第一章 十八話 『始まりの地で最後の戦い』の二
倉SIDE
すべてが赤く燃えていた。
あたしとおじさまたちの思い出が詰まった場所たち。
一緖に酒を呑んで騒いだ、互いを慰み合い、励ましあいながら人たちから過ごしてきた記憶たちが、燃えていた。
「たあああーーっ!」
「うぐっ!」
そして、人たちがまたそれとは違う『赤』に染まり、やがて動かなくなっていく。
これが、『戦』というものなの?
コレが…おじさまたちがそれほど逃げたがっていたものなの?
「倉!」
「!…おじさま」
「ぼおっとするな、いきなり後から突かれたらお終いだ!」
「……皆…死ぬ」
「………くっそ……!」
おじさまの部下たちが、どんどん死んでいく。
時間が進む度に、敵はどんどん増えて、あたしたちがどんどん殺されていく。
「なんなんだ、こいつらは!一体何故ここが分かった!」
殺される。
一歩手前。
平和をつかめると思った。
以前は平和に満ち溢れていたその場所が、今は火と血の『赤』に染まっている。
「……これ以上戦うことは無意味か…」
「おじさま」
「倉、良く聞け。残っている連中を全部集めて一点だけ奴らの包囲を切り抜くんだ。そのうちお前は北郷のところに行け」
「…!おじさま、あたし…」
「どうせこうなった以上、北郷でも俺たちを助けられるとは思えん。だけど、お前は仮にも水鏡先生の弟子となっている。お前だけは守れるはずだ」
「嫌!逃げるなら一緖に逃げる!こんなところで……こんなところで死んじゃ嫌」
「馬鹿めが!」
「っ!」
おじさまが以前になかったほどに大声で叫んだ。
「誰が俺が死ぬと言った!俺たちは俺たちでなんとか逃げ切る!昔からそうやってきた。官軍たちの手から逃げてこの荊州まで来た。何年平和だったが、また逃げる時間にな
ったそれだけの話よ」
「………」
「俺は死なねー。死にたくて戦う奴なんてここにありゃしねー。皆、生きて逃げきる。だからお前も、生きることだけを考えろ」
「おじさま……」
「あら、取り込み中だったかしら」
その声を聞いた瞬間、びりびりとした感じが全身を襲った。
「!……!」
「あなたがここの親玉ね?」
「……ああ、そうだ。貴様は何者だ。どうやってここが分かった」
「賊に名乗る名はないわ」
目の前の女の人。
日に焼けた肌に、血に染まった色の服を着て、握っている剣は血で、あたしたちの仲間の血で赤く染まっていた。
他の敵とは違った。
何かが……心の奥底からこの人は…危険な人だと、早く逃げないと殺されると叫んでいた。
「ふん!…まあ、何者かはわかってるつもりさ。江東の虎の娘だろ」
「あら、よく知ってるわね」
「荊州に来ているという噂は聞いたが、まさかこんな奥まで入ってくるとはな……こいつは失敗だったぜ」
おじさまはこの人のことを知っている……
この人…強い。
この人さえ居なくすれば、おじさまたちを助けられるかもしれない。
「はあああーっ!!」
「!倉、寄せ!お前が敵う相手じゃねー」
分かってる…分かってるけど……
おじさまが…!
「あら、かわいい娘ね。小蓮と同じぐらいかしら」
「!」
振った棒が一気に弾かれた!?
