第10話 四天王RTA
カジノ都市を飛び立った飛空艇『ラグナロク』の甲板で、俺は地図を広げていた。
「いいか、魔王城の結界を解除するには、大陸の四方に散らばる『四天王』を倒す必要がある」
俺の前には、バニーガール姿の二人が直立不動で並んでいる。
極小面積のスーツに身を包んだ聖女エリナと、悪役令嬢クラウディア。風が吹くたびに二人は「きゃっ」と裾を押さえる。眼福であり、最強の布陣だ。
「目標タイムは、移動時間込みで10分だ」
「じ、10分!? 相手は魔王軍の最高幹部ですわよ!?」
「移動だけで数日かかる距離です!」
「安心しろ。この飛空艇の速度なら、各ポイントへの移動は数秒だ」
俺は操縦桿を握り、スロットルを限界まで倒した。
「まずは『土の四天王』だ。歯を食いしばれ、G(重力)がかかるぞ!」
ドォォォォォン!!
***
数秒後。
俺たちは荒涼とした岩山の上空に到着した。
眼下には、全身が岩石でできた巨漢、**『土の四天王・グラン』**が鎮座している。
「ぬん? 空から何奴……我が鉄壁の防御を破れると――」
グランがこちらを見上げ、防御態勢を取る。
彼の防御力はカンストしており、物理攻撃も魔法もすべて「1ダメージ」に抑え込む。本来は、特定のイベントアイテムを使って装甲を剥がすギミックボスだ。
「降りる必要はない。エリナ、ハッチを開けろ」
「は、はい!」
俺はインベントリから、カジノの景品交換所で手に入れた**『ミスリルの金庫(重量:10トン)』**を取り出した。
「ソウマ? それをどうするんですの?」
「落とす」
「えっ」
俺は金庫をハッチから蹴り落とした。
ヒュルルルルル……!
目標はグランの脳天。
このゲームのダメージ計算式には、『落下ダメージ=重量 × 高さの二乗』という物理演算が組み込まれている。そして、これは「防御力」を計算に含まない固定ダメージだ。
「ぬ? なんじゃあの小さな影は……ぐべぇっ!?」
ズドォォォォォン!!!
金庫がグランの頭頂部に直撃した瞬間、岩山ごと粉砕するような衝撃波が発生した。
グランのHPバーが一瞬で蒸発する。
《土の四天王を撃破しました》
《戦闘時間:00:03》
「はい次! 東の海へ向かう!」
「ひ、ひどいですわ! 敵にセリフすら喋らせませんでしたわよ!?」
***
続いて到着したのは、広大な湖。
湖面が盛り上がり、美しい人魚の姿をした**『水の四天王・アクア』**が現れた。
「あら、可愛いウサギさんたち。私の海へようこそ。ここでは息ができるかしら?」
ザパァァッ!
アクアが水を操り、フィールド全体を巨大な水球で包み込む。
水中戦。動作が鈍り、呼吸ゲージが減っていく不利なフィールドだ。
「ふふ、苦しいでしょう? 水中では私の独壇場……」
「エリナ、**『サンダー・ボール(雷の珠)』**を持て」
「えっ? これですか? 雑貨屋で買った安物ですけど……」
「それを水中に投げろ」
エリナがおずおずと雷の珠を投げる。
本来なら、半径数メートルに小ダメージを与えるだけのアイテムだ。
だが、ここは水中。
そしてこのゲームの物理エンジンは、**「水属性フィールドにおける雷属性の伝導率」**の設定を一桁間違えている。
バチバチッ……
ドガガガガガガガガガッ!!!
一瞬にして湖全体が発光した。
高圧電流が水を伝い、回避不可能な全体攻撃となってアクアを襲う。
「ぎゃあああああ!? し、痺れ……感電……!?」
さらに悪いことに、感電状態になると「麻痺」で動けなくなる。
水中の電撃は毎フレーム(1/60秒)ごとにヒット判定が発生する。
Damage! Damage! Damage!
