第9話 カジノ都市RTA
飛空艇『ラグナロク』で空を駆けること数十分。
俺たちは砂漠の真ん中に輝く不夜城、カジノ都市『ラスベガス』(この世界でも名前は同じだった)に降り立った。
ネオンが輝き、コインの落ちる音が絶え間なく響く欲望の街。
だが、俺の目には全てが「金策ポイント」にしか見えていない。
「うわぁ……! すごいです! 街全体がキラキラしてます!」
「こんな俗な場所、修道女が来ていいところではないのでは……?」
エリナとクラウディアが周囲をキョロキョロと見回している。
俺は二人に釘を刺した。
「いいか、遊びに来たんじゃない。飛空艇の改装費と、お前たちの**『最終防具』を揃えるためには、あと500億ゴールド**必要だ」
「ご、500億!? 国家予算レベルですわよ!?」
「普通に稼げば100年かかる。だから、ここ(カジノ)で10分で稼ぐ」
俺は自信満々に、街の中央にある最大級のカジノホール『ゴールデン・パレス』へと足を踏み入れた。
***
広大なフロアには、数千台のスロットマシンが並んでいる。
多くの客が一喜一憂する中、俺は一台の古いマシンの前に座った。
「ソウマ様、その台でいいんですか? 端っこで埃をかぶってますけど……」
「これがいいんだ。この型番『MK-II』は、内部クロックの乱数生成ロジックに脆弱性がある」
俺はコインを一枚投入した。
だが、レバーは引かない。
「……1、2、3……」
俺は心の中でフレーム数(1/60秒単位)をカウントし始めた。
RTA走者にとって、乱数調整は基礎教養だ。特定のタイミングで入力を開始することで、出現する絵柄のパターンを固定化できる。
「……今だ!」
ガシャン!
俺はレバーを引き、即座にボタンを3つ同時に叩いた。
リールが回転し――ピタリと止まる。
【7】【7】【7】
ジャラララララッ!!
大量のコインが吐き出される。
「す、すごいです! いきなり大当たり!?」
「まぐれですわよね?」
俺は無言でコインを再投入した。
カウント開始。23フレーム後にレバーオン。15フレーム後にストップボタン。
【7】【7】【7】
ジャララララッ!!
【7】【7】【7】
ジャララララッ!!
5分後。
俺の足元にはコインの山脈ができ、マシンの吐き出し口からは「グゥ……」という悲鳴と共に黒煙が上がっていた。
「こ、壊れましたわよ!?」
「マシンの貯蓄分を全部吐き出させたな。よし、次の台に行くぞ」
俺はホール内のマシンを次々と枯渇させていった。
それはギャンブルではない。ATMからの引き出し作業だった。
***
スロットで荒稼ぎした俺たちは、黒服の男たちに囲まれた。
「お客様……オーナーがお呼びです」
「来たか。VIPルームへの招待状だな」
俺たちは奥の特別室に通された。
そこには、葉巻をくわえた太った男――カジノ王ドン・ヴァレンチノが待っていた。
「ほう、随分と運がいいネズミが迷い込んだようだ。だが、ワシとの勝負でもその運が続くかな?」
ドンが不敵に笑う。
テーブルにはトランプ。種目はポーカーだ。
「レートはどうする?」
「全額だ。貴様が稼いだ全てのチップと、それから飛空艇を賭けろ」
「いいだろう。俺はカジノの経営権を貰う」
勝負が始まった。
ディーラーがカードを配る。
だが、俺は配られたカードを見もしない。
「……降りたほうがいいぞ、ドン」
「何? カードも見ずにハッタリか?」
「ハッタリじゃない。**『デッキの並び順』**が見えていると言ってるんだ」
俺はこのゲームのシャッフルアルゴリズムを知り尽くしている。
今の時間帯、ディーラーのシャッフル回数。それらから導き出される現在の山札の並びは、既に俺の頭の中で計算済みだ。
「貴様の手札は『クラブの2』と『ダイヤの7』。ブタ(役なし)だ」
「なっ……!?」
「そして次のカードは『ハートのA』。これで俺はロイヤルストレートフラッシュが完成する」
ドンが顔面蒼白になる。
俺はカードをめくった。宣言通り、そこには最強の役が揃っていた。
「イカサマだ!!」
ドンが机を叩いて立ち上がる。
「貴様、魔法を使ったな! 衛兵! こいつらを捕らえろ!」
部屋の四隅から、武装した用心棒たちが現れる。
やはりこうなるか。暴力による解決。
だが、今の俺には「金」がある。
「エリナ、クラウディア、下がってろ」
俺は山積みのチップを鷲掴みにした。
「金で買えないものはない。……ダメージとて例外ではない!」
俺はスキルを発動した。
商人クラスの隠しスキル、通称『銭投げ』。
「『ゴールド・ラッシュ(金貨の嵐)』ォォォッ!!」
俺の手から放たれたコインの散弾。
それは物理的な質量兵器となり、音速で用心棒たちを襲った。
ズダダダダダッ!!