剣が動いたかも見えなかった。
「だけど、今私ちょっと血が滾ってるんだよね……悪いけど手加減なんてしてあげられないわ」
「っ!へやあああ!!」
止まることなく棒を突き続ける。
当たれば急所。だけど女の人はあまりにも簡単に私の攻撃を躱していった。
「弱いわ」
「!」
「これほどの強さでは私を盛り上がらせることができない…死になさい」
「倉!」
素早い動きで、いつの間にか女の人は私の中に突っ込んできていた。
そして、
「キャッ!」
一閃閃いた途端、私の棒はまた虚しく真っ二つにされてしまった。
そして次の瞬間、
「これでお終いよ」
「………!」
「倉おおーーー!!!!」
女の人の剣が倒れた私の頭を狙って降りてきて、
視界が赤に染まった。
<pf>
一刀SIDE
一刻でも早く裴元紹のところに向かわなければならなかった。
そう思った俺は俺に事実を伝えに来てくれた裴元紹の部下を水鏡先生に任せて外に塾を降りようとした。
「待ってください、一刀さん!」
だがその時、後から俺を止める雛里の声が聞こえた。
「何故止めるんだ」
官軍が今頃裴元紹たちの居場所を叩いているはずなのに…
しかも彼らは昼の酒盛りでまともに戦える状態ではないはず。早く向かわなければ…
「今から移動手段もなく山を降りたところで、裴元紹さんたちのところには間に合いません。一刀さんが行っても、既に群れは壊滅しているはずです」
雛里から出た言葉が危険だとかそういうことでなく、堅実的な話なことに驚きながら俺は彼女の話がもっともだということに気づいた。
しかし、
「なら、どうすればいい。ここじゃ馬もないし、そもそも俺は馬には乗れない。あるのは足二つだけだ」
「それは…………」
「何か…何かあるはずだ」
早く裴元紹のところまで向かわなければならないのに…最速で行っても足で行っては夜が明けてしまう。
キャリーケースのの中に何か頼りになるものは……いや、それはない。
サイクルとか、そういうものが出てくるほどの大きさではない。
ならそれも頼りにならん。
「キャハ、大変なことになりましたね……」
「奏」
「このままでは山賊の人たちでなく、倉ちゃんまで危険な目に合ってしまうのですよ…」
「徐元直!」
「!」
一瞬、俺は奏が発した言葉一つに反応して彼女に怒鳴った。
「彼らはもう山賊ではない!今官軍の連中が叩いているのはただの山に済んでいる『平民』だ!あいつらを貶めるような言葉は許さない!」
「……!……ごめんなさい…」
奏は似合わなくも凹んでしまっていた。
一瞬、やりすぎたかって気もしたが、そういう場合ではなかった。
移動手段が……一刻、嫌少なくも一時間であそこまでたどり着くものが必要だった。
何か……馬よりも早くて今手に入れられる手段…そんなのあるはずが……」
アウウウウーーーーーー!!!
「「!!」」
「はわわ!何、狼!?」
「すごい大きい声なのですよ」
「……そうか!」
アイツが居た。
ヒューーーーーーー!!!!
精一杯口笛を吹いた。
「あわわ、一刀さん、今のって…」
「来い…頼むから来い……」
お前しか頼りがないんだ……
アオオオーー!!
ドーン!!
「!!」
地面が揺れる。
地震かと疑うほどの揺れとともに、アイツが現れた。
ぐるるーーー
「…お前……なんだよ、そのデカさは…」
この森に残っていた狼群れの前大将の姿がそこにいた。
ただ、その規模は以前とは違った。
その姿、まるで小さな丘一つが動いているようなデカさの狼がそこに居た。
ぐるるーーー
「…森の主……」
「…やはりあなたでしたか」
後でそう言ったのは水鏡先生だった。
「あわわ、水鏡先生、この狼さんのことご存知だったのですか?」
「この狼は、私がここに塾を開ける以前からこの森で群れを持って生活していました。以前に一度だけ、こんな大きさの姿の彼を見たことがありますが、まさかまだ生きてい
たなんて……
「普段のは縮んでいたとでも言うのか。これが本当の姿だったのか?」
ぐるる……『人間、そんなことをいっている場合ではなかったはずだ』
「!」
そうだった。
「どこか場所は分かるか」
ぐるるー『血のにおいがする。火に森が焼ける匂いもな……おそらく、既に戦が始まっているだろう』
「どれぐらいかかるか?」
ぐるるー『人間たちの時間はわからん……そうだな、月が頂点に行く前には立つだろう』
今夜満月……月はもうほぼ頂点に昇ってる。30分もかからないって話だ。
