老人
「お兄さん、そこで待ってて」
公園の前で自転車を停めると、少年は駆け出していった。生意気とはいえ、まだまだ子ども。駆けていく後ろ姿は無邪気で可愛かった。そして少年は、公園のベンチのところまで行くと「あった。本、あったよ!」と大声で言って、こちらに手を振った。が、そんな少年の歓喜を打ち消すように、瞬く間に、公園の木の陰に隠れていた少年のエネミー達に、取り囲まれた。
どうする?助ける?僕は息を呑んだ。そうしている間にも、少年は罵倒され、蹴とばされ、腕を引っ張られて砂場に投げ飛ばされた。
僕は黙ったまま。少年を見つめていた。少年が悲しそうに僕の方を見た。助けなければと思った。僕は自転車から降りて、少年、エネミー達の方へ歩み寄っていく。相手は3人の小学生。まあ、何とかなるだろう。何とかなるか?
「なんだよ」
と、一人のエネミーが僕に向かって言った。僕はこれまで、人生の中でほとんど怒ったことがない。自分に怒りの沸点がない。だから、こういう場合、どうやって怒っていいのかわからない。けれども、少年の悲しそうな目を見て、立ち去ることなど出来なかった。
「なんだよ、ジジイ」
へ?僕はまだそんな年齢ではないぞ。と、首をかしげた。合点。僕の前に、白髪の老人の後ろ姿があった。僕は内心、ほっとした。この人が、少年を助けてくれる。まさに、ヒーローの登場だ。
「お前らな」
老人はそう言いながら、金髪の少年に手を伸ばして起こした。少年に安堵の色が広がった。しかし、老人の取った行動に、目を疑った。
「やり方が甘いんじゃ」
老人はそう言うと、少年を砂場に投げ倒した。そして倒れている少年に、二、三発蹴りを入れ、うずくまる少年に砂を投げつけた。
「なんだ。このジジイ、やべえぞ」
そう言って、少年のエネミー達はその場から去って行った。僕は、あっけにとられてその場に立ち尽くしていた。
「お前も、お前だ。このでくのぼう」
老人はそう言うと、僕に砂を投げつけてきた。なんなんだこの老人。助けるどころかエネミー達に加勢するわ、助けようとした僕にまで敵意をむき出しにするわ、でもな、結果的にあの少年を助けたのか、あえて、そのように振舞ったのか、いやどうだか。僕の頭は混乱した。
「このジジイ!」
倒れながらも金髪の少年は、老人の足を蹴とばした。老人は少しよろめくと、体勢を立て直して、少年のみぞおちに蹴りを入れた。少年は仰向けに空を見つめていた。
「まあ、君たち。こっちへ来たまえ」
老人は少年を起こすと、ほとんど無理矢理、ベンチに座らせた。その様は、段ボールに荷物を押し込むようであった。僕は早くこの場を去りたかったが、なんだか、このまま去る方が危険に思えて、少年の隣に座った。




