第6話 シンデレラ、眠り姫を起こして幸せになる
茨の間を抜けて城の塔を駆け上がると、そこには金髪の美しい姫が糸車の横で眠っていました。
「貴方の運命の女性です」
シンデレラに促され、王子が姫の頬を優しく叩くと姫はゆっくり瞳を開けました。昏睡などではなく寝てただけですから。
見つめ合う二人に気を利かせ、シンデレラはそっと廊下へ出ました。心優しい王子は魅力的ですが、恋人にならんとする二人を邪魔する野暮はいけません。扉を閉め、使命達成の満足感に微笑んで、膝を抱えて扉に背を預けます。
ガチャ。
「いだっ」
急に扉が開いてシンデレラの体は扉ごと後ろへ崩れました。しかし頭は硬い床の代わりに柔らかな衣に当たります。王子の脚でした。
「どうなさいました」
頭を摩りつつ振り返ると、王子は顔に手を当て悲痛な面持ちで話し始めました。
「彼女の知識は百年前のままです……自国の王制が滅したことも、現在の政治情勢も貨幣価値もわからず、言葉遣いまでもがすでに廃れた昔のものです…」
王子の声にやるせなさが滲みます。
「もし私が彼女を妻として公に出たら……立場上、彼女の時代遅れな知は他国に嘲られ民の信を失い、何より彼女自身を不幸にしてしまうでしょう……」
なんと魔女はとんだ不釣り合いな相手と運命の糸を繋いでいたとは。
シンデレラは自分の案内がこんなに思慮深く慈悲深い王子を苦しめたと思うと、何とか彼を助けたいと胸が痛くなりました。
すると王子はシンデレラに手を差し伸べ、真摯な瞳を向けました。
「私には貴女のように機転の利く勇敢な伴侶が必要です。どうかずっと私の側で、奥の姫も民も幸福にする力を貸してくれませんか!」
いつしか王子の誠実さに惹かれていたシンデレラは、今まで経験のない胸の鼓動と頬の熱さを感じ、王子の手に手を重ねて強く頷きました。
*
そういえばシンデレラの国の王子はどうしたかって?
魔女にお茶に誘われ、無為に時間を過ごしておりました。
シンデレラの様子を水晶で見た魔女は、眠り姫の元に来たのが運命の相手でないことに気付き、茨が王子に道を開けなかったのはそのせいかーと納得です。
世間知らずの眠り姫には俺様な人が合うかもと、シンデレラの国の王子とのお見合いを考え中とか。
めでたし、めでたし。