「早く頼む」
『乗れ。…これでやっと、貴様に負った借りを返すことができる』
「一刀さん、私も行きます」
「雛里ちゃん!」
「雛里、あそこは……」
「私と一刀さんが一緖に働いていたことです。それを片付けるのも一緖です。一刀さんだけ危険な場所に行かせたくありません」
「………」
雛里……
「分かった、一緖に行こう」
「はい」
「駄目だよ、雛里ちゃん。危険すぎるよ」
孔明は雛里を止めた。
「行きなさい、雛里」
「先生!」
が、思いの外水鏡先生が雛里の肩に力をいれてくれた。
「一刀さん、雛里のことをお願いします。到着したらできるだけ言葉で彼らを制してください。私の名前を使っても構いませんので…」
「…わかりました。雛里は絶対に安全に護ります」
「……雛里ちゃん、行かないで」
それでもまだ孔明は雛里の手を掴んで目に涙を汲みながらそういった。
「朱里ちゃん、あの人たちが…倉ちゃんたちがああなったのは私の責任もあるよ。二週間も街を回っていたのに、私も一刀さんも説得することだけに夢中で裏でその人たちが
何を考えていたか全然気にしていなかったよ。だから……私は一刀さんと一緖にその責任を取りたいの」
「……雛里ちゃん」
「孔明ちゃん、行かせてあげて」
奏が孔明の肩をつかみながら雛里の腕から孔明の手を離せた。
「カナちゃん」
「鳳統ちゃんを心配することは分かるけど、鳳統ちゃんの意思を折ることはもうできないよ。……それに、一刀さんが鳳統ちゃんを守ってくれると約束したじゃない。一刀さ
んは約束したのは絶対守るよ」
「………」
そういう奏の言葉に動じて、孔明は俺の方を見た。
「北郷さん、私に約束してください。何があっても、雛里ちゃんの安全を再優先にするって」
「…当たり前だ」
言うまでもない。
雛里には傷ひとつ与えさせない。
「雛里、行こう」
「……はい」
俺は雛里の手を掴んで一緖に狼の背中に昇った。
『しっかり掴まってろ』アオーーーー!!
「うわっ!」
「あわわっ!」
早い!
いきなりのスピードに体を狼の背中にくっつけた俺と雛里が少しして前を見たら、狼はありえないスピードで山を降りていた」
「すごいです!これならあっという間に街の方まで行けます」
「いや!街には行っちゃダメだ!街の連中が何をしてくるか分からない!」
「でも街を通らないと迂回していくことになりますよ」
『安心しろ!人間の通る道でなくとも、俺たちが移動する道を使えばあっという間だ。それより喋るな。舌を噛むぞ』
「「っ!!」」
更に加速する狼の背中で俺と雛里で互いの手をぐっとつないで身を伏せた。
<pf>
倉SIDE
「……おじ…さま?」
「……くっそ……いってーな」
「…!」
あたしと女の人の間を割り込んできたおじさまの血で、あたしの視界は赤くなっていた。
女の人の剣が、おじさまの腹に刺さっていた。
「ちっ!」
女の人が剣を外すとおじさまの腹から血がすごく流れる。
「おじさま……」
「……はぁ…うぐ…」
「おじさまーー!!」
やだ。
やだやだ……!
なんで…なんでおじさまこんなことしたの?
どうしてあたしを庇って…!
あたしは死んでもよかったのに…
あたしは…あたしは死んでも何も失うことなんてなかった。
おじさまは……今まであんなに頑張ってきたというのに……あんなに幸せを求めてきたのに…
「おじさま!」
「……倉……生きろ……」
「!」
「泥沼だって……生地獄の底だとしても……生きろ。そうすれば…いつかは幸せな時がくる」
「嘘!そんなの嘘よ……だって……おじさまは…」
「俺は十分……あぁ…幸せだったぜ」
おじさまは震えるその手で、あたしの顔を優しく触りました。
「…お前と…部下たちと一緖に今まで過ごした日々……あれほどの多くの人たちを殺して来た俺には大きすぎるほどの幸せだったよ」
「……おじさま…」
「だけど……お前はまだ若い……まだまだ、俺みたいにならないで、普通に暮らして…いい旦那を見つけて、幸せな家庭を作るというのが…決して夢物語ではないのだ……俺
にはできなかったこと……お前が代わりに全部やってくれ」
「……………」
「……ぅぅ…もう…ダメ……みたいだな」
「嫌……そんなこと言わないで……」
死なないで…あたしをおいていかないで…
もう嫌…もう一人じゃ嫌なの。一人じゃ生きていけないの……。
「……はぁ…………」
おじさま……おじさま?
