隣でそう言った。

倉と周泰の方は寝ている。

時は既に夜で、あの娘たちじゃ眠さを耐え切れなかったのだろう。


「しかし、こんな遠くに居たとは…奴らがここに着いてどれだけだったのだろうか……」

「大丈夫よ、あなたの連れはきっと無事だから」

「……そうだな」


そう信じる他ない。


「ありがとう、蓮華」

「べ、べつに私は何も感謝されることなんてしてないわよ」

「蓮華がなければここまで来ることもd出来なかったんだ。お前が居たおかげで甘寧の船に乗ってここまで奴らを追うこともできたし、今は雛里ちゃんのことを心配してる俺


のことを励まそうともしてくれている。感謝されて十分だと思うが」

「…でも、『私たち』は……」

「僕はお前に感謝しているんだ、蓮華。それに、アレはお前が罪悪感を背負うほどのものでもない」

「でも……」


ふと僕は蓮華に孫策とのことを話さない方が良かったのだろうかとも思った。

そりゃ僕が殺されたことは言っていないが、僕の一方的な話は蓮華にとって姉の行動を無様に感じるに十分なものだった。

僕は彼女の精神的支柱だった孫策の存在を歪めてしまったのだ。

でも、そんな言い方をしたうらはらには、彼女には孫策のようなことしないで欲しいという気持ちもあった。

実際、蓮華が魯粛や百合さんが思っていた通りの人物であれば、蓮華は孫策とは違う王の姿にならなければならない。


……うん、やはり蓮華、孫権にはもう少し悩んでもらった方が良い。


「蓮華さま、偵察から戻って参りました。ヤツらは港から奪ってきた品たちを運んでいるようです。まだ着いてそれほど立っていないかと」


甘寧が偵察から戻ってきて蓮華にそういった。

義賊団の頭自ら偵察と言って最初は驚いたが、彼女はどうやらそういう隠密な行動が得意らしい。


「そう、じゃあ奴らが落ち着いていない間に直ぐに奇襲した方がいいのかしら」

「はい、その方がよろしいかと」

「いや、待て」


江賊たちを攻撃することを話している蓮華たちを止めた。


「…何だ<<ギロリ>>」

「お前はあの江賊たちを殺すつもりだろ」

「そうだ」

「……それはダメだ」

「一刀?」

「……雛里ちゃんの安全を確保するのが先だ」

「何?」


甘寧は江賊たちを殲滅することだけを考えていたらしいが、そうはいかない。

中には雛里ちゃんが居る。

戦いが始まると雛里ちゃんに何が起きるか分からなくなる。

そして…


「先ず雛里ちゃんを助けるのが先だ」

「そんな悠長にしていられるか」

「お前こそそれほど急ぐ必要がないだろ。それとも何だ。実は人を殺すために義賊名乗りをしているのか」

「なんだとー貴様ー!!」

「二人ともやめなさい!」


蓮華が仲裁に入った。


「思春、一刀は連れの娘を助けに来たの。なんとかあの娘を安全に助けてから戦うわけには…」

「そんなことする必要もないし、可能でもありません。どこに軟禁されているのかもわからない上に、中がどうなっているのかも知りません。奇襲してから探した方が楽です


「ああいう洞窟だからこそ悠長に戦いなどしていたらド偉い連中は他の所に逃げてしまう。雛里ちゃんまで連れていかれたどうするつもりだ」

「それは貴様らの事情だ。私はあの江賊団どもを殺すのが目的だ」

「なんだと!」

「思春!」



こいつ…!


