第11話 魔王討伐RTA
魔王城最上階、玉座の間。
この世界の支配者である魔王**『ヴァルハザール』**は、世界征服の計画書を読み上げながら、勇者が来るのを優雅に待っていた。
「……フム。やはり、人間どもには絶望から始まるスローな侵攻が、最も効果的であろうな」
その時。
ドゴォォォォォォン!!!
凄まじい轟音と共に、玉座の間の巨大な天井が、音を立てて崩れ落ちた。
そして、舞い散る瓦礫の中から、飛空艇『ラグナロク』の船首が突き刺さって登場した。
「て、天井から船が!?」
魔王が驚愕する間もなく、船体は中央の玉座目掛けて突進する。
俺は操縦桿を握りしめ、叫んだ。
「よう、魔王! **『突撃!ラグナロクアタック!』**だ!」
ゴッシャァアアアア!!
飛空艇は玉座を粉砕し、そのまま床をぶち破って地下へ。
そして、その玉座に座っていた魔王ヴァルハザールは――。
《魔王ヴァルハザール(第一形態)が、即死しました》
《死亡理由:衝突による物理ダメージおよび、瓦礫の下敷き》
「……あっさり」
俺は船体から飛び降りた。
目の前には、砕けた玉座の残骸と、その下で潰れた魔王の第一形態がドロップアイテムと化している。
「ソ、ソウマ様……。魔王様が、一度も喋ることなく、事故死しました……」
「まさか、これが伝説の終焉ですの?」
エリナとクラウディアが、バニースーツ姿のまま呆然としている。
「いや、終わってないぞ」
俺は首を横に振る。
「第一形態は、**『戦闘開始ムービーのロード処理』でHPが固定化される。その状態でムービーをスキップし、固定HPに大ダメージを与えると、プログラムが処理落ちして即死するバグがある」
「……」
「つまり、この『ラグナロク特攻』**は、すぐに第二形態に行きたい時用の裏ワザなんだ」
俺が解説していると、船体の穴が開いた地下から、禍々しいオーラが吹き上がってきた。
グオオオオオオオオオッ!!
砕けた床から巨大な悪魔の腕が伸びてきた。
先程の魔王とは比べ物にならない、純粋な暴力の塊のような存在感。
「許サヌ……許サヌゾ、勇者ドモ……!! 戯レニ、我ガ**『究極形態』**ヲ引キ出スナァ!!」
本来は、第一形態を倒した後に発生する「絶望のイベントシーン」を経て変身するはずの、**『真・魔王ヴァルハザール(Lv.99)』**が、激怒とともに目の前に降臨した。
「よっしゃ! 予定通り、第二形態からのスタートだ! タイム短縮成功!」
「こっちは予定通りじゃありませんわよ!?」
***
真・魔王ヴァルハザールは、赤い巨大な肉塊と黒い装甲が融合した、おぞましい姿だった。
「貴様ら、我ガ力ノ前ニ、無力ヲ知ルガイイ! 『因果律ノ収束』!!」
魔王の周囲の空間が歪む。 奴の初手は、このゲーム最強のチート技。
『次回発動する攻撃を、対象の回避・防御を無視して確定で命中させる』という、システムそのものに干渉する能力だ。
「ソウマ、来ますわよ! 逃げられません!」
「ああ。必中攻撃だ。避けることも防ぐこともできない」
だが、俺は不敵に笑い、インベントリを開いた。
「だから、『攻撃そのものを発生させない』」
俺が取り出したのは、カジノ都市の景品交換所で大量に仕入れておいた『祝砲の打ち上げ花火(100連発)』**だった。
それを両手に10個ずつ、計20個抱えている。
「えっ? 花火? お祝いですの?」
「エリナ、クラウディア! 今すぐ一番重い魔法……エフェクトが派手なやつを準備しろ! 俺の合図で撃つんだ!」
「わ、わかりました! 『極大炎槍』!」
「『聖なる光・最大出力』!」
魔王が腕を振り上げ、必殺のモーションに入る。
「消エロ、虫ケラドモォォォ!!」
「今だ! 『処理落ちクラッシュ』開始!!」
俺は20個の花火すべてに同時点火し、魔王の足元にばら撒いた。
ヒュルルルル…… ドン! パァン! バババババババババババッ!!!
