第5話 魔法学園RTA
オークションでの資金調達と装備強化を終えた俺たちが次に訪れたのは、大陸中央部に位置する**『王立エルドラド魔法学園』**だ。
世界中から優秀な魔導師が集まる最高学府であり、卒業生は国家の重鎮になることが約束されているエリート養成所である。
だが、俺の目的は「学歴」ではない。
この学園の生徒IDカードが、世界各地にある**「古代遺跡」への通行手形**として機能するからだ。これがないと、後半の必須ダンジョンに入れない仕様なのだ。
「す、すごい……! あれがエルドラド学園……!」
正門の前に立ち、エリナが感嘆の声を漏らす。
空に浮かぶ校舎、練り歩くゴーレム、賢そうな学生たち。
「ソウマ様、受験の手続きは済ませてあるんですか? 倍率は100倍以上だと聞きますが……」
「手続き? してないぞ」
「えっ」
「正規の手順だと、願書提出から受験票が届くまで2週間もかかる(リアル時間経過待ち)。そんな無駄な時間は過ごせない」
俺は正門の横にある「守衛の詰め所」を指差した。
そこには、一人の老齢の守衛が座っている。
「いいかエリナ。今から『遅刻した受験生』のフリをして、あの守衛に話しかける」
「は、はい……でも、願書を出してないのに?」
「問題ない。このゲームには**『未登録のIDでも、特定の会話選択肢を選ぶと受験フラグが強制的に立つ』**というバグがある」
俺は守衛の元へ走り寄り、息を切らせる演技をした。
「はぁ、はぁ! す、すみません! 受験票を道中で魔物に食われました! でもどうしても受けたいんです!」
「むむ? それは大変じゃな。しかし名前がないと……」
ここで選択肢が出る。
1.『諦めて帰る』
2.『賄賂を渡す』
3.『泣き落とす』
普通ならどれを選んでも門前払いだ。
だが、俺はここで**「選択肢が表示される瞬間に、メニュー画面を高速で開閉」**した。
ピピピピッ!
ウィンドウが点滅し、処理落ちが発生する。
すると、本来隠されていたデバッグ用の4つ目の選択肢が浮かび上がった。
4.『DEBUG: TEST_USER_ENTRY(テストユーザーとして入場)』
「よし、これだ」
俺は迷わずそれをタップした。
「おお! そうか、君が特別推薦枠の生徒じゃったか! すまんすまん、通りたまえ!」
「ありがとうございます!」
守衛のAIが一瞬で書き換わった。
エリナがポカーンとしている間に、俺たちは堂々と正門を通過した。
***
会場に通された俺たちは、そのまま筆記試験を受けることになった。
広い講堂に数千人の受験生が並んでいる。
「あの……ソウマ様。私、勉強なんて経典くらいしか……」
「安心しろ。俺もこの世界の歴史なんて知らん」
「ええっ!?」
試験官が配った問題用紙には、難解な魔法陣の解析や、複雑な歴史問題がびっしりと書かれている。
だが、俺はペンを動かそうともしない。
代わりに、問題用紙を**「極限まで目に近づけ、斜め45度から見る」**という奇行を始めた。
「ソ、ソウマ様? 何を?」
「……見えた。やっぱりこのバージョンでも修正されてないな」
この『アストラル・ブレイド』のテクスチャ処理には癖がある。
紙のような薄いオブジェクトを特定の角度で見ると、**「裏面に印刷された正答データ」**が透けて見えてしまうのだ。
開発者が「答え合わせ機能」を作る際、便宜上、紙の裏側にデータを貼り付けたまま消し忘れたらしい。
「問1はC、問2はA、問3は……」
俺は猛烈な勢いでマークシートを埋めていく。
「ちょ、ちょっとソウマさん! 私の分も教えてください!」
「ええい、うるさい! お前は適当に『全てC』で埋めとけ! 確率的に25点は取れる!」
結局、俺は開始5分で満点の答案を完成させ、残りの時間を居眠りに費やした。
真面目に解こうとした貴族の子弟たちが頭を抱えている横で、俺たちの答案は光の速さで回収された。
***
午後の実技試験。
闘技場に集められた受験生たちの前に、一人の少女が現れた。
燃えるような真紅の髪。意志の強さを感じさせる吊り目。
豪華なドレスのようなローブを纏い、取り巻きを従えている。
「ごきげんよう、平民の皆様。私がこの試験の監督官を務める、生徒会長のクラウディア・フォン・ローゼンバーグですわ」
