放課後のハプニング
部活終わり。
僕は今、美術部の先輩たち二人と帰路についている。
「ごめんねぇ櫂人くん。すっかり遅くなっちゃって……。」
「大丈夫です。浩介先輩は電車でしたっけ?」
「そうなのよぉ。あんまり遅くなると親が心配しちゃうから、なるべく早く帰りたいんだけどね。ついつい創作に熱が入っちゃって!」
この人は広瀬浩介先輩。
スポーツ刈りの髪型と筋肉質な体つきとは対照的に、性格は穏やかな乙女……いわゆるオカマというやつだ。
「鏑木くんはここの近くなんだっけ?」
「はい。近くのアパートで一人暮らしです。」
「高一から一人暮らしってすごいよね!尊敬しちゃうなぁ〜。」
「まず吉野先輩は米炊けるようになりましょう?」
「うーん。そのうち。」
「それ絶対やらないやつですよね。」
もう一人は二年生の吉野京子先輩。
大のミリタリー好きで、美術部でも戦車とかの模型を作ってる人。
「私は、将来料理上手な旦那さんに専業主婦になってもらうからいいんですぅ〜!」
「あら?なら私からは櫂人くんを推薦するわ。」
「勝手に推薦しないでください。」
「櫂人くんかぁ。……『アリ』ね!」
「吉野先輩も真面目に検討しないでください。」
そんな会話を繰り広げていると、前方から見覚えのある顔が近づいてくるのに気づいた。
「かーいーとーくん!部活お疲れ様!」
「向日葵さん?もう帰ったんじゃ……。」
「いやいや、一緒に帰ろうって言ったじゃん。」
すっかり忘れてた。
そういえば今朝、部活終わりまで待ってるとか言ってた気がする。
「あらあら〜。櫂人くんがこんな可愛子ちゃんとお友達だったなんて。やっぱり、隅に置けないわね〜。」
「言ってくれたら早退してもよかったのに、特に今は忙しい時期ってわけじゃないんだから。」
「いや、それは流石に……ってか向日葵さん。まさかずっと外で待ってたの?」
僕がそう問いかけると、向日葵さんはピクッと肩を跳ねさせ、僕から目を逸らす。
その様子を見て、先輩たちも流石に驚いたようだった。
「嘘!?今日の気温三十度越えだよ!?」
よく見ると、向日葵さんの首筋や額がじんわりと汗ばんでいる。
水分補給を取っていたとしても、かなりの時間外にいたのが予想できた。
「えへへ……。実は今日図書室開いてなくて。でも、これくらいへっちゃらですよ!私、暑さには強いn──!」
「危なっ!」
僕は咄嗟に、前屈みに倒れそうになった向日葵さんの体を受け止める。
彼女の体は、長袖越しでもかなり熱く感じるほど発熱していた。
「酷い熱……。早くどこかで休ませないと。」
「この時間じゃ、保健室はもうしまっちゃってるわね……。櫂人くん、櫂人くんの家に運んであげられる?」
「僕の家ですか!?……わかりました!」
一瞬戸惑ったけど、この状況じゃそれしかなさそう。
家なら冷たいものが大量にあるし、それでもダメなら救急車だ。
「すみません!先輩たちも手伝ってもらっていいですか?」
「もち!この子は私がおぶるから、櫂人くんは道案内頼んだ!」
「はい!」
向日葵さんを吉野先輩に任せ、僕たちは急いで家に向かった。
「うぅ……。」
私は、太陽の光にも負けず劣らずの明るさを浴びて目を覚ます。
眩しい……。寝起きにこの明るさは目に刺さる……。
あれ?ってかなんで私寝てるの?
「大丈夫?」
状況が飲み込めずにいると、聞き覚えのある声が横から聞こえてきた。
「櫂人くん?」
「よかった。顔色もだいぶ良くなってる。」
声の方向を見ると、櫂人くんが心底安心したような表情でこちらをみていた。
えっと、一旦状況を整理しよう。
確か私は、櫂人くんの部活終わりまで図書室で時間を潰そうとして。
だけど、ちょうど図書室が空いてなかったから、学校の敷地をぶらぶらすることにして。
そのまま部活終わりの櫂人と合流したら、急に目の前が真っ暗になって……。
アレェ〜?これ私とんでもないことになっちゃってない!?
「え、えーっと……。櫂人くん、ここどこ?」
「僕の家だよ。」
デスヨネー!
熱中症で倒れた挙句に、櫂人くんの家まで運んでもらったやつだコレ〜!
「大変申し訳ございませんでした!」
「え?な、何が?」
「だってだって!私自業自得で倒れた上に、櫂人にこうやって迷惑かけてる最低女なんだもん!」
「迷惑なんかじゃないよ!むしろ救急車呼ばずに済んでよかったまで思ってるから!」
何この人神様ですか!?
なんか余計心が傷んでくるよ……。
「騒がしいけど、大丈夫?」
私が一人で盛り上がっていると、気を失う前に見た女の子の先輩が部屋に入ってきた。
「おー!目が覚めたみたいで何よりだよ。」
「あ、えと……。ありがとうございます……。」
この人なんで櫂人くんの家にいるだろ……まさか彼女さんとか?
もしそうだったら私本当に心が死んじゃう!
「なんでここにいるの?って顔してるね。」
「え!?な、なんでわかったんですか……?」
「昔から人の表情を読むのが得意でね。心配しなくても、私は鏑木くんの彼女とかそんなのじゃないから、安心して。」
思っていることを当てられた上に、フォローまでされてしまった……。
でも、ちょっと安心したかも。
「それはそれとして、感謝はして欲しいかな。私が貴女をここまで運んだんだから。」
「そうだったんですか!?ありがとうございました……。」
「うん!それじゃ、私はもう帰るよ。また明日学校でね。」
「はい。ありがとうございました。」
「可愛い後輩くんの頼みだもの。これくらいは当然。明日香ちゃんも無理はしないようにね。じゃねー!」
先輩はそう言い残して部屋を出て行った。
「なんか、色々迷惑かけちゃったみたいだね……。」
「そうだね。今度お菓子でも持っていこうかな。……あ、そうだ。今日は泊まって行きなよ。」
「…………へ?」