第4話 オークションRTA
王都防衛戦から一夜明けた。
街は勝利の祝杯に酔いしれているが、俺たち「Fランク冒険者コンビ」は、王都の裏路地にある会員制の巨大建築物――**『王立オークションハウス』**の前に立っていた。
「ソ、ソウマ様……ここ、貴族や大商人しか入れない場所ですよね? 私たちみたいな身なりで入ったら、衛兵に突き出されますよ?」
エリナがローブの裾を握りしめて怯えている。
無理もない。ここは本来、ストーリー終盤で主人公が「王家の紹介状」を持って訪れる場所だ。
「安心しろ。正面突破(正規ルート)はしない」
「えっ?」
「このオークションハウスの入場判定には穴がある。会員証のチェックを行う門番だが、**『特定の感情エモート』**を3回連続で行うと、処理落ちしてドアが開くんだ」
俺は門番の前に立った。
屈強な男が槍を交差させる。
「止まれ。会員証なき者は通せ――」
俺は無言で、以下の動作を高速で行った。
『お辞儀』→『挑発』→『お辞儀』。
「……は?」
門番が困惑の表情を浮かべる。
その思考AIが「礼儀正しいのか敵対的なのか」を判断できず、ループ処理に陥る。
その隙に、俺は当たり前のように横をすり抜けてドアノブを回した。
「よし、開いた。行くぞエリナ」
「もはや犯罪の手口じゃないですか!?」
エリナのツッコミを無視して、俺たちは煌びやかなシャンデリアが輝く会場へと足を踏み入れた。
***
会場は熱気に包まれていた。
肥え太った貴族、怪しい魔導師、成金商人たちが、ステージ上の商品に熱い視線を送っている。
「さあ、次は『炎龍の鱗』! 500万ゴールドから!」
「600万!」
「700万!」
飛び交う桁違いの金額。
エリナがクラクラして俺の袖を引く。
「ソ、ソウマ様、帰りましょう。私たちの所持金じゃ、水一杯も買えませんよ」
「心配するな。俺たちの狙いは、あの派手なステージじゃない」
俺が向かったのは、会場の隅にある薄暗いコーナー。
そこには**『ジャンク品・未鑑定品・訳あり品』**と書かれた看板が掲げられ、埃をかぶったガラクタが無造作に積まれていた。
「いらっしゃい……。ここは貧乏人が来る場所じゃねぇぞ」
やる気のない係員が欠伸をする。
「ここにあるものを買いに来た」
俺はガラクタの山を指差した。
一般人(NPC)にはただのゴミに見えるだろう。
だが、俺の「鑑定眼(という名のゲーム脳)」には、とんでもないお宝が見えていた。
例えば、あそこに転がっている**『黒ずんだ石ころ』。
あれは【覚醒石】**だ。特定の最強武器を作るための必須素材で、ドロップ率は0.01%。
隣にある**『ボロボロの猫のぬいぐるみ』。
あれは【身代わり人形】**。装備しておけば、一度だけ死亡してもHP満タンで復活できる消費アイテム。
そして極めつけは、一番奥にある**『錆びついた懐中時計』**だ。
(……あった。あれこそが今回の目玉だ)
【クロノスの歯車】。
「おっさん。ここの山にあるもの、**『まとめて全部』**くれ」
「あん? 正気か? 呪われてるかもしれねぇガラクタだぞ」
「構わない。いくらだ?」
「……まとめて金貨10枚(約10万円)でいいよ」
激安だ。
市場価格(プレイヤー間取引)なら、この山だけで国家予算が動くレベルだ。
「よし、買った」
俺は即座に支払いを済ませ、インベントリに「ゴミの山」を放り込んだ。
「ソ、ソウマ様……本当にお金大丈夫ですか? なけなしの報酬が……」
「エリナ、これは『浪費』じゃない。『投資』だ。そして今から、資金回収を行う」
俺はニヤリと笑い、今度はメインステージの受付カウンターへと向かった。
***
「出品希望だと? どこの馬の骨とも知れぬ小僧が……」
オークションの支配人は、鼻で笑って俺を見た。
「まあ待て。モノを見てから判断してくれ」
俺はインベントリから、昨日倒したボス『深淵の公爵』からドロップしたアイテムを取り出し、机の上にドンと置いた。
それは、禍々しい紫色の光を放つ巨大な角だった。
【深淵の角】
レアリティ:レジェンド
支配人の顔色が変わる。
「こ、これは……! 伝説の悪魔、アビス・デュークの角!? なぜこんなものを!?」
「昨日の王都防衛戦で拾ったんだ。運良く死体の近くに落ちててな」
