表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/11

第10話 四天王RTA

 カジノ都市を飛び立った飛空艇『ラグナロク』の甲板で、俺は地図を広げていた。


「いいか、魔王城の結界を解除するには、大陸の四方に散らばる『四天王』を倒す必要がある」


 俺の前には、バニーガール姿の二人が直立不動で並んでいる。


 極小面積のスーツに身を包んだ聖女エリナと、悪役令嬢クラウディア。風が吹くたびに二人は「きゃっ」とないけどを押さえる。眼福であり、最強の布陣だ。


「目標タイムは、移動時間込みで10分だ」


「じ、10分!? 相手は魔王軍の最高幹部ですわよ!?」


「移動だけで数日かかる距離です!」


「安心しろ。この飛空艇の速度なら、各ポイントへの移動は数秒だ」


 俺は操縦桿を握り、スロットルを限界まで倒した。


「まずは『土の四天王』だ。歯を食いしばれ、G(重力)がかかるぞ!」


 ドォォォォォン!!


***


 数秒後。


 俺たちは荒涼とした岩山の上空に到着した。


 眼下には、全身が岩石でできた巨漢、**『土の四天王・グラン』**が鎮座している。


「ぬん? 空から何奴……我が鉄壁の防御を破れると――」


 グランがこちらを見上げ、防御態勢を取る。


 彼の防御力はカンストしており、物理攻撃も魔法もすべて「1ダメージ」に抑え込む。本来は、特定のイベントアイテムを使って装甲を剥がすギミックボスだ。


「降りる必要はない。エリナ、ハッチを開けろ」


「は、はい!」


 俺はインベントリから、カジノの景品交換所で手に入れた**『ミスリルの金庫(重量:10トン)』**を取り出した。


「ソウマ? それをどうするんですの?」


「落とす」


「えっ」


 俺は金庫をハッチから蹴り落とした。


 ヒュルルルルル……!


 目標はグランの脳天。


 このゲームのダメージ計算式には、『落下ダメージ=重量 × 高さの二乗』という物理演算が組み込まれている。そして、これは「防御力」を計算に含まない固定ダメージだ。


「ぬ? なんじゃあの小さな影は……ぐべぇっ!?」


 ズドォォォォォン!!!


 金庫がグランの頭頂部に直撃した瞬間、岩山ごと粉砕するような衝撃波が発生した。


 グランのHPバーが一瞬で蒸発する。


《土の四天王を撃破しました》

《戦闘時間:00:03》


「はい次! 東の海へ向かう!」


「ひ、ひどいですわ! 敵にセリフすら喋らせませんでしたわよ!?」


***


 続いて到着したのは、広大な湖。


 湖面が盛り上がり、美しい人魚の姿をした**『水の四天王・アクア』**が現れた。


「あら、可愛いウサギさんたち。私の海へようこそ。ここでは息ができるかしら?」


 ザパァァッ!


 アクアが水を操り、フィールド全体を巨大な水球で包み込む。


 水中戦。動作が鈍り、呼吸ゲージが減っていく不利なフィールドだ。


「ふふ、苦しいでしょう? 水中では私の独壇場……」


「エリナ、**『サンダー・ボール(雷の珠)』**を持て」


「えっ? これですか? 雑貨屋で買った安物ですけど……」


「それを水中に投げろ」


 エリナがおずおずと雷の珠を投げる。


 本来なら、半径数メートルに小ダメージを与えるだけのアイテムだ。


 だが、ここは水中。


 そしてこのゲームの物理エンジンは、**「水属性フィールドにおける雷属性の伝導率」**の設定を一桁間違えている。


 バチバチッ……


 ドガガガガガガガガガッ!!!


 一瞬にして湖全体が発光した。


 高圧電流が水を伝い、回避不可能な全体攻撃となってアクアを襲う。


「ぎゃあああああ!? し、痺れ……感電……!?」


 さらに悪いことに、感電状態になると「麻痺」で動けなくなる。


 水中の電撃は毎フレーム(1/60秒)ごとにヒット判定が発生する。


 Damage! Damage! Damage!

