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小帝都のレディスパーダ 1-2

 ミーラは、吹っ飛んでいく相手を見ながら、少し思い悩んでいた。この所、たびたび頭に浮かんでは消える、望んだ形での勝利。言葉にするのはたやすいけど。ただ、今の状態がそれになっているかといえば。あえて言えば。それからは程遠かった。

 自らの専属メイドであり、師匠でもある、ダルクが今の光景を見たら、おそらく、厳しい言葉を覚悟しないといけないだろう。

 そこには、目標とするべき、悪としての圧倒的な力による蹂躙もそして、思わず胸の奥からわき出でるような陶酔もなかった。もし今日の勝利がそれを満たしていたのならば、ダルクの言う未来が見えいていたのかもしれない。

 そんな感慨に浸っているさなか、爆風が軽く表皮を撫でる。そして、それはやがて治まる。その嵐の先。そう、歩にして30歩先。そこに、今日日の相手を見つけた。まだ生きているらしく、微かに胸が上下しているのが見える。

 安心したように息を吐くと、


「あっと、そうだった。ちゃんと相手の状況を見に行かないと」


 ダルクから、そこの点は、口を酸っぱくして注意を受けていた。目の前の相手が何なのか、十分に確認すること。それが、被害者なのか、それとも、真にヴィランに立ち向かうヒーローなのか?

 もし前者だとしたら、それは最大限の恐怖とトラウマを与えるべきだ。後者ならば……きっとその時にわかるでしょう。

 


 それはあまりに蘊蓄に富んでいて、みーらの頭ではわかり得ないような言い方だった。ただそこは、ダルクの知恵というか、なんというか幼児に教えるような言葉というか。まあ、私の決してできの良くない頭でもわかるように、簡略化とわかりやすく噛み砕いてもらってます。単語単語だけど、なんとか理解できたのは、たったそれだけ。その言葉だけだった。


「さてと、この状況は……どうやら哀れな被害者みたいだね。伸びてる」


「お、おまえは。な、何者だ。」


 その言葉に、ミーラはかすかに考えるようなそぶりを見せた。考えていたのは、どうすれば悪役さを際立たせる事ができるか?


「そうだね……わたしは 」


 ただ、その言葉は、最後まで言わせてもらえなかった。


 不意に、背中に衝撃が走った。決して重くない衝撃。痛いとかよりも、不意打ちの衝撃に驚き、思わず視線が上がる。真正面。その視線の先にそれを認識できた。


 白いスーツを着た男性。付き従う、奇怪な装備を身にまとった男性。驚きに呼応したせいだろうか。その刹那拘束がほんのわずかに拘束が緩んだ。そのすきを見逃すような甘い奴ではなかった。両手の拘束をものともせずに駆け出す。制止するには遅すぎて、奇怪な男性が2発、3発と弾丸を叩き込んだ。


 衝撃が襲う。ライフルと誤認したそれは、小口径の対戦車砲(アサルトキャノン)と気が付くのにわずかに時間がかかった。


「助けて!助けてくれ。化け物に襲われている!」


 白いスーツの男性が、男を迎え入れるように両手を広げた。


「大変だったね」


 少しクセのある発音。そのクセの正体が、嘲笑だと気がついた瞬間だった。男の姿が変わる。


「……元軍曹。魔属領より、備品横領並びに従軍規約違反により拘束命令が出ています。一緒に来てもらえますか?」


 そこにいたのは、白スーツの男性ではなく、青い制服のようなものを纏った男性だった。


「な、何が?」


「君には、裁判を受ける権利がある。

 黙秘権を行為する権利がある。

 また、()()()()()()()()弁護士を呼ぶ権利もある。


 と言ってやりたいところ。だが、残念だ。君にはどの権利も認められていない。

 地球法……改めディーカド法により現地判断で君のすべての自由を奪わせてもらう」


 男性が、まるで権利書を呼び上げるように男を拘束する。


「あ、待って、そいつは」


 ようやく、思わず、声が出た。一瞬だけだが、全員の視線がこちらに釘付けになった。


「ふふふ。確か君はレディ・スパーダだったね」


 真横から聞こえた、猫撫で声に、思わず、驚く。わたしの横に、そいつは立っていた。白いスーツと、近くによれば聞こえるカチコチとうるさいくらいの音。年齢は、お父様と同じくらいだろうか?そいつが、わたしの手に微かに触れる。


 なぜあんなことをしたのかはわからない。

 でも、思ってしまったのだ。



 こいつは、危険だ。危険だ。

 と、


「があぁぁぁぁぁ!」


 ブンっと振った剛腕の一撃は、容易く躱される。まさに、その瞬間、まるで計算され尽くされていたかのような、衝撃が襲いかかった。背中の何かが爆発した。刺さったものは取るに足りない玩具(ダーツ)のようなもの。認識の差異から現れる違和感。その分析にかけた。それこそが、最大の隙をもたらすとあたかも事前に知っていたかのように……。