「す、素晴らしい! これほどの魔力を秘めた素材は見たことがない! これなら伝説の杖や剣が作れるぞ!」
支配人が興奮して鑑定ルーペを覗き込む。
……プッ。笑いをこらえるのが大変だ。
確かに、この【深淵の角】はレアリティこそ「レジェンド」だが、実は**「罠アイテム」だ。
これを素材にして武器を作ると、必ず「装備者のHPが毎秒減少する呪い」**が付与される。しかも、攻撃力も大して高くない。
見た目が派手なだけの、典型的な「観賞用アイテム」なのだ。
だが、この世界の住人は「内部データ」を知らない。
「レジェンド級の素材=最強」と信じ込んでいる。
「これをメインステージの目玉商品として出したい。いいか?」
「も、もちろんです! 特別に手数料も勉強させていただきます!」
……数分後。
「さあ! 本日のサプライズ商品の登場です!!」
司会者の絶叫と共に、ステージに【深淵の角】が運び込まれた。
会場がどよめき、貴族たちが身を乗り出す。
「1億ゴールド!」
「2億!」
「3億だ! あれがあれば我が国の軍事力は倍増する!」
値が釣り上がっていく。
最終的に、とある好戦的な大国の大使が、10億ゴールドで落札した。
「……ちょろいな」
舞台袖で、俺は換金された小切手の束を数えた。
10億ゴールド。
これで当分、ポーション代にも宿代にも困らない。何なら城を一つ買ってお釣りが来る。
「ソ、ソウマ様……。10億って……私たち、一生遊んで暮らせますよ……?」
エリナが泡を吹いて倒れそうだ。
「バカ言え。こんな金、後半の装備強化に使ったら一瞬で溶けるぞ」
俺は涼しい顔で言った。
このゲームの強化システムは、成功率が低いくせに費用が高い鬼畜仕様だ。10億なんて、武器を「+10」にするだけで消し飛ぶ可能性がある。
「さて、金も手に入ったし、最強アクセサリも確保した。帰るぞエリナ」
「は、はい……。もう私の常識が粉々です……」
***
宿に戻った俺は、早速ガラクタの中から**【クロノスの歯車】**を取り出した。
一見するとただの壊れた時計だ。
「よし、これを装備枠にセット……ん?」
俺はふと、アイテムの説明欄の隅にある小さな文字に気づいた。
『※隠し効果:特定の職人が修理することで、真の力が解放される』
「……あ、そうだった」
忘れていた。これは「壊れた状態」だと効果が半減してるんだった。
修理するには、伝説の鍛冶師『頑固親父のガンテツ』が必要だ。
だが、正規ルートで彼に会うには、面倒な「お使いクエスト」を10個くらいこなして好感度を上げる必要がある。
(面倒だな……。よし、**グリッチ(バグ技)**で直すか)
「エリナ、ちょっと手伝ってくれ」
「はい? 今度は何を?」
「この時計を俺が空中に投げるから、お前は全力で『ヒール』をかけてくれ」
「時計にヒールですか? 無機物には効きませんよ?」
「普通はな。だが、**『投げて空中にあり』かつ『エリア移動の境界線ギリギリ』**で回復魔法を受けると、プログラムが『これは生物かもしれない』と誤認して、耐久度が回復するバグがある」
「……もう何も言いません。やります」
エリナは悟りを開いたような顔で杖を構えた。
「いくぞ! せーのっ!」
俺は宿の部屋のドア(エリア移動判定)に向かって時計を投げた。
同時にエリナが魔法を放つ。
ピカーッ!
空中で時計が光り輝き、錆が剥がれ落ちていく。
そして俺の手元に戻ってきた時には、新品同様の黄金の懐中時計に変わっていた。
【真・クロノスの歯車】
効果:スキル硬直時間ゼロ。全スキル即時発動可能。
追加効果:AGI +200
「……完璧だ」
これで俺は、理論上「MPが続く限り無限にスキルを連射できる」マシンガンと化した。
レベル46のステータスに、レベル99相当の装備。
もはや魔王ですら、今の俺には「ちょっと硬い雑魚」でしかないかもしれない。
「ソウマ様、その時計、すごく綺麗……」
「ああ。これでエリナのレベル上げ効率も3倍になるぞ」
「えっ」
「そのうち隣の国の『ドラゴンの巣』に行く予定だからな。あそこのドラゴン、湧き位置が固定だからハメやすいんだ」
「……私の安息の日々はいつ来るんでしょうか」
嘆くエリナだが、そのステータス画面にはしっかり**『称号:共犯者』**が刻まれていた。