「思春、アイツの言う通りだろ。江賊を蹴散らすのは後々でもええ。先ずは捕まっている人たちの安全を確保するのが先だ」

「牙莎、お前……!」


凌操も甘寧にそう言い出す。


「それとも何だ。お前は捕まってる人なんて構わず、ただ江賊だけ殺せればいいか?お前の志はそういうものなのか?」

「そんなこと………っ!」

「………」

「……分かった。だが、そう悠々と待っては居られない」

「それはこっちがなんとかする。お前はその間よもや騒ぎを起こすな」

「貴様こそ、もし中に入って何があっても私は助けんぞ」

「思春!」

「………」


甘寧はそこまで言って蓮華が言うのも聞かずにその場を去った。


「姫様、思春のこと許してやってくれ。白鮫は俺たちが何ヶ月も追っていた江賊や。アイツもせっかく掴まえた機会を逃したくないんだ」

「そう……牙莎、あなたは思春と長い付き合いよね。彼女は、何のために江賊狩りを?」

「口では、江東の虎、姫様の母を殺した償いと言っている。が、あながちそれだけじゃあないかもしれない」

「どういうこと?」


蓮華は頭をかしげたが、僕には話が見えた。


「本末転倒という奴だろ。最初は償いの手段として江賊たちを討伐していたが、今になってはそんなことより江賊たちが自分の縄張りを荒らしている姿が気に入らない。それ


だけだろ」

「……否定はできない」


最初は償いのためにやっていたことだったかもしれない。

だけど、何のための償いだった。

人を殺したことへの償いのためにまた人を殺してやがる。

歪んでる。


「だけど、思春は別に港の人たちに被害を与えているわけではないでしょ?」

「だからって助けてあげようと率先してもいない。さっきも見ただろ。思春は民を助けるために賊たちを逃すはめになるとしたら両方の頭を斬ってしまう程度の『覚悟』でこ


こに居るんだ」

「…………」


覚悟とも言えない。

誇り高き償いは、泥沼で戦っている間いつの間にか他の連中と同じく汚されているんだ。


「…お前は彼女がああなるまで何をしていたんだ」

「…俺もまた素は江賊だ。そして、俺はあいつの強さだけが目的よ。民間人を思う優しさがあいつの力を弱くするなら、敢えてその弱さを覚醒させる義理もない」

「………」


何が義賊団だ。

所詮は江賊の間の縄張り競い合いだ。


「あ、一刀」


僕がその場から離れようとすると蓮華が付いてきた。

僕たちは凌操だけを残して、その場を去った。


<pf>


部屋の中に入ると、倉と周泰が一緒に寝ていた。

対照的な肌の色や髪の長さを除いたら、この二人は姉妹のように似ている気がした。


後を追ってきた蓮華が門を閉めながら言った…

だが、次に何かぶつかる音がした。


「痛っ!」

「へっ!?今の何?」

「…蓮華、門開けてくれ」

「へ?誰も来ないわよ?」

「良いから」


蓮華が門を開けると、頭を抑えて座り込んでいる真理ちゃんの姿が居た。


「大丈夫か?」

「てわわ…痛いです……」

「諸葛均!?いつから居たの!?」

「ずっと僕の隣に居たよ」

「へっ?!」


真理ちゃんが頭を抑えていた手を放すと真理ちゃんの目に涙を汲んだ目で僕たちを見上げていた。


「ご、ごめんね」

「………」

「……ちょ、ちょっと見せて」

「ふええ、倉ちゃーん(涙)」

「<<ガーン!>>」


拒まれた蓮華は硬直した。


「か、一刀」

「うん?」

「私、嫌われてるのかしら」

「………正直に?」

「正直に」

「蓮華のことは嫌ってないけど、自分の身体の異常さを死ぬほど恨んでいることは間違いない」

「諸葛均、ごめんなさい!!」


何か真理ちゃんを追っていった。

僕もさっさと行くか。


「ふええ、倉ちゃーん、怖いよーー」

「……んぅ…?」

「ごめんなさいってば。そこまで怖がることもないでしょ?!」


まぁ、人が入ろうとする門を突然閉ざされたんだ。

これが社会のいじめかって感じだろう。


「しかも蓮華は結構顔が固まってるから怖いしな」

「一刀!?それはどういう意味?!」

「そうです!一刀様!蓮華さまは普段は孫家の姫として相応の振る舞うべく怖い顔をなさっていますが、実はすごく御猫様のような顔をしていらっしゃてにゃふっ!」

「あなたはもっと寝てなさい!いや、永遠に寝てなさい!」


周泰、お前も良い護衛武者になるにはもうちょっと謹んだ言動をした方がいいね。

てか起きてたんだ。


「蓮華さまを護衛する身として、寝てる時でも起きていなければいけませんから」

「そんな頼もしい武将がどうやって守るべき人から離れていられるかって話だけどな」

