転生者を確認!
「勇者が首にナイフを当てたぞ! 麻酔針! 急げ!!」
異世界管理局・リセマラ対策課。
現場指揮官である俺は、水晶モニターへ怒鳴り散らしていた。
画面の中では、召喚されたばかりの高校生が、自分のステータスを見て震えている。
幸運:E
初期スキル:ひよこの性別鑑別
「クソがぁぁぁ!!」
叫ぶや否や、勇者は迷いなくナイフを首へ突き立てた。
「阻止しろ!」
パンッ!
麻酔針が飛ぶ。
しかし勇者の手がわずかに速い。
「隊長! 間に合いません!」
「精神感応型バリア展開! 喉だけ鋼鉄化!」
キィィン!!
刃が弾かれた。
「な、なんで死ねないんだよ!?」
勇者は泣きそうな顔で今度は舌を噛み切ろうとする。
「舌噛み検知!」
「口内へ高粘度ガム注入!」
ポンッ。
「ふぐぅぅぅっ!?」
口いっぱいにガムが詰まり、タコみたいな顔になった。
今日も平和だ。
……いや、平和じゃない。
最近の転生者は甘やかされすぎている。
初期ステータスが気に入らない。
スキルが弱い。
女神が美人じゃない。
そんな理由で平然と自害し、「もう一回転生させろ」と言い始める。
その結果どうなるか?
一回死ぬたびに、この世界の時空が削れる。
先週なんてひどかった。
『草むしり』を引いた転生者が百三十五回リセマラした結果、
西の大陸が消えた。
ついでに火曜日が二回来た。
原因はいまだ不明である。
「隊長!」
通信が入る。
「対象、ガムを飲み込んで窒息を狙っています!」
「医療班!」
「酸素供給!」
「胃の中にナノマシン!」
「AED天使、待機!」
勇者は白目を剥きながら倒れた。
ピッ。
心停止。
〇・二秒後。
ドゴォン!!
天井を突き破ってAED担当の天使が降ってきた。
「離れてください!」
バチィン!!
「ぐぇぇぇっ!!」
勇者は蘇生した。
「なんでだよぉぉぉ!!」
「心停止から〇・二秒以内に蘇生しました。」
「人権は!?」
「異世界管理法第二十七条。」
「リセマラ目的の自害に人権なし。」
「そんな法律あるかぁぁぁ!!」
勇者は泣きながら走り出した。
「飛び降ります!」
「低反発魔導結界。」
ぼよん。
「毒飲みます!」
「ポカリスエットへ分子変換。」
ごく。
「……スポドリじゃねぇか。」
「首吊ります!」
「ロープをこんにゃくへ変換。」
ぷるん。
「息止めます!」
「強制人工呼吸。」
ぶちゅう。
「やめろぉぉぉ!!」
隊員全員が敬礼した。
「過剰介護モード、正常作動中です。」
勇者は膝をついた。
「……もう死ぬ方法、ねぇじゃねぇか……」
俺は静かに頷く。
「ありません。」
「……」
「世界を壊す前に諦めろ。」
「……」
「……じゃあ、どうすればいい?」
「働け。」
「え?」
「薬草を摘め。」
「はい。」
「ゴブリンを倒せ。」
「はい。」
「銅貨を稼げ。」
「はい……。」
勇者の肩が落ちる。
「……普通に働くか。」
その瞬間だった。
『ピコーン♪』
管理局中に鐘の音が鳴り響く。
『転生者のリセマラ欲、消滅を確認』
『世界線固定完了』
『時空安定率 100%』
隊員たちが一斉にガッツポーズを決める。
「やったぞ!」
「世界が助かった!」
「今月初の卒業者だ!」
俺はヘルメットを脱ぎ、大きく息を吐いた。
「街の中央に職業紹介所がある。」
「ハローワークみたいな?」
「だいたいそんなもんだ。」
「……ありがとう。」
勇者は少しだけ笑って歩いていった。
俺は背中を見送りながら呟く。
「普通に生きるのが、一番レアなんだよ。」
その時。
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
警報が鳴り響く。
「隊長! 新しい転生者です!」
「またリセマラか?」
「いえ!」
隊員の顔が青ざめる。
「今回は『初期スキルが最強すぎるから縛りプレイしたい』と言って、自害を始めました!」
「……。」
俺は黙ってヘルメットを被った。
「介護レベル最大。」
「総員出動。」
「今度は"逆リセマラ勢"だ。」
隊員たちは一斉に敬礼した。
「了解!」
異世界は今日も、
勇者ではなく、
勇者を死なせない俺たちによって守られている。
――終わり