「ぐわぁぁぁッ! 金が……痛いッ!?」
「1コインあたりの威力が……おかしい……ッ!」
所持金がそのままダメージに変換されるこのスキル。今の俺の所持金は数百億。魔王ですら即死する威力の札束(硬貨)ビンタだ。 因みに、このスキルを使った後にコインを拾えば所持金は減らない。
「ひ、ひぃぃぃ! 分かった! 降参だ! カジノでも何でもくれてやる!!」
ドン・ヴァレンチノは、金の暴力の前に土下座した。
***
カジノを制圧し、景品交換所を我が物とした俺は、ショーケースの奥にある**「それ」**を指差した。
「おい、あれを出せ」
「は、はい! こちらの『バニーガール・スーツ』ですね!」
店員が震えながら持ってきたのは、光沢のある黒いレオタードに、網タイツ、そしてうさ耳カチューシャ。
どう見てもカジノのウェイトレス用の衣装だ。
「そ、ソウマ様? まさかとは思いますが……」
「嫌ですわよ!? 死んでも着ませんわよ!?」
「いや、着てもらう」
俺は真顔で言った。
「この『幻影のバニースーツ』は、布面積は極小だが、回避率+80%、魔法耐性+50%、AGI+100という、ゲーム内最強クラスの性能を誇る」
「なんでそんなふざけた設定なんですの!?」
「開発者の趣味だ」
さらにこのゲームでは、女性用装備に限って「防御力は露出度に比例する」という謎の法則(お約束)がある。
フルプレートアーマーよりも、このバニースーツの方が遥かに硬いのだ。
「魔王城の結界を破るには、お前たちの生存率を上げる必要がある。……頼む、世界を救うためだと思って着てくれ」
俺の必死の説得(という名のステータス理論の講釈)が30分続いた。
最終的に、二人は真っ赤な顔で試着室から出てきた。
「……は、恥ずかしいです……スースーします……」
エリナが胸元を押さえて縮こまっている。破壊力抜群だ。
「こ、こんな格好で戦うなんて……お嫁に行けませんわ……!」
クラウディアが涙目で網タイツの足をモジモジさせている。こちらも素晴らしい。
だが、俺が見ているのは彼女たちの姿ではない。
その上に表示されているステータス画面だ。
防御力: 9999
回避率: 95%
「完璧だ……。これなら魔王の攻撃も『MISS』になる」
俺は満足げに頷いた。
これで金も装備も揃った。
「行くぞ。次はついに**『魔王城』**への突入だ」
「この格好で!?」
「この格好でですか!?」
バニーガール姿の聖女と悪役令嬢、そして大富豪になったRTA走者。
異様なパーティを乗せ、飛空艇は決戦の地へと飛び立った。