「………」
………ああ
あぁぁ
「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
ばぁーーーーーーっ!!!
「なっ!」
「貴様らーーー!!!!!!!!」
ばぁーーーーーーっ!!
「良くも!良くもあたしの家族を…!!!」
<pf>
孫策SIDE
いきなりの邪魔が入ってびっくりした。
見えない速さで私と女の子の間に割り込んできた男の腹に剣が刺さってしまっていた。
自分の娘を守ったとでも言うの?
「ちっ!」
剣を抜くと、血が噴水のように吹き出る。
「おじさま!」
女の子はそんな彼を抱えて喚いていた。
「……気味が悪いわ」
こんな姿を見ると、相手を賊と、獣と見るのができなくなる。
仲間を守るために自分の身を投じたとすればまだいい。
敵の大将が、自分の娘並の娘を助けるためにその生命を投げ捨てた。
とても、下衆な賊がするとは思えない。
嫌、そもそも彼らは本当に賊だったのかしら。
確かに姿と居場所から考えると賊なのは明らか。
だけど、彼らの行動にはどうもおかしいところが多かった。
動きが鈍いかと思ったら、ちゃんと整列されて我々に対応していて最初はかなりてこずっていた。
火計がなかったら地の利を得ている彼らが有利になっていたかもしれない。
また、彼らと戦っているうちに、どうも心のモヤモヤが抑えられなかった。
それは、いつものような不完全燃焼によったものでもあったけれど、そうじゃない。
相手から殺意を感じ無かった。彼らは多くの人たちを殺してきて得たはずの血の匂いが薄くなっていた。むしろ、私たちの方からその匂いが濃く感じれた。
そして、今回は敵の大将が、たった子供一人を助けるために命を投じた。
………
「気持ち悪い」
理解できない。
この山賊の群れは、他の連中とは違った。
一体何が……どうなってるというの?
分からない。いつもあんなに自慢にしている勘が、今では働かない。
ばぁーーーっ!!
「!」
何?
いきなり周りの残火か燃え……
「貴様らーーー!!!!!!!!」
「!<<ゾクッ>>」
何……
体が戦慄してる……
あの娘の闘気がいきなりさっきまでとは比べ物にならない凄まじいものに……
「良くも!良くもあたしの家族を…!!!」
「っ!」
ばぁああーーーーーーっ!」
「っ!どうなってるのよ!」
いきなり周りに燃え終わっている火種たちが燃え始めた。
嫌、待って……
「…動いて……る?」
嘘…一体何が……
「焼け死ね……」
「…なっ」
「その体にこの苦痛を……!一人にさせられたこの呪われた力をたっぷりと味わえ!」
パキッ!
木材の欠片に着いていた火種がいきなり燃え上がってこっちに飛んできた。
「!何、あの娘、火を操ってる?」
妖術使いだったの?
「全部焼け死んでしまえーー!!」
周りの炎が一気にその勢いを増していく。
「ちょっ!」
炎ば壁のように私たちの周りを囲んだ。
「っ!あなたも一緖に死ぬつもり!?」
「………」
「……!」
その時、あの娘の目を始めてちゃんと見た。
その赤い瞳。
まるで火をそのまま宝石にしたみたいな色の瞳。
その中に、周りの火の姿が映って、まるでその目が火のように燃えているようにも見えていた。
「!こんなところで死んではたまらないわ」
要は妖術を使ってるあの娘さえ殺せばいいだけの話。
「はあああっ!!」
「!!」
アオオオオオオオオー
!
何?
「はああああああっ!!!!」
「!」
何っ!
いきなり、空から狼が飛んできて……
そこから男一人が俺に攻撃して来た。
「倉!無事か!」
「倉ちゃん!」
「……あなた達、何者?」
<pf>
一刀SIDE
「あなた達、何者?」
血に染まった服をきてる女がそこにいた。
この闘気…あいつが大将か?