「はうわ!」


まぁ、茶番はこれぐらいにしよう。

そろそろ真理ちゃんも倉に頭を撫でられて落ち着いて来てるし。


「それで、倉。これから雛里ちゃんを助けに江賊の巣に侵入することになった」

「へっ!?」

「……分かった」


驚く周泰に比べて、何の迷いもなく倉は立ち上がった。


「ちょっと待ってください。甘寧さんたちと一緒に戦うんじゃなかったのですか?」

「先ず一刀の友たちを助けてからにしようと言ったのだけれど、思春は手伝ってくれそうにないわ。…そう、一刀、明命も連れていって頂戴」

「良いのか?」

「ええ、私は付いて行っても邪魔でしかならないでしょうけれど、明命は隠密に動くことは得意だから、きっと役に立つわ」

「確かに、周泰さんの能力なら誰にもバレないで雛里お姉さんの居場所を探すことも可能かもしれませんね」

「……<<コクッ>>」


倉と真理ちゃんもそう頷いた。

なるほど………だけど、それだとちょっと話が厄介になるかもしれないけど……


「どうしたの?」


蓮華なら解ってくれるだろうか。


「蓮華、僕たちは雛里ちゃんを助けに行くつもりだ。それは確かだ。でも、その後でも甘寧がアイツらをそのまま殺すように放っておくつもりはない」

「へ?」

「どういうことですか?」

「……例え下賎な罪を犯した賊だとしても、微塵の希望でもあれば彼らを助ける。それが僕たちのやり方だ」


裴元紹を助けられなかったあの時から、僕たちは思った。

助けたいと。

ただ苦しまれる人の方だけではなく、苦しませている人たちの方さえも助けてあげたいと。

そのためにも、僕は彼らにチャンスを与えなければならない。

このまま人としての自分を失ったまま散っていくか。人として、訪れる新しい時代を生きていくかを…


「この乱世、全ての人が生きてはいけないこの世界で、残された民たちは二組でしかない。悪政と凶作に苦しまれて盗賊になってしまう人たちと、これから盗賊になっていく


人たち」

「……あなたの友たちを攫って行ったアイツらを許すというの?」

「許すなんてことはできない。ただ、賊たちも一時は民であったとすれば、アイツらが元の生活に戻りたいと思いさえしていれば、これ以上無駄に血を流すことを止められる


としたら、僕たちはその方を選ぶ」

「あ…………」


裴元紹たちは賊という罪で殺されていった。

だけど、この乱世にて、生きようとしなくては死ぬしか無いこと世界で、生きるために人を殺すことが罪だとしたら、それも殺す方も、殺される方も救ってあげることができ


ない。


正義という名を得るためには2つが必要。

殺される力なき民と、

生きるために殺すしかなかった民だった人たち。


甘寧や、孫策のような者たちは、言わば自分たちの正義を示すためにその両方の死を仕方ないことだと思っているのだ。

それを見ていられないのだ。


「蓮華が気に食わないのとすれば構わない。だけど、僕は甘寧も、あの白鮫も止める。今夜誰一人血を流させない」


これはただの我侭ではない。

この世界の理不尽の正義への反抗だ。


・・・


・・



あとがき


文によると、


鳳凰は生きている虫は食べず、生きている芝生の上にも座らないと記されています。


『死』を拒むのが鳳凰の在り方なのです。


自分の死さえもまた生へと化す鳳凰のように、


この外史もまた、血を流さない三国志を目指していきます。


劉備のように甘ったるい考えではなく、


だからって曹操のように乱世を利用することもなく、


孫策のように自分が入った集団の利のために動くこともなく、


ただただ『生』のための志を貫く。


『死』の悲しさを知っているからこそ、『生』かす方を選ぼう。


そんな感じでやっていこうと思います。




白鮫の正体は、前々章の黒幕だったあの小隊長です(そういや名前も作ってなかった)


甘寧は孫堅を殺した罪を償うためと言ってまた人を殺します。


凌操はそんな甘寧の姿を見ながらその強さに惹かれ彼女の間違いを正そうとしない。




誇り高き覇道への志も、


皆が仲良く居られる世界という理想も、


孫呉の復興という新しい始まりも、


結局『生』と『死』の中で『死』選ぶ。

そう言って、仕方ないという。

何がそんなに仕方ないのか……何がそんなに殺させるのか。


『死』なせないことが本当にできなかったのか。

『生』きて行こうとすることがそれほど間違ったことで、『死』なすのか


そんな外史です。


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