アクアは白目を剥いて痙攣し、そのまま浮き上がってプカプカと漂い始めた。
《水の四天王を撃破しました》
《戦闘時間:00:08》
《ドロップ:焼き魚定食》
「……これ、虐待として訴えられません?」
エリナがドン引きしている。
「行くぞ。次は風の塔だ」
***
雲を突き抜ける高い塔の上。
背中に翼を持つ**『風の四天王・シルフィ』**が待ち構えていた。
「ここまでは来たか。だが、私のスピードについて来れるか――」
シルフィは超高速で空を飛び回り、残像を生み出す。
回避率99%。攻撃を当てることすら困難なスピードスターだ。
「ソウマ! 速すぎて見えませんわ! 魔法が当たりません!」
「ロックオンできません!」
「近づくから当たらないんだ」
俺は飛空艇を旋回させ、塔から5キロメートルほど離れた位置まで後退した。
シルフィの姿が豆粒のようになり、やがて見えなくなる。
「逃げるんですか!?」
「いや、ここが**『安置』**だ」
俺は甲板に設置したバリスタ(巨大弓)に座った。
敵のAIには**「索敵範囲」がある。プレイヤーが一定距離以上離れると、敵は「戦闘モード」から「待機モード(棒立ち)」に戻るのだ。
しかし、俺のバリスタの射程は、敵の索敵範囲よりも1メートルだけ長い**。
「つまり、ここは一方的に攻撃できる距離だ」
俺はスコープを覗き込む。
遠くの塔の上で、シルフィが「あれ? 敵がいない?」と空中で静止(棒立ち)しているのが見える。
「動かない的なら外さない」
ドシュッ!
放たれた巨大な矢が、放物線を描いて飛んでいく。
数秒後。
棒立ちしていたシルフィの頭に矢が深々と突き刺さった。
「ギャッ!?」
「次」
ドシュッ!
「グェッ!?」
反撃も回避もしない(できない)敵に対し、俺は淡々と矢を撃ち込み続けた。
《風の四天王を撃破しました》
《戦闘時間:00:45(移動含む)》
「……あの人、騎士道とかないんですの?」
クラウディアが蔑んだ目で見ているが、バニーガール姿の彼女に言われてもな。
***
最後は活火山。
火口の中に、全身が炎に包まれた**『火の四天王・イフリート』**がいた。
「我が火力は無限! そしてこの溶岩がある限り、我は何度でも蘇る!」
イフリートの特性は**『超再生』**。
溶岩から熱を吸収し、毎秒HPを全回復する。倒すには、一撃で最大HPを超えるダメージを与えるしかない。
「クラウディア、出番だ」
「ええ! 任せて! 私の最強炎魔法で……って、相手は火属性ですわよ!? 炎なんて撃ったら回復されるだけですわ!」
「それでいい」
俺はアイテムボックスから、ドクロのマークが描かれた怪しい杖を取り出した。
『冥王の杖』。
これを装備して魔法を使うと、対象に**『アンデッド化(回復反転)』**の呪いを付与できる。
「俺がまず、こいつに『小回復』を撃つ。冥王の杖の効果で、奴は『回復魔法でダメージを受ける』体質になる。ついでに『属性吸収』も『属性弱点』に反転するバグがある」
「……ま、まさか」
「そうだ。奴にとって、今やお前の炎は**『致死性の猛毒』であり『即死級の回復魔法』**だ」
俺は杖を振った。
イフリートの体が灰色に変色する。
「な、なんだ!? 体が冷えて……!?」
「やれ、クラウディア! 全力全開だ!」
「分かりましたわ! 行きますわよ! 『プロミネンス・バースト(恒星爆発)』ッ!!」
バニーガールの悪役令嬢が、極大の火球を放つ。
本来ならイフリートを喜ばせるだけのご馳走。
だが、今の彼にとっては――。
「ギャアアアアアッ!? なぜだ!? 炎が……熱いぃぃぃぃ!?」
設定が反転したイフリートは、自分の得意属性であるはずの炎に焼かれ、さらに「炎による回復効果」が「ダメージ」に変換され、二重の苦しみの中で消し炭になった。
《火の四天王を撃破しました》
《四天王全滅を確認。魔王城の結界が消滅しました》
***
飛空艇の甲板に戻った俺は、時計を確認した。
「……タイムは8分30秒。上出来だ」
4人の最強幹部を葬り去り、俺たちはついに魔王城の上空へと到達した。
眼下には、結界が解け、無防備になった禍々しい城が広がっている。
「本当に……10分以内で終わらせてしまいましたわ……」
「私たちが強くなりすぎたんでしょうか……?」
呆然とする二人。
だが、ここからが本番だ。
「よし、このまま魔王の玉座の間(最上階)に突っ込むぞ」
「えっ!? 着陸して正門から行くんじゃありませんの!?」
「面倒だ。天井を突き破ってエントリーする」
俺は飛空艇の船首を下へ向けた。
目標、魔王城天守閣。
「舌を噛むなよ! ダイナミック入城だ!」
「いやあああああ! 助けてお母様ぁぁぁ!!」
悲鳴と共に、俺たちは魔王の待つ最終決戦へと急降下していった。
バグと知識と暴力に彩られた魔王討伐物語も、いよいよフィナーレが近い。




