第三章 一話 白鮫江賊団編0(雛里ちゃん、拉致されるのこと)
雛里SIDE
皆さん、こんにちは鳳統士元こと雛里です。
突然ですが、今私、ちょっと大変なことになっています。
「うぅん……うぅぅーっ!」
今は後に縛られた両手を解いてみようと頑張っています。
どうして縛られているのかと言いますと、話は長くなります。
私たち、つまり私に一刀さんと、倉ちゃん、そして真理ちゃんまで四人は、ついに水鏡女学院を出て旅立ちました。
旅に出る前夜のことなど、話したいことは山々あります。朱里ちゃんが真理ちゃんと私を抱いて泣いたこととか、一刀さんが朱里ちゃんとギクシャクしてる元直ちゃんを慰めてあげたりと、散々別れの憂愁を味わいましたが、一刀さん、これからのことを楽しむべきだと言われましたのでその話はすっ飛ばすことにしました。
……はい、正直に言うと結構恥ずかしいところもありましたので話したくありません。
それで、私たちはその日の昼過ぎる頃に一番近い港へ到着して、長江を渡る船を探していましたが、ここから問題が起きちゃいました。
・・・
・・
・
<pf>
「船がない?」
「はい、どうもそうみたいです」
私たちが行った港街は、現在船がわたらないとの話でした。
どういうことかというと、突然この辺りに現れた賊、だから、江賊の動きが活発していて、商人たちが荊州まで来れず、船を持った人たちも略奪されるのが怖くて出港しないとのことでした。
「てわわ、でも、前に私たちが豫州に行った時は大丈夫だったですよ……あ」
「多分、その間状況が変わっただと思うよ……え?」
「あ」
ちょっと待って。真理ちゃん今なんて言いました?
「……一刀さん?」
「…まぁ、例えそうだとしても、全然動きがないわけないだろ?探せば渡る船一個ぐらい……」
「じぃー」
「っ……僕がちょっと港に話してくるさ。倉」
その時までちょっと離れた所で、一刀さんの鞄を持って一人でいた倉ちゃんが一刀さんの声を聞いて振り向きました。(旅中では一刀さんの鞄は倉ちゃんの管轄です)
「…うん?」
「港に行く。一緖に来るか?」
「……うん」
そしたら、倉ちゃんは鞄はそのまま置いて一刀さんに付いて行きました。
誤魔化しましたね…まぁ、良いです。その話は後でゆっくり聞きましょう。
で、一刀さんは倉ちゃんを連れて港の方に行きました。
「てわわ、付いて行かなくてもいいのでしょうか」
「探してもないはずだから直ぐに帰って来るよ。私だって全部探したんだもん。余程用意周到な連中らしくて、一つでも船が通ると全部見つけて船の物資は奪って、女の子たちは他のところに奴隷で売ってしまうとか……」
「てわわ…恐いですね」
ほんと怖い話だよね……
でも、そんな規模の大きい江賊があるとしたら、荊州の官軍は動かないのでしょうか。
……別に官軍を信用してるわけではないですけど、でも少なくもそれほど大きいなことなら黄巾党ほど官軍の力が必要な場面であることは確かなのに……
何か嫌な予感がしてなりません。
「真理ちゃん」
「は、はい」
「……?どうしたの?」
「いえ、あの……その、怒って…ないですか?」
「あわ?怒る?どうして?」
「いえ、だって……」
あ、さっきの話で私が怒らないかという話ですね。
「……別に私は真理ちゃんに怒ったりなんでしないよ。真理ちゃんのこと、全部じゃなくてもわかっているつもりだから」
「…はい…」
あわわ、なんかほっとするというよりは落ち込んじゃってるように見えます
まだ、真理ちゃんについては、知らないことの方が多いです。
なにせ会ったばかりの娘なわけですし……
「どうせ一刀さんたちは失敗するし、その間私たちは暫くここに泊まる旅館を探しておこう」
「あ、はい」
それで、私と真理ちゃんは一刀さんたちが残した鞄を持ってその場を離れ街の旅館が集まっている方へ向かいました。
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一刀SIDE
「……水、たくさん」
「そうだね……」
前に見た時もすごいと思ったが、長『江』というわりにはほぼ海だと思うぐらいに広い。
大体、向こう側が見えない時点で、日本の『江』とは格が違う。
さすがは世界4大文明の発祥地……いや、待ってそれは黄河だよね。すまん、間違えた。
「取り敢えず、今日出発する船の予定はないか港の人にでも聞いてみるか」
にしても船がまったくないな。
小さい船はちょっとずつあるが、大きい船、物資などを運ぶ船なんて見当たらないってどういうこと?