「倉、大丈夫か!」
「………」
「…倉?」
「一刀さん!裴元紹さんが…!」
「!」
後を向いたら、倉の隣に、血を流して倒れている裴元紹が居た。
「雛里!」
「………<<ふるふる>>」
雛里は頭を左右に振った。
…………間に合わなかった……
一瞬体から力が抜けてきた。
だけど、また直ぐに全身の血が頭に昇ってきた。
「……っ!何なんだ、貴様らはーー!!」
官軍だ?
ふざけてやがる!
「何故こんなことをした!ここの人たちが何をしたって言うんだ!」
「……何をしたかって?こいつらは今まで人を何人も殺してきた賊たちよ。弱い人たちから力づくで奪ってもので自分たちの腹を満たしてきた、下衆な連中よ」
「貴様らに何が分かる!こいつらは……この人たちは…!!」
こいつらがやってきたことが貴様らに分かるか。
彼らはこの何年を自分たちの過去から逃げるために使ってきた。
人を殺した盗賊ということも、所詮は他の人たちより運が悪かったせいで、他の人を襲わなければ自分たちが生きていけなくなってしまったからだ。
結局賊というのもそういうものじゃないか。
世が乱れ、貧乏になって食べるものがなくなれば、人は生きるために何でもしなければならない。
家族を売り、人を殺しその肉を食ってでも、生きていかなければならない。
そうしていたらどんどんそんな人たちが増えてくる。そしたら盗賊になる。
被害は大きくなるが結局原因は同じだ。
十分に自分と家族養える環境があるなら、盗賊なんてやってかなくてもいい。
それができないから人を殺してまで明日を求めてきた。
それが…罪だというつもりか?
お前らにこの人たちの明日を奪う権利があったとでも言うのか?
「名を名乗れ!俺は北郷一刀。この山で生活していた『火田民』群れの代表者よ。『普通の民』を賊と貶め虐殺したお前らは一体何者だ!」
「私は孫伯符。江東の虎、孫堅の娘よ」
「!」
孫策……
これが、歴史に名を残すほどの英雄がやらかした真似だと……?
「……今直ぐ軍を退かせろ」
「それはできないわね」
「何だと!」
「こっちも街の人たちから賊の退治を頼まれている身でね。立場上引くわけには行かないわ」
「…街の人たちがこの地が必要なだけだ。この地にはこの人たちが作った畑がある。あいつらはその畑とその作物を手に入れるために彼らを賊に押し付けた」
「………そう。何だかおかしいと思ったら…そんな裏があったのね」
「…!」
こいつ…まさか感づいていたとでも……
「知っていながら…この人たちを討ったというのか?」
「理由がどうであっても、こいつらが人たちを殺した賊だということに代わりはないわ」
「もう昔のことだ!」
「同じことよ!いくら時間が経っても、賊は賊。逃がすわけにはいかないわ」
そうか………それがこの時代の……貴様らの理屈か。
「…彼らを賊にしたのはお前らだ。それでも、お前らはまた力づくで彼らを押しつぶすというのか?」
「なんとでも言いなさい。私は人たちを苦しめる『獣』どもを殺していただけよ」
「あくまでも彼らを人を見ないつもりか!!」
シャリーン!!
『鳳雛』から『氷龍』を抜き出す。
鳳雛は氷龍を抑えられるモノでなければその刀を外してくれないと祖父さんは言っていた。
だけど、今の俺はどうなのだろう。
<pf>
――殺せ……
―-目の前の者をすべて殺し尽くし、その血を俺に吸わせろ。
「目の前の『敵』を…ころす」
孫伯符………裴元紹と皆の仇。
倉に変えて取らせてもらう。
<pf>
――虚しいですわね…
「……」
――あれほど頑張って築き上げた全てが一気に燃え上がっています。彼らはこんな日のために何年を頑張ってきたわけではないというのに……
「それもまたこの外史で生きる彼らの業です。功を焦った群雄たちにとって、こういったことに一々気にしていては、次の段階では自分たちが危ういというもの……彼女らに
とって盗賊という存在は人でない『獣』、それ以前に名を上げるための『肥料』にすぎないのです」
――……っ
「ごめんなさい、こういうものを見せたくてここに連れてきたわけではなかったのですが
――いえ、構いません。にしても、倉、彼女の力は一体どういうことですか。
「………」
――左慈さま?