「……」


 かすかな声が、確かに聞こえた。小さくかすかで、注意しないと聞き取ることもできないような声。誰の声かも分からない声。ただ、それが、まるで私を呼んでいるようにも感じた。

 慌てて視線を向ける。その先には、小さな人影。こぶしを私の腹に当てている。危機感がかすかにこめかみを揺らした。


「吻ッ!!」


 視界にすらとらえられず、衝撃を受ける。ただ事前にほんのわずかに回避できたからか、ダメージを受けた面積事態は小さい。ただ、それがその小さなこぶしから生み出されたものだと分析する(わかる)のには、わずかだが時間が必要だった。

 ただそのわずかな時間は、爆発物と化したこぶしが、混乱した私の頭と、わたしの体を近くの壁まで浮かせるだけには十分な時間だった。重火器の一撃でも、びくともしないと思っていた体が、折れ曲がり、悲鳴を上げながら、浮きながら近くの壁に突き埋もれた。


「くうっ。この!」


 がれきを剛腕の一振りで灰燼と化すものの、その一撃に来るべき衝撃は訪れず、ただ、それは虚空を切りった。

 唯一利と成したことは、一撃に舞い上がったほこりを切り払ったこと。それだけだった。

 眼前にあったのは、元のように静かな路地だった。さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返っている。

 ただ、さっきまでの光景は決して嘘ではなかったということを示す様に、魔属領性のパワードスーツが半壊状況のまま、記憶の中にある酒場の壁に完全にめり込み起動を完全に停止していた。

 あいつらは、どこにもいない。一瞬だけ逃げられたと思い、あたりを注意深く見まわす。


 だが、隠れる気はないらしく、それはたやすく見つけられた。



「いい夜だね。お嬢さん。でも、夜道は危険だよ」


 屋根の上に彼らはいた。4人。月明りに照らされて、私を見下ろしていた。


「ご忠告はどうも。さっき変な奴に襲われなければもっといい夜だったんだけど」


「それはそれは。大変だったね。同情するよ。ただ、無事ベッドに入るまでは安心してはいけないよ」


 キッと見据え、反論する。ただ、私は、まったく相手にされていないらしい。人の心をひりつかせるような、嘲るような甲高い笑い声だけが返ってきた。


 視線が外れたそれをチャンスととらえた私は、一気に跳躍する。青い制服の男が持っている、私の目標をとらえる。


「返してもらう。それは、私の」


「ああ、そうそう、こんなものでも、君のものじゃないんだよ。少しだけおとなしくしてもらえると助かる」


 声が聞こえたその瞬間だった。視界が暗闇に包まれ、無音になった。


 その少しあと、


 衝撃


 移動する感触


 かすかな衝撃


 包まれたものが、金属の球だと気が付くのに少し時間がかかった。



「お父様の言っていた、ボーリングっていうスポーツが、どんなものか理解できた気がするわ」


 そこから、さらに少し時間がかかり、何とか、私はその球体から脱出することに成功した。その背後で、球体が消滅していくのを確認しする。そして、大きく倒壊しかけた家屋を見つけて、ため息のように、大きく息を吐き出す。


「これが、敵か。

 

 少し厄介だな。



 おうちに帰りたい」


「それは赦されない行為であることを理解しているのですよね?お嬢様」


 今一番聞きたくない声が、聞こえ、私は姿勢を正した。そこには、私の替えの服を持ってきてくれたであろう、黒と紫のエプロンドレスを完備した冷たい表情の女性が立っていた。


 フォルテシモ家でミーラ専従侍女 ダルクだ。


「よい戦いぶりでしたが、後半のあれはいけません。正義には正義の、悪には悪の。そして、お嬢様にはお嬢様の理想があるのですから、そこで負けては良いわけではないですよ」


「……うん。なんとなくだけどわかるよ。」


 ダルクの手伝いのもと、下着を着せられて、お忍びの服を着せられる。


「でもさ、理想って何なのか、私にはまだわからないよ。ダルクにあれだけ教えられたのに」


「わたくしは、もう引退した身。残念なことに、お嬢様にお教えできることは少ないのです。(ヴィラン)とは。何を思い、何をなし……」


「そして、何を残すべきか?だよね?私は、ちゃんとできているのかな。すこしだけ、心配になってきたよ」


 その言葉に、ダルクは確かにほほ笑んだのだと思う。


「いつか、そのお嬢様の悩みを払ってくれる瞬間が訪れますよ。さあ、帰りましょう。私たちの(拠点)へ。」


 うなづく。手を取り少し力を込めて、その手を握り締める。夜はまだ深く、そして、まだ、夜明けは遠くにあった。

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