港として終わってるでしょうが。どんだけ酷いんだ?
「……一刀、船って正確に何?」
「うん?えっとね……」
倉ちゃんはここ一年いろんな一般的知識などを勉強してきた。
でも実際見たことがあるわけでもなく、この世界だと本に挿画なども求め難い。
塾の皆して説明はしてやったものの、実物を見たことがない倉にしては、船というのも、そしてこんな広い水場が存在することもまったく新しいものだった。
生まれて一度も山の外の世界を見たことがない時期もあった娘だ。世界の何もかもが不思議な、ある意味僕たちの面子で一番得する人だ。
「船というのは…えっと水の上に浮くように造られた奴で。風の力か、それとも人が漕いで動かしたりするんだ」
「……よくわかんない」
「まぁ、実物みないとさすがに良くわかんないね……ほら、ああいうの」
僕は港に停泊してる船を差しながらいった。
あまり大きいものではなく、人一人や二人が乗って魚を捕まえるときに使うような小さな船だ。
「……あれで渡るの?」
「そう。さすがにあんな大きさじゃ…遠いところまでは厳しいけどね。ちなみに僕が前に乗った船は数百人一気に渡る船だった」
「……じゃあ、…すっごく大きいの?」
「そうだね……あ、丁度あれぐらいかな」
丁度江の遠くから近づいてくる船たちを見てそう言った。
………あれ?
「嫌、待ってよ。船あるじゃん」
何、あれ定期船じゃないの?
ちょっと聞いてみるか?
「おい、あそこにあるのは船じゃないのか?」
「ううん?スマンがここは江賊のせいで暫く船は出港しないよ」
「嫌、だからこっちに来てる船があるんだが…」
「うん?……んなっ!!」
港の人が僕が指す方向から本当に何隻かの船がこっちに来ているのを見て、突然顔を蒼白にした。
「し……しし……」
「し?」
「白鮫団だーー!!」
……え?
「警告!早く街に伝えろ!白鮫がこっちに向かって来てる!」
「何!?」
「早く警戒の鐘を鳴らして警備隊に伝えろ!」
突然活気を失っていた港は騒がしくなり始めて、人たちは忙しく動き廻り始めた。
ガーン!ガーン!ガーン!!
鐘の音が街に響き渡るほど大きく鳴る。
「……うるさい」
「ほら、君たちも早く退避しろ!」
「なんだ、あれが例の江賊団ってやつなのか?」
「そうだよ!悪質な奴らだ。女の子たちは捕まえては中原の貴族や金持ちの連中に奴隷に売りつけるという噂だ。そこの娘を連れて早くどっかに隠れてくれ」
嫌、隠れろって言っても…どこに逃げろってんだよ。
と言ってるうちにも、例の賊の群れはどんどん近づいてきていた。
「ちっ、旅最初から厄介なことになったな」
「一刀…雛里…真理ちゃん」
「!」
そうか、あの二人。
さっきのあそこに居るかどうか……!
「倉、行くぞ」
「……うん」
・・・
・・
・
「雛里ちゃん!!」
元いた場所に戻ってくると、二人の姿が見当たらなかった。
もしかしてあの二人だけで賊に会ったりしたら大変なことになる!
「…一刀、分かれて探す」
「ダメだ!下手してお前まで危険になる」
こんな状況で更に別れて探すとか勘弁だ。
ちっ……雛里ちゃんはここで船を探すことはできないだろうと言っていた。
なら今日の泊まるところを探すために動いたはず。
そう、旅館街だ!
でも、どこに行けばいい。僕はここの地理も知らない。
しかも、周りは今賊が迫ってくると言って皆忙しい中だ。
こんな混雑しているのにどうやってあの二人を探したら良いんだ?