「…結以…大変申し訳ありませんが、ここからは僕一人で行かせていただきます。あなたはこのまま帰ってください」
――え、左慈さま?
「ごめんなさい、あなたには…今のあなたにはまだ教えてあげることができないの」
――左慈さま?左慈さま、待ってください!わたくしは…!!
「…そこに居るよね、貂蝉」
「あらーん、いつから気づいたかしら」
「……こうなることを分かって僕にここを知らせましたわね」
「………」
「あの剣、…そう、あなたたちさえも抑えることが出来なくて戦国時代に投げ捨ててしまったあの刀……あれほどたくさんの人を殺して来たけど、実はたった『一人』のため
に用意しておいた剣。…僕を『永遠に』殺すために作られた刃。僕がこの外史に関わったら、僕は死ぬ」
「だけど、関わらなかったらこの世界のご主人さまが死ぬでしょうねん」
「ぷっ、何がご主人様よ。あなたが相変わらず政敵を殺すためだけには脳の回転がすごいわ」
「……」
「お前はは自分の政権を守るために何でも犠牲にする覚悟が出来てるわ。犠牲にするのが自分のじゃないしね。こんな外史なんて…木を見れば葉っぱ一つに過ぎない。消えた
ところで、あなたには犠牲のうちにも入らないでしょう」
「……」
「そして今回は外史一つを僕を殺すために用意したわね……あなたが管路よりも邪悪な奴だってどうして誰も気づかないのかしら」
「で、あなたはどうするのん?行くの?行かないの?」
「………行くわけないでしょ?僕に一刀は、一刀ちゃん一人だけよ。他の連中なんて初代の奴みたいに殺してしまったところで一向に構わないわ」
「だけど、それだけじゃないわねん」
「………そうね。お前もそれが分かっていたから、また違うものを用意したのね。『あの娘』を……」
「……」
「……かわいい娘よ…赤い、赤い瞳。自分の母にそっくりよ」
「………」
「…帰って来れたらね。真っ先にあなたをブチ殺すわ。こんなことをしておいたからには、それぐらいは覚悟できていたでしょうね」
「……」
スッ
・・・
・・
・
ここまで隠していましたが、
実は自分の外史にはいつも黒幕があります。
これは前作の黙々シリーズからつづくもので、ここだと同時に投稿しているせいで皆さんがわかりにくいことを恐れていままでその部分をカットしてきたのですが、ここからはそうも行かなくなってしまいました。
簡単に説明しますと、無印で負けた左慈は貂蝉によって強制的に肉体を殺され(自分の設定だと管理者は霊体で、体は死んでも何でも蘇ります)、その力を引っ張り出し刀の形に封じたのが今作に出る『氷龍』という刀になります。でも、本作に出る通り、これがかなりの妖剣で貂蝉や卑弥呼さえもその力が手に負わず、やがては剣が自由意志を持って日本戦国時代に飛び込みます。好き勝手にしていた氷龍は結果的には北郷家の匠であった一刀のご先祖が作った鞘『鳳雛』によって封じられ、400年ぐらいその力を出せずにいました。
一方、一度力を失ったまま蘇った左慈は今度は女の体を得て、黙々シリーズの一刀と一緒に過ごしながら自分なりの外史の在り方について結論付けることになります。そして以前から知っていた(という設定の)孟節(演義で孟獲の兄、ここじゃ女)こと結以を連れて再び貂蝉に対敵する、ということになっています。詳しいことはやっぱり黙々シリーズを呼んでもらわないとわかってもらえないと思います。不親切な外史で申し訳ありません。
あ、でも、今こうなったからにははっちゃけて言えます。倉は左慈と結以の娘です(女同士でどうやって子供が出来たのかはノーコメント)。現在結以は妊娠中で、その妊娠中の子供が今出ている倉ということになっています。時間軸がずれてるのだと思ってください。今左慈は倉が自分の娘だと気づいてますが、どうして未来の自分が倉を裴元紹たちが来るこの森に捨てなければならなかったのかは知りません。結以はまるごと何事か分からないまま飛ばされてます。以前の設定だと孟節は火の化身の祝融の子孫なので、左慈の力も混ざって倉の代にはああいう力が現れた、ということになります。