一瞬にして視界が極彩色に埋め尽くされた。
2000発の光の粒子が同時に弾け飛び、画面全体を覆い尽くす。
さらにそこに、エリナとクラウディアの極大魔法のエフェクトが重なる。
瞬間、世界の動きが「カクついた」。
「な、何が……!? 私の体が……重い……!?」
クラウディアが驚愕する。
魔王の動きが、コマ送りのように遅くなり、ついにはピタリと静止した。
「よし、成功だ! **『描画負荷によるAI思考停止』だ!」
「しこうていし……?」
「この魔王のAIは無駄に高性能なんだ。『因果律操作』なんて複雑な計算をしている最中に、許容量を超える大量のオブジェクト(花火)を同時に描画させられると、処理が追いつかなくなってフリーズする!」
この世界を構成する演算能力には限界がある。
俺たちプレイヤーキャラクターの処理は軽いが、ラスボスである魔王の処理は重い。
負荷がかかった時、真っ先に動けなくなるのは一番重いヤツだ。
「グ……ゥ……、ウ、ゥ……」
魔王は攻撃モーションの途中で固まり、唸り声を上げながら震えている。
その胸元には、本来なら攻撃後の隙にしか現れないはずの『赤く光る弱点』**が、処理落ちのせいで無防備に露出したまま固定されていた。
「見ろ! コアが丸見えだ! このラグ空間の中で動けるのは、思考ルーチンの軽い俺たちだけだ!」
「なるほど……よく分かりませんけれど、相手が勝手に自滅しましたわ!」
「勝負は一瞬で決めるぞ! 全弾叩き込め!」
***
処理落ちでスローモーションになった世界で、俺たち3人だけが動く。
フリーズしている今こそ、最大のチャンスだ。
「よし! **『アンデッド化』からの『属性反転』を弱点のコアに付与!」
俺は魔王の弱点に触れ、呪いを上書きする。 魔王のコアが黒く変色した。
「クラウディア! 火力だ! 遠慮するな!」
「くっ……! この格好で恥ずかしいですけれど、世界を救うためですわ!」
バニースーツのクラウディアが、全魔力を込めた炎槍をコアに叩き込む。
炎は「超ダメージ」となって、魔王の身体を内部から焼き尽くしていく。
「エリナ! 最高のバフを!」
「はい! 今こそ……! 『聖女の奇跡』!」
エリナが天に向かって手を突き上げた。
本来、このスキルは味方全員のステータスを一時的にカンストさせる「最終支援魔法」。
だが、バニーガール・スーツの持つ「露出度と防御力反比例」のバグが、エリナの聖なる力と作用した。
ピカーッ!!
エリナの全身から発せられた光が、バニースーツのエナメル素材に反射し、増幅される。
それは、周囲の敵全てに「回復不可」と「防御力ゼロ」の状態異常を強制付与する、『神聖なる全裸光線』**となって魔王を包み込んだ。
ギィィィヤアアアアアアア!!
魔王は、フリーズから復帰する間もなく、「光」と「炎」に挟まれ、絶叫を上げた。
バニーガール二人による、最高にシュールで最高に強力な合体技だ。
***
数秒後。
花火の煙が晴れると同時に、魔王は巨大な光の粒となって消滅した。
《真・魔王ヴァルハザールを撃破しました》
《世界に平和が訪れました》
《実績解除:『魔王? 処理落ちで死にました』
魔王城が崩壊していく。
俺はアイテムを回収し、飛空艇の電源を再投入した。
「ソウマ、これで……これで本当に終わり、なんですよね?」
「ああ。メインストーリーはクリアだ」
俺は微笑んだ。
その時、ステータス画面に一つのポップアップが表示された。
《裏要素『真の異世界』が解放されました》
「こっちもあったか」
画面には、広大な宇宙と、この世界が**「とある巨大なゲームのチュートリアルワールド」**に過ぎないという文字が映し出されていた。
「ソウマ様? どうかしましたの?」
俺はポップアップを閉じた。
今は、言わなくていい。
「いや、なんでもない。ちょっとした『隠しエンディング』を見ただけだ」
俺は二人に振り向いた。
バニーガール姿のまま、顔を赤くしている二人。
「エリナ、クラウディア。魔王は倒した。だが、俺たちの冒険はまだ終わらない」
「え?」
「次の目的地は**『宇宙』だ。この飛空艇を改造して、外宇宙の『隠し最強装備ダンジョン』**へ行くぞ」
俺は二人を抱えて飛空艇に飛び乗った。
崩れ落ちる魔王城を後に、ラグナロクは天井に開いた大穴から、再び空へと飛び立っていく。
世界を救った勇者たちの姿は、バニースーツ姿のまま、新たな物語へと向かうのだった。
第一部・完
一旦ここまでにします。
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