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異世界配信サービス  作者: vincent_madder
第2章 境界線上のカタチ / Madonna Borderline
14/42

第14話 サイカイ

スマホの画面が、徐々に強く発光していた。


通知音も操作もしていない。

それでもEWSアプリは起動していた。

──「フレーム:Rize - 接続中」


ユウは逸る気持ちを抑えながら画面をタップする。


そこに映っていたのは、石造りの屋上のような場所。風に髪を揺らす少女の背中が、ただ静かに佇んでいた。


コメント欄は灰色に沈黙し、送信も再生もできない。


「…リゼ?」


画面に映るリゼは、包帯を巻いた姿のまま、空を見上げていた。


カメラは固定で、背中越しにその存在を捉えている。街の音が風と共に遠くに聞こえるだけだった。


ユウは思わず声をかける。


「その怪我…何があったんだよ…?」


しかし、リゼに反応はない。

一度だけ彼女はゆっくりと振り返り、それからまた空へと視線を戻した。


「…昔いたの。孤児院」


「街の端の、崩れかけた教会の裏。誰も名前なんて呼んでくれない。番号が名前代わりだった」


「私は、...12番」


風が髪をなびかせる。彼女の目は空を見ていたが、その視線はきっと、もっと遠く。


「掃除して、水汲んで、壊れた木の床の隙間に指挟んで」


「…それでも誰かが死ぬたび、私は生き延びてた」


「理由なんかなく」


言葉は淡々と、でもどこか擦り切れた声で紡がれる。


「この前…死にかけの、あの森で」


「きみと会ったあのときよ」


「あれは魔獣だったのかな?見境なく暴れて、逃げ場もなかった…」


「私もう終わりだと思った」


一拍、風音が止まったような静寂。


「でも――助けられたの。3人組の冒険者に」


「でっかいのと、せかせかしたのと、やたら優しい子」


言葉を選ぶようにリゼは続ける。


「一番大きな男の人は、ナズって名前で……最大化マキシマの使い手」


「私を助けて運んでくれた人よ」


「いつも騒がしい女の人はハナラ」


「自分で作った魔術を、番号で呼んで発動するの。横着ロストメモリって特技」


「…私を助けるための火炎がすごくてね、巻き込まれそうだった」


「もうひとり、ロア」


「静かで、目が合うとちょっと怖い。でも、治癒の特技、治癒ホーリーグローリーを…」


「あの人の手がなかったら、たぶん今ここにいない」


リゼの背中は、ほんのわずかに揺れる。


「でも、わかるんだよ。私」


「助かったんじゃなくて……“死ねなかった”だけ」


そして、ぽつり。


「……死ねなかった、あのとき」


「どっちでもよかったのに」


思わずユウが声をかける。


「……何言ってんだよ、そんなの──」


「……今だって聞こえてる“気がする”だけ」


「気のせいだと思うけど…でもたまに、あたたかい風が吹く気がする、だけ。」


「そんなことない!」


ユウは叫んでいた。



──「相互フレーム:Rize - 展開します」

視界の揺れとともに、画面が変化した。


フレームが切り替わりリゼの顔が現れる。

同時にユウの顔もリゼの前に映っていた。


お互いの目が合った。


「どっちでもいいなんて…そんなこと、言うなよ」


ユウの声がかすれる。


「死んでほしいなんて思わない。…生きててほしいんだ。ちゃんと、生きて」


「それから…死ぬときは、納得して笑って逝くべきだよ」


リゼは目を細めたまま、ほんの少しだけ口元を動かす。


「…見てるだけだから、そんなこと言えるんでしょ」


その言葉にユウの呼吸が止まる。


「…っ、そうかもしれない。でも…」


言いかけた瞬間フレームがぐにゃりと歪み、ノイズが走った。映像が暗転し、白い文字が浮かぶ。


──配信は終了しました──



部屋の中は、静まり返っていた。

ユウはスマホを見つめたまま、まばたきすら忘れていた。


──見てるだけ、か。

その言葉が静かに胸の中をめぐる。


(……たしかに何もできなかった。あのときも、そう今回も)


不意にあの叫びが頭をよぎる。

チームエメラの最期。何が起きたのかもわからず突然消された映像。突然訪れる不条理な死。


見せられなかった、というより、見せてもらえなかった。


それが“無力”でも“傍観者”でも。

(それすら間違いだったのか……)

ユウはスマホをそっと置いた。


画面に微かなちらつきが一度だけ走った。

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