「っ……!取り敢えず動くしかない!」
「……うん」
僕と倉は避難の準備をする人たちの中探りながら雛里ちゃんと真理ちゃんを探すために動き始めた。
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「はい、これが二人用の部屋でございます」
一つの旅館に入ると、館のおじさんが私を案内してくれました。
「こんな部屋もう一つありますか?連れが四人ですから」
「はい、隣の部屋を準備しておきましょう」
「……」
「てわわ、やっぱり複雑な感じがします……」
どうやら旅館のおじさんは真理ちゃんのことは気づいてないらしく、最初は私に一人用の部屋を勧めてました。
こうしてみると、真理ちゃんのことがほんと不憫に覚えてきます。
ガーン!ガーン!
「あわ?なんですか、この音」
遠くから聞こえる鐘の音を聞いて私はおじさんに聞きました。
「あ、ああぁ……た、大したことじゃありません。ちょっと…港で点検などをしているみたいです。最近は船も通らなくて、港の器物とかが壊れることが多いですからね」
「はぁ……その割にはずっと聞こえてますけど…」
「ま、まぁ、ちょっとうるさくはありますが…しばらくしたら終わるでしょう」
「はぁ………」
ちょっと変な感じもしましたけど、別にそれ以上なんとも思わずにここに泊まることを決めました。
「それでは、私はこれで……」
「はい」
おじさんが部屋を出て、私は真理ちゃんの方を見ました。
「一刀さん、そろそろ戻ってきたかな」
「そうでしょうか……私が二人を連れてきます」
「一人で大丈夫かな」
「てわわ、一人で歩くのは慣れてますから……別に誰にも気づかないから攫われることなんてものもありませんし」
「あわわ……」
それはなんというか…良いことなのか悪いことなのかよくわからないね。
「んじゃ、お願い。私はここで待ってるから」
「はい」
そうやって真理ちゃんが部屋を出るのを見送って私は一刀さんの鞄を隅っこに置きました。
中では今頃冬眠を始めた倉ちゃんの蛇が眠っています。怖くて開ける気にもなりません。
でも、開けるには入り口にある暗証番号というのを当てなくちゃいけないようですが、私は知りません。一刀さんが倉ちゃんにして教えてくれませんでした。
私も別にサッちゃんがいるあの鞄を開ける気にはなりませんので番号を教えてとは言ってません。
ぽつん
「ふぅ……あ、水」
丁度街を港に街を出回って喉が乾いてました。
それにしても、あの鐘はずっと鳴いてます。
もしかして、本当に何かあるのでは……?
「<<ゴクッ…ゴクッ……>>はぁ……どうしよう。旅館のおじさんに聞いてみようかな」
何かあるとしたら…何だろう。もしかして江賊が来たとか……?
もしそういうのだとしたら一刀さんたちが危ない。
だけど、私が行ったところで邪魔になるだけ。
真理ちゃんに任せてここでおとなしくしていた方が……
「……うぅぅ…ん……あれ?」
何か、急に眠くなって来ます。
こんなに疲れてたかな、私……。
うぅぅ……真理ちゃんが一刀さんたちを無事に見つけたら……
ぅぅ……
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一刀SIDE
僕と倉は雛里ちゃんを探すために街を回ったが、人たちが逃げる人たち波は港から遠くなって行く一方で、その人波を逆らいながら人を探すというのは中々難しかった。
増して子供のような体型のあの二人をこの中で探せというのはどう考えてもふか……うん。
「くっ!こんな中じゃ探すところかこっちの方が迷子だ!」
「……一刀、あれ」
「何?見つけたのか?
「……!」
「おい、倉!
