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第6話 裏ダンジョンRTA

「……ソウマ、一つ聞いてもよろしくて?」


「なんだ?」


「なぜ私たちは、女子寮の洗濯室にいますの?」


 入学試験の騒動から1時間後。


 俺たちは、学園の敷地内にある女子寮――その地下にある薄暗い洗濯室にいた。


 むせ返るような洗剤の匂いと、乾燥機の回る音が響く中、クラウディアがゴミを見るような目で俺を睨んでいる。


「まさかとは思いますけれど、貴方の目的はダンジョンではなく、乙女の秘密の……」


「違う。座標がここなんだ」


 俺は洗濯室の奥にある、旧式の巨大な洗濯機を指差した。


「この洗濯機の裏にある『ひび割れた壁』。ここに向かって**『しゃがみ歩き』で3回突進**すると、壁の当たり判定が消えて裏世界(隠しエリア)に行ける」


「……頭がおかしいのですか?」


 クラウディアの反応は正常だ。だが、このゲームの開発者が酔っ払って設定したとしか思えないこの隠し通路こそが、最強への近道なのだ。


「エリナ、壁に『聖なる光』で目印をつけてくれ。クラウディアは俺が壁を抜けたら、すぐに炎魔法で援護してくれ」


「は、はい! やります!」


「もう勝手になさい……!」


 俺は洗濯機の裏に潜り込み、壁に向かって奇妙な動きを繰り返した。

 

 ズザッ、ズザッ、ズザッ……スルッ。


 3回目の突進で、俺の体は泥の中に沈むように壁の中へと吸い込まれた。


「「消えた!?」」


「ほら、道は繋がってるぞ。来い」


 壁の向こう側から手招きする。


 そこには、カビ臭い空気と、どこまでも続く螺旋階段――**『禁書庫の隠しダンジョン』**の入り口が広がっていた。


***


 螺旋階段を降りた先には、広大な地下図書館が広がっていた。


 宙に浮く無数の本、勝手に動き回る羽ペン、そして通路を徘徊する『リビングアーマー(Lv.60)』たち。


「ひっ……! あんな強そうな鎧がうようよと……!」


「戦うなよ、時間の無駄だ」


 エリナが悲鳴を上げるが、俺は制止する。


 このダンジョンの敵は強い上に、経験値効率が悪い。RTAにおける正解は「全スルー」だ。


「でも、通路を塞いでいますわよ?」


「あれを見ろ。床のタイルの『色が違う部分』があるだろ」


 俺は通路の端にある、微妙に色の薄いタイルを指差した。


「あの上を歩くと、**『敵の索敵AIがプレイヤーを見失う』**という設定ミスがある」


「そんな馬鹿な……」


 半信半疑のクラウディアだが、俺の後ろについてそのタイル上を歩くと、目の前のリビングアーマーが完全にこちらを無視して通り過ぎていった。


 まるで俺たちが透明人間になったかのように。


「……この世界の騎士道はどうなっていますの?」


仕様ルールを守らない奴が悪いんだ」


 俺たちは敵の群れを悠々と素通りし、ダンジョンの最深部――**『時の回廊』**へと到達した。


 そこには、巨大な時計の針が刻まれた扉がそびえ立っていた。


「ここだ。この中に、経験値100倍のボーナスボスがいる」


「ボーナスボス……嫌な予感がしますわ」


「大丈夫だ。お前の『炎』があればすぐに終わる」


 俺はニヤリと笑い、重厚な扉を押し開けた。


***


 部屋の中央には、宙に浮く歯車と、その上に座禅を組む青白い肌の魔人がいた。


 隠しボス**『時の魔神クロノス(Lv.80)』**。


 本来なら、魔王前に挑む裏ボスだ。


 その能力は凶悪極まりない。


「我ガ眠リヲ妨ゲル者ヨ……時ノ狭間ニ消エ失セ――」


 クロノスが目を開き、その手が動き出す。


 奴の初手は確定行動。**全体即死魔法『タイム・パラドックス』**だ。回避不能、防御不能のクソ技である。


「来ますわよ! 防御結界を!」


「必要ない! クラウディア、最大火力の『フレア・ランス』を構えろ!」


「えっ!? でも撃った後に殺されますわよ!?」


「俺が**『硬直』**を消す!」


 俺は叫びながら、インベントリから大量の**『マナポーション』**を取り出した。


 クロノスが魔法を唱えようとした、その瞬間。


「今だ撃て!!」


「ええい、ままよ! 『極大炎槍フレア・ランス』ォォッ!!」


 ドォォォォン!!