会場がざわめく。
彼女こそ、この国の公爵令嬢であり、学園最強の炎使い。
そしてシナリオ上では、主人公を何かと目の敵にする**「悪役令嬢」**キャラだ。
「試験内容は簡単です。この私に一撃でも魔法を当てられたら合格。……まあ、無理でしょうけれど」
クラウディアが扇子で口元を隠し、高らかに笑う。
実際、彼女の周囲には常時**『自動防御障壁』**が展開されている。
生半可な魔法では傷一つつけられない。
受験生たちが次々と挑むが、彼女の指パッチン一つで黒焦げにされていく。
「次! 受験番号404番、ソウマ!」
名前を呼ばれ、俺は闘技場の中央に進み出た。
手には杖ではなく、先程のオークションで手に入れた「木の棒(素振り用)」を持っている。
「あら? 魔法を使えないのかしら? そんな粗末な棒で何をするつもり?」
「いや、魔法は使うよ。ただ、ちょっと他と違うだけだ」
俺は棒を構えた。
クラウディアが余裕の笑みを浮かべる。
「面白いわ。見せてみなさい、貴方の全力――」
「『システム・コール:エモーション・キャンセル』」
俺はその場で、奇妙な動きを繰り返した。
「手を振る」→「座る」→「手を振る」→「座る」。
「は? な、何をふざけて……」
クラウディアが呆れた顔をする。
だが、俺の狙いは彼女の感情AIだ。
NPCは、プレイヤーが特定の敵対行動を取ると戦闘モードに入る。しかし、友好アクション(手を振る等)を高速で織り交ぜられると、「戦闘モード」と「会話モード」の判定が毎秒60回入れ替わり、思考ルーチンがフリーズする。
「な、体が……動かない!? 魔法が発動しない!?」
クラウディアの顔が引きつる。防御障壁のエフェクトが明滅し、消失した。
「今だ。『ストーン・バレット(石つぶて)』」
俺は最下級魔法を放った。
本来なら蚊に刺された程度のダメージだが、今の彼女は「無防備(非戦闘)状態」。
つまり、防御力ゼロとして計算される。
デコピン程度の威力の石が、彼女の綺麗なおでこに直撃した。
「あ痛っ!?」
コツン、という軽い音と共に、クラウディアが尻餅をつく。
会場が静まり返った。
あの最強の公爵令嬢が、石ころ一つで転ばされたのだ。
「ご、合格……」
試験官が震える声で宣言した。
***
試験終了後。
俺は校舎裏に呼び出されていた。
目の前には、額に絆創膏を貼ったクラウディアが立っている。顔は真っ赤だ。
「く、屈辱ですわ! まさかこの私が、あんな卑怯な手で……!」
「卑怯じゃない。仕様だ」
「あー言えばこー言う! 貴方、名前は!?」
「ソウマだ。こっちは相棒のエリナ」
「どうも……」
クラウディアは俺を睨みつけた後、ふとエリナを見て目を見開いた。
「貴女……その魔力量、ただ者ではありませんわね? それにソウマ、貴方のその動き……無駄がなさすぎて逆に気持ち悪いですわ」
さすが公爵令嬢、見る目がある。
俺はニヤリと笑った。彼女のステータスは『魔力:S』『カリスマ:S』。そして何より、固有スキル**『王家のコネ(公権力)』**を持っている。
これは使える。
「クラウディア、単刀直入に言う。俺たちのパーティに入れ」
「はあ!? なぜ私が貴方なんかの下につかなければなりませんの!?」
「お前、本当は限界を感じてるんだろ?」
「なっ……」
図星だろう。
ゲーム内でも、それが原因で闇落ちするルートが存在する。
「俺についてくれば、お前を世界最強の炎術師にしてやる」
悪魔の囁き。
クラウディアの瞳が揺れる。
彼女はプライドが高いが、それ以上に「強さ」への執着が強いキャラだ。
「……嘘だったら、火あぶりにしますわよ?」
「契約成立だな」
《クラウディア がパーティに加入しました》
こうして、俺たちは入学初日にして生徒会長(悪役令嬢)を攻略し、学園の最高戦力を手に入れた。
彼女の権力を使えば、立入禁止の図書館だろうが、王宮の宝物庫だろうが顔パスだ。
俺の「効率的異世界ライフ」は、ますます加速していく。
「よし、次は学園の地下にある『裏ダンジョン』に行くぞ。あそこには美味しいボスがいるんだ」
「またですか……」
ドン引きするエリナとクラウディアを引き連れ、俺は迷わず女子寮(の地下への隠し通路)へと向かった。