 

 アクアは白目を剥いて痙攣し、そのまま浮き上がってプカプカと漂い始めた。


《水の四天王を撃破しました》

《戦闘時間:00:08》

《ドロップ:焼き魚定食》


「……これ、虐待として訴えられません?」


 エリナがドン引きしている。


「行くぞ。次は風の塔だ」


***


 雲を突き抜ける高い塔の上。


 背中に翼を持つ**『風の四天王・シルフィ』**が待ち構えていた。


「ここまでは来たか。だが、私のスピードについて来れるか――」


 シルフィは超高速で空を飛び回り、残像を生み出す。


 回避率99%。攻撃を当てることすら困難なスピードスターだ。


「ソウマ! 速すぎて見えませんわ! 魔法が当たりません!」


「ロックオンできません!」


「近づくから当たらないんだ」


 俺は飛空艇を旋回させ、塔から5キロメートルほど離れた位置まで後退した。


 シルフィの姿が豆粒のようになり、やがて見えなくなる。


「逃げるんですか!?」


「いや、ここが**『安置セーフ・ポジション』**だ」


 俺は甲板に設置したバリスタ(巨大弓)に座った。


 敵のAIには**「索敵範囲」がある。プレイヤーが一定距離以上離れると、敵は「戦闘モード」から「待機モード(棒立ち)」に戻るのだ。


 しかし、俺のバリスタの射程は、敵の索敵範囲よりも1メートルだけ長い**。


「つまり、ここは一方的に攻撃できる距離だ」


 俺はスコープを覗き込む。


 遠くの塔の上で、シルフィが「あれ? 敵がいない?」と空中で静止(棒立ち)しているのが見える。


「動かないマトなら外さない」


 ドシュッ!

 

 放たれた巨大な矢が、放物線を描いて飛んでいく。


 数秒後。


 棒立ちしていたシルフィの頭に矢が深々と突き刺さった。


「ギャッ!?」


「次」


 ドシュッ!


「グェッ!?」


 反撃も回避もしない(できない)敵に対し、俺は淡々と矢を撃ち込み続けた。


《風の四天王を撃破しました》

《戦闘時間:00:45(移動含む)》


「……あの人、騎士道とかないんですの?」


 クラウディアが蔑んだ目で見ているが、バニーガール姿の彼女に言われてもな。


***


 最後は活火山。


 火口の中に、全身が炎に包まれた**『火の四天王・イフリート』**がいた。


「我が火力は無限! そしてこの溶岩がある限り、我は何度でも蘇る!」


 イフリートの特性は**『超再生』**。


 溶岩から熱を吸収し、毎秒HPを全回復する。倒すには、一撃で最大HPを超えるダメージを与えるしかない。


「クラウディア、出番だ」


「ええ! 任せて! 私の最強炎魔法で……って、相手は火属性ですわよ!? 炎なんて撃ったら回復されるだけですわ!」


「それでいい」


 俺はアイテムボックスから、ドクロのマークが描かれた怪しい杖を取り出した。


 『冥王の杖』。


 これを装備して魔法を使うと、対象に**『アンデッド化(回復反転)』**の呪いを付与できる。


「俺がまず、こいつに『小回復ヒール』を撃つ。冥王の杖の効果で、奴は『回復魔法でダメージを受ける』体質になる。ついでに『属性吸収』も『属性弱点』に反転するバグがある」


「……ま、まさか」


「そうだ。奴にとって、今やお前の炎は**『致死性の猛毒』であり『即死級の回復魔法』**だ」


 俺は杖を振った。


 イフリートの体が灰色に変色する。


「な、なんだ!? 体が冷えて……!?」


「やれ、クラウディア! 全力全開だ!」


「分かりましたわ! 行きますわよ! 『プロミネンス・バースト(恒星爆発)』ッ!!」


 バニーガールの悪役令嬢が、極大の火球を放つ。


 本来ならイフリートを喜ばせるだけのご馳走。


 だが、今の彼にとっては――。


「ギャアアアアアッ!? なぜだ!? 炎が……熱いぃぃぃぃ!?」


 設定が反転したイフリートは、自分の得意属性であるはずの炎に焼かれ、さらに「炎による回復効果」が「ダメージ」に変換され、二重の苦しみの中で消し炭になった。


《火の四天王を撃破しました》

《四天王全滅を確認。魔王城の結界が消滅しました》


***


 飛空艇の甲板に戻った俺は、時計を確認した。


「……タイムは8分30秒。上出来だ」


 4人の最強幹部を葬り去り、俺たちはついに魔王城の上空へと到達した。


 眼下には、結界が解け、無防備になった禍々しい城が広がっている。


「本当に……10分以内で終わらせてしまいましたわ……」


「私たちが強くなりすぎたんでしょうか……?」


 呆然とする二人。


 だが、ここからが本番だ。


「よし、このまま魔王の玉座の間(最上階)に突っ込むぞ」


「えっ!? 着陸して正門から行くんじゃありませんの!?」


「面倒だ。天井を突き破ってエントリーする」


 俺は飛空艇の船首を下へ向けた。


 目標、魔王城天守閣。


「舌を噛むなよ! ダイナミック入城だ!」


「いやあああああ! 助けてお母様ぁぁぁ!!」


 悲鳴と共に、俺たちは魔王の待つ最終決戦へと急降下していった。


 バグと知識と暴力に彩られた魔王討伐物語も、いよいよフィナーレが近い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