 クラウディアの杖から、極太の炎の槍が放たれた。


 魔神のHPがガクンと減る。だが、まだ倒れない。そして魔法の発動後、クラウディアは「詠唱後の硬直時間」で動けなくなる――はずだった。


 バシャッ!


 俺はすかさず、クラウディアの顔面にマナポーションをぶっかけた。


「ぶべらっ!?」


「次! 撃て!」


 ポーションをぶつけられたことで、クラウディアに「のけぞりモーション」が発生する。


 これにより、**「魔法発動後の硬直モーション」が強制キャンセル(上書き)された。


 いわゆる『アイテム投げ硬直キャンセル』**だ。


「な、何をするんですの!?」


「いいから撃て! 奴にターンを回すな!」


「こ、この無礼者ぉぉぉ! 『フレア・ランス』!!」


 ドォォォォン!!

 

 バシャッ!(ポーション投擲)


「んぐっ!? き、貴様ぁぁ!」


「はいキャンセル! 次!」


「『フレア・ランス』ッ!!」


 ドォォォォン!!


 バシャッ!


 それは、側から見ればリンチだった。


 魔神クロノスは、初手の『タイム・パラドックス』を唱えようと口を開くたびに、超火力の炎槍を叩き込まれ、詠唱を中断させられる。


 反撃しようにも、ソウマとクラウディアの連携(?)があまりにも速すぎて、AIが反応できない。


 Damage 9999!

 Damage 9999!

 Damage 9999!


「オ、オノレェェ……時ガ……見エヌ……」


 哀れな魔神は、一度も時を操ることなく、ただ炎とポーションの嵐に揉まれて消滅した。


***


《隠しボス【時の魔神クロノス】を撃破しました》


《レベルが上がりました。Lv 57 → Lv 60》


《クラウディアのレベルが上がりました。Lv 40 → Lv 45》


《エリナのレベルが上がりました。Lv 55 → Lv 58》


 静寂が戻った部屋で、レベルアップのファンファーレだけが虚しく鳴り響く。


 俺は足元に落ちたドロップアイテムを拾い上げた。


 【スキル書:クイック・キャスト(詠唱破棄)】

 【アクセサリー:時の指輪(CT短縮-20%)】


「やったな、クラウディア」


「……」


 振り返ると、全身ポーションまみれでベタベタになった公爵令嬢が、鬼の形相で震えていた。


 美しい赤髪からは、甘いシロップのようなポーションが滴り落ちている。


「ソウマ……」


「ん? なんだ、礼ならいいぞ。これでお前も一線級の魔導師に――」


「死刑ですわ!!」


 ボウッ!!

 

 クラウディアの全身から怒りの炎が噴き上がる。


 だが、俺は冷静に【時の指輪】を装備し、手に入れたばかりのスキルを使った。


「おっと。『縮地テレポート』」


 ヒュンッ。


 俺の姿が一瞬で消え、部屋の出口へと移動する。


「待ちなさい! 逃しませんわよ!」


「ふふ、元気があってよろしい。さあエリナ、次に行くぞ」


「あ、あの二人、本当に仲が良いんですね……?」


 エリナが苦笑いしながらついてくる。


「待てコラァ! 洗濯して返せぇぇ!!」


 背後から迫る炎の弾幕をギリギリで躱しながら、俺は次の目的地の座標をマップにピン留めした。


 異世界RTA、現在タイムは順調に記録更新中である。


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