プロローグ
これは、私たちが体験した、ごく普通の高校生活のお話。
「なんで今日に限って寝坊しちゃうの〜!」
私、向日葵明日香は、今日から華の高校生生活を送る予定の女子高生!
……なんだけど、入学式当日に寝坊してしまったのだ。
ともかく、急いで行かないと「入学式に遅れてきた子」という印象がついてしまいかねない!
「ギリギリセーフ!……え?」
校門が閉まってる!?なんで!?
こういう日って一日中開いてるもんじゃないの!?
「どうしようどうしよう!このままじゃ入学式に参加すらできなくなっちゃう!」
「間に合ったぁ〜!」
突然の声に驚いた私が振り向くと、そこには私と同じ卸したての制服に身を包んだ男の子が立っていた。
私みたいに寝坊して走ってきたのか、彼は手を膝について肩で息をしている。
「えーっと……君も新入生?寝坊?」
「へ?」
私が突然話しかけたことに驚いたのか、彼はきょとんとした顔でこちらを見つめる。
「あ、あ〜!その様子だと君も遅れてきた感じ?」
彼はどこか納得したようにそう笑いかけてきた。
なんだろう。なんかすごい変な感じ。
「う、うん。寝坊しちゃって……名前とか聞いてもいい?」
「あ、えっと。鏑木櫂人。でもこれって自己紹介するタイミングかなぁ?」
確かに、言われてみればそうだ。
二人とも入学式に遅刻しそうなのに、こんなところで悠長に自己紹介なんてしてる場合じゃない!
「そ、そうだよね!ごめんね!変なこと言って……。」
「ううん。そんなことないよ。えっと、じゃあ君の名前は?」
「あ、えと。向日葵明日香……デス。」
何やってんのわたしぃ!
これじゃあ急に名前聞いたのに聞かれ返されたらキョドる変な子になっちゃうじゃん!
「向日葵明日香さんかぁ。じゃあ、向日葵さんって呼んでいい?」
「え!?あ、うん!も、もちろん!じゃあ私も……か、櫂人くんって呼ぶね!」
だ、大丈夫だよね?距離の詰め方おかしくないよね!?
「うん。よろしく。それで、なんで向日葵さんは校門前で立ってたの?」
あ、そうだ!
校門が開かなくて困ってたんだった!
「えっと、私寝坊して走ってきたんだけど、着いた時にはもう校門が閉まっちゃってて……。」
私がそう答えると、櫂人くんは校門に手をかけてガシャガシャと動かす。
「……確かに、これじゃあ入れそうにないね。」
「先生とか呼んできた方がいいかな?」
「いやー。この様子だと先生とかも全員学校の中でしょ?望み薄だと思うなぁ。」
となるともう本当に打つ手がなくなってしまう。
華の高校生活のスタートが、こんな形で始まるなんて……。
「……ちょっと待ってて。」
私がそんなことを思っていると、櫂人くんはおもむろに校門と繋がっている塀に手をつく。
「うん。なんとか行けそう。よっと──!」
──バサッ。
制服が翻る音と共に、彼は塀の上へと軽々飛び乗ってしまった。
「よし、なんとか行けた。はい。」
櫂人くんは少し体勢を整えた後、塀の上から右手を差し伸べてくる。
「……え?」
「入学式、出たいんでしょ?早くしないと時間過ぎちゃうよ!」
彼のその言葉を聞いて、私は咄嗟に手を伸ばす。
その私の手を力強く掴み、彼は塀の上まで私を引き上げてくれた。
「あ、ありがとう。」
「どういたしまして!まぁ、勝手に塀乗り越えちゃったけど。もし怒られたら一緒に怒られよ!」
櫂人くんのその言葉を聞いて、私の鼓動が早くなるのを感じる。
私の高校生活。最初からいきなり最高かも……!
ちなみに、入学式には遅れたし先生達にも結構強めに注意されちゃって、私は入学早々、先生達の間で「おてんば娘」の称号をもらうことになるのだが……。
それはまた別のお話。