倉が突然走りだして、僕もその後を追った。
・・・
・・
・
港から既に降りてきた賊の群れが居た。
「おい、倉、どうした!」
「あれ、人たち囲まれてる」
「何?」
見ると本当に逃げるのが遅れたのか、女性一人が賊たちに囲まれていた。
「なんだ、貴様らは!私が誰だと解って……!」
「知るかよーどっかのど偉いとこの嬢ちゃんかしらんけど、俺たちの手にかかれば皆同じ女だぜ、うへへー」
「っ!!」
「……一刀」
「……」
率直に言おう。
見逃したい。そんなことより雛里ちゃんを探すのが先だ。
が、そんなことしたら後で雛里ちゃんを見る顔がないだろう。
「殺しちゃダメだ。分かってるな」
「……うん」
倉は、そこの屋台を支えていた木の棒を取って、僕も横に差し込んでいた木刀を手に取った。
「おい、そこの貴様ら!」
「あぁーん?」
僕が叫ぶと、女たちに獣同然のような顔で迫っていた賊どもがこっちを向いた。
「なんだ、てめーは。逃げねーのか?」
「おい、隣のあの女も中々上玉じゃねーか。あいつも捕まえようぜ」
「おっ、いいな、それ」
「……一刀、上玉って?」
「いい意味じゃないよ……嫌、褒めてるのか……嫌、悪い言葉だよ」
「……悪いことするとダメ」
「そうだね。取り敢えず、手加減はするように」
「……うん」
一年間、倉に勉強ばかりさせていたわけではない。
波才に塾の護衛を任せるために鍛錬してる時、たまには倉にも指導をしておいた。
使う武器は違うが基本戦いという点で重要なものは決まっているわけで、そこらへん倉は飲み込みが早かった。
今じゃ最初に会った時とは比べ物にならんぐらい上達している。
「せやああーーー!!」
「うべら!」
「って、おい、一人で突っ込むな、倉!」
先に連中のど真ん中に飛び込んだ倉の後を付いて僕も連中の中に突っ込んだ。
「はぁっ!」
ガチン!
「ほう?それを受けるか。やるな」
「ちっ、おい、お前ら、殺れ!」
「はいっ!」
最初の村の時のように隊長の命も聞かぬ落ちこぼれではないてか。
だが、
「悪いが、こっち急いでるから早く倒れてくれな!」
急所狙いで行く。
べしっ
「うぐぅっ!」
「…一刀」
「倉、女の人の方」
「……うん」
倉は囲まれていた女の人の方へ行かせて、僕はこの当たりの連中を一掃しにかかった。
「おい、お前ら!こっちは木刀一つ持った男一人だ!江賊やってるならもうちょっと本気出せばどうだ!」
「くっ、ナメやがってー!」
舐めるにも足らん奴らが何を言うか……っ!
「うげっ!」
僕がそうしてる間、倉は女の人の方へ行っていた。
「……逃げる」
「待て、お前の連れは……」
「…大丈夫、一刀は強い」
「くっ、せっかくの上玉を逃がすかー!」
「倉!右だ!」
「!」
賊を僕の周りに全部居させるつもりだったが、倒れていた中の一人が立ち上がっては、女の人を安全なところに逃がそうとする倉に襲いかかった。
「っ!」
倉が対抗するため姿勢をとっていた時、
<pf>
「させません!!」
ブチッ!!
「ぐわぁああーっ!」
「……へっ?」
「なっ?」
ほんの一瞬だった。
突然、そこに流れるわけのない血が賊の者の体から吹き出た。
僕と倉が持っていた武器はただの木にできたもの。倉がやったことではない。
あれは……
「明命!」
「蓮華さま!」
見えない速さで突然現れたかのように倒れた賊の前に、女の人に向かって頭を下げる黒い髪の女の子が居た。
「申し訳ありません、何があっても蓮華さまから目を離してはいけなかったのに…護衛として失格です!」
「私は大丈夫よ。それよりも彼を助けなさい」
「あ、はいっ!」
倉に助けられた女、桃色の髪に長江の水色の瞳をしたその人の命を聞いて、黒髪に焼けた肌の女の子は、日本刀のような長刀を持って私を囲んでいる賊に襲いかかる。
「うわぁっ!」
「大丈夫ですか?」
「僕は大丈夫だが、その刃物は降ろせ!」
「はい?」
女の子は呆気ない顔で私を見た。
「退くぞ、お前の主人さえ助けられたらこいつらに用はない!」
「っ!仲間を殺してみすみす逃がす思ってるのか!」
だが、血を見た賊の連中もまんまと逃がしてはくれそうにない。
「もういい、こいつら全部殺せ!」
「良くも、俺の中を…!!」
「来ます!」
「っ!お前のせいでもっと厄介になったじゃないか」
「はうわ!どうしてそれが私のせいですか」
「お前のせいだろ!何故殺す!」
「だって……」
「余裕ぶっこいてるんじゃねえー」
女の子の答えを聞く間もなく、連中が次から次へと襲いかかる。
っ!女一人助けようとしたのが…これじゃ、雛里ちゃんたちを探せない!
