第7話 学園トーナメントRTA
隠しダンジョンから帰還した翌日。
学園は、年に一度の祭典**『全校最強決定戦』**の話題で持ちきりだった。
「優勝者には『魔導王の指輪』と、あらゆる立ち入り禁止区域へのアクセス権を持つ**『プラチナIDカード』**が授与される……か」
掲示板の前で、俺はニヤリと笑った。
『プラチナIDカード』。これだ。これさえあれば、世界各地の封印された古代遺跡へフリーパスで入場できる。
正規ルートなら3年生になってから卒業試験で貰えるアイテムだが、トーナメント優勝なら1年生でも入手可能だ。
「ソウマ、まさか出るつもりですの? あなたたちはまだ入学して2日目ですわよ?」
隣でクラウディアが呆れている。
「出るぞ。そして今日中に卒業する」
「はあ!? 卒業!? 」
「学園編はあくまでチュートリアルだ。長居するとRTAのチャートが狂う」
俺は受付カウンターへ向かった。
当然、受付期間は終了している。
「あー、すいません。エントリー締め切りましたー」
受付の女子生徒が申し訳なさそうに言う。
「そうか。じゃあ、システム時間をいじるか」
「えっ?」
俺は受付嬢の背後にある、大会運営用の魔導時計に近づいた。
そして、時計の針を物理的に指で押さえ込み、無理やり「昨日」の時間へと逆回転させた。
ギギギ……ガチッ!
《システムエラー:時間の不整合を検知しました》
《エントリー期間を延長します》
「よし、開いたぞ。名前を書け二人とも」
「……もう何も言いませんわ」
「ソウマ様、器物破損で捕まりませんか……?」
こうして俺たち『チーム・RTA』は、強引にトーナメントの枠に滑り込んだ。
***
闘技場は熱気に包まれていた。
観客席には全校生徒と、国の貴賓たちが詰めかけている。
「さあ! 今年の注目株、3年生の『轟雷のバロン』選手の入場だー!」
ワァァァッ!!
対戦相手の大男が、バチバチと雷を纏って現れる。
対する俺も1人でリングに上がった。
「1年生風情が、怪我したくなかったら――」
「『リターン・ホーム(強制送還)』」
ヒュンッ。
開始のゴングのすぐ後、俺は空間魔法を放った。
これは本来、ダンジョンから脱出するための魔法だ。だが、対象を「敵プレイヤー」に指定し、転送先を「敵の自室」に設定すると……。
「……あれ? バロン選手が消えた!?」
「実家に帰ったんだろ。次」
《勝者:ソウマチーム(不戦勝)》
続く2回戦。
「行くぞオラァ!」
「『サモン・ウォール(壁召喚)』」
俺は敵の足元に壁を出現させた。
敵は壁の中に埋まり、ポリゴンの隙間に挟まって動けなくなった。
《勝者:ソウマチーム(判定勝ち)》
続く準決勝。
「私の剣技を――」
「エリナ、あいつに**『ヘイスト(加速)』**をかけろ。100倍だ」
「えっ、敵にですか? はい! 『ハイ・ヘイスト』!」
敵の速度が100倍になった。
速すぎて制御できなくなった敵は、自分の足で勢い余って場外へ吹っ飛び、壁に激突して自滅した。
《勝者:ソウマチーム(リングアウト)》
「……ソウマ、貴方、まともに戦う気はありますの?」
決勝戦を前に、クラウディアがジト目で聞いてくる。
「ない。これは『試合』じゃない。『作業』だ」
「観客がブーイングしてますわよ」
「アイテムさえ貰えれば、好感度はマイナスでも構わん」
俺たちの悪評(と恐怖)が最高潮に達したところで、いよいよ決勝戦が始まった。
***
決勝の相手は、学園最強と謳われる『生徒会執行部チーム』。
副会長の騎士、書記の魔導師、会計の暗殺者というバランスの取れたエリート集団だ。
「会長……目を覚ましてください! そんな卑怯な男に洗脳されているんですね!」
副会長が悲痛な叫びを上げる。
「あら、心外ですわね。私は自分の意思でここにいますのよ。……まあ、脅迫と利害の一致ですけれど」
クラウディアが優雅に扇子を開く。
その全身には、エリナによる支援魔法『アタックブースト』『マジックブースト』『プロテクション』『リジェネ』等のアイコンが、もはや画面を埋め尽くすほど重なって表示されている。
「行くぞ。作戦名『リスキル』だ」
「了解ですわ」
「はいっ!」
試合開始のゴングが鳴った。
カァァァァァァッ!!
瞬間、闘技場が真っ白に染まった。
クラウディアが放ったのは、初級魔法『ファイアボール』。
だが、俺の裏技で威力を固定値ではなく**「所持金依存(おカネの力)」**に書き換えた、課金仕様のファイアボールだ。
昨日のオークションで得た10億ゴールドが、火力係数に乗っている。
ドゴォォォォォォン!!!
核爆発のようなキノコ雲が上がり、闘技場の結界にヒビが入る。
爆煙が晴れた後には、黒焦げになった(生きてはいる)執行部チームと、消し飛んだリングだけが残っていた。
「……あーあ、やりすぎだ」
「貴方の指示でしょうが!!」
シーンと静まり返る会場。
やがて、審判が震える声で告げた。
「し、勝者……チーム・RTA!!」
***
表彰式。
学園長である大賢者マーリン(見た目は好々爺)が、引きつった笑顔で俺たちにトロフィーを渡そうとする。
「おめでとう……まさか新入生が優勝するとは。これは『魔導王の指輪』、そしてこれが……」
学園長が『プラチナIDカード』を取り出した瞬間、俺はそれをひったくった。
「よし、確保」
「ちょ、君! まだ話が!」
「学園長、単刀直入に頼みがある」
俺はカードを懐にしまいながら言った。
「俺たち3人の**『卒業』**を認めてくれ。今すぐだ」
「は……? 何を言っておるんじゃ? 卒業には最低でも3年の課程と、単位が……」
「ここに居ても、もう学ぶことはない。それに、俺たちがこれ以上学園に居座ると、校舎の修理費が予算をオーバーするぞ?」
俺は先程消し飛ばした闘技場と、昨日破壊した女子寮の壁、そして入学試験でメンタル崩壊させた生徒たちを指差した。
学園長の顔色が青ざめる。
彼は悟ったのだ。この「災害」をこのまま学園に留めておく方がリスクが高いと。
「……わ、わかった。特例中の特例じゃが、君たちの実力は認める。今すぐ出て行ってくれ……いや、卒業を許可する!」
「話が早くて助かる。じゃあな」
俺は背を向け、手を振った。
「本当に……本当に卒業してしまいましたわ……」
クラウディアが呆然と呟く。
「夢みたいです……私、昨日まで田舎の修道女だったのに、今日は王立学園の卒業生……?」
エリナが卒業証書(手書きのメモ)を震える手で持っている。
「感傷に浸ってる暇はないぞ。カードを手に入れたことで、次のフラグが立った」
俺は空を見上げた。
学園生活、所要時間:約28時間。
RTAのチャート通り、完璧なラップタイムだ。
「次は世界地図の北端、**『極北の古代遺跡』**だ。そこに眠る『飛空艇』を回収する」
「ひ、飛空艇!? あの伝説の?」
「ああ。徒歩移動はもう終わりだ。これからは空の旅だぞ」
俺たちは正門を出た。
振り返ることはない。
学園はただの通過点。
俺たちの冒険(攻略)は、世界全体へと広がっていく。