「殺すな!やるなら峰打ちだ」
「…わかりました」
厄介な……!
<pf>
蓮華SIDE
ここ一年、私たちにしては最悪の一年であった。
母様が亡くなり、孫家の重臣たちはバラバラになった。
私も明命とたった二人で荊州のあるところに軟禁されて、姉さまや小蓮とは別れてしまった。
姉妹がバラバラにされて、孫呉の地も失い、私たちは全てを失った。
だけど、お姉さまは強い人だ。必ずや私たちの地をどり戻すべく動かれるだろう。
いつかまた逢えるまで私は準備しなければいけない。
再び孫呉が乱世にて勇ましくたち上がるために……
そんな中、突然荊州のものから私の軟禁場所を新野に変えると言ってきた。
ろくな護衛もなく、私は明命一人だけ連れて新野に行くために港に付いたが、来てみれば江賊のせいで船が出港しないという。
荊州の劉表は一体何をしているのかしら。
母様が居た時には長江にの江賊がこんなに人たちをこんな苦しめるなんてありえなかったのに。
孫家が砕けた途端に江賊がまた長江を自分たちのものかのように荒らしまくっているという。
今の私たちに力があったなら、あんな連中一斉に駆除しているものを……
欝になって、明命が他のところに行ってる間、長江を見ながら悩んでいたら、賊が港を襲ったという話を聞いた。
逃げようとしたが、途中で賊たちに囲まれてしまった。
でも、そこで突然男一人と明命ぐらいの女の子一人が現れて賊たちを倒していった。
武器と言えるものもなく、木で出来た子供の武術鍛錬に使いそうな得物だったけど、彼の腕は素晴らしいものだった。
お姉さま、いや、それ以上かもしれない。
そして、そこに明命が私を探しに現われ、明命と彼は私たちを囲んでいた賊十数人をあっという間に制圧していった。
「ぐぅっ……」
「…初全この程度か」
「……あなた、一体何ものですか?」
「うん?」
彼と一緖に戦っていた明命が、彼の姿を見ながら言った。
男の姿はあんなにたくさんの敵を木刀一つで倒しておいてまったく疲れも見えない顔だった。
「悪いが、お前たちと話をしてる時間はない。倉!」
「…うん!」
「あ、ちょっと待って…」
私のとなりで私を守っていた女の子が、男が呼ぶとすぐに彼の方に向かった。
「悪いが、二人はこのまま避難してくれ」
「あなたたちはどこへ行くの?」
「他の連れと逸れてるんだ。急がないと………!」
その時、彼はパッと止まった。
川の方を見ている彼の目線を追ってみたら、
「あれは…!」
他の船一隻がこの港に向かって近づいていた。
「うぅぅ……!あ、あれは…!」
「鈴の音!?」
「やべぇ、おい、お前ら起きろ!」
その船を見た、倒れていた賊たちは慌てて立ち上がった。
「っ!!」
「さっさと逃げるぞ。こうしていられねー!」
明命が私を守るためにまた剣を抜いたけど、今度は奴らは私たちのことは居ないかのように自分たちの船があるところへ走って行った。
「……何なの一体?」
「……嫌な予感がするな」
「……一刀?」
「倉、あいつらを追うぞ」
「…うん」
新しく来る船をみていた彼らは逃げる賊たちの後を追って行った。
「…明命、私たちもついていきましょう」
「え?あ、ちょっと待ってください、蓮華さま、危険です!」
そして、私もその後を何かに誘われたかのように追った。
今になって考えると、その出会いが良きものだったのか否かは良く分からない。
だけど、この出会いが私を大きく変えたということには、確かなことであろう。