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思い出鉄道

作者: マリーミチコ

「大ニュースよ!ねぇ知ってる?川鉄、赤字続きでなくなるかもしれへん」

学校へ行くと、噂好きのユキがクラス中に言って回っていた。

「えぇ!うそー!廃線ってこと?川鉄がなくなったらアタシらどうなるん?」

私を含め驚いたみんなが口々に、

「うそ?」

「うそちゃう?」

「うそやろ!ないない」

と、どよめく声が教室中に響いていた。

「お母さん達が川鉄がなくならんように署名活動するらしいよ。でもなくなる可能性は高いみたい」

と、ユキが言った。

私達が住んでいる町は超がつくほどの田舎である。20キロほど離れた街に出るまで、長年川上鉄道が人々の足となっていた。が、田舎だから車を所有している家が多く、廃線になってもそれほど生活に変わりはない家も多いだろう。学生の私達が友達同士で街に買い物に行くために川鉄を利用するので、私達にとっては廃線が決まれば大打撃なのだ。


 その日、急いで家に帰った私は、早速母に聞いてみた。

「お母さん、川鉄廃線の話知ってる?」

「春菜おかえり。情報早いな。お母さんも今日聞いてびっくりしてな。なくならんように署名しといた」

ユキが言っていたことは本当だった。お母さんは困った顔をしていた。なぜなら、うちはお母さんが車の免許を持っていないから。目が悪く、車の免許が取れない。唯一街に出るための交通手段がなくなると私達家族はどうなるんだろう…しばらくの間、学校でも家でもその話でもちきりだった。


二カ月後、廃線反対に多くの人の署名が集まったが状況は変わらず、正式に川上鉄道廃線が決まり地元住民への説明会が行われた。


「ただいまー」

「お母さん説明会!説明会どうやったん?」

私は説明会に出席していたお母さんに早く話を聞きたくて、2階から急いで階段を下りお母さんに詰め寄るように向かっていった。

「もうビックリするやん。春菜、ユキちゃんとこのお父さんみたいになってるやん」

「どういうこと?」

「ユキちゃんのお父さん、すごい勢いで川鉄職員に詰め寄っていったから。まぁそれはいいわ。安心しい。路線バスが新しくできるんやって」

「路線バス?」

「そう。廃線になっても路線バスができるから街までバスで行けるよ。心配なさそう」

「え、そうなん?よかったわ!私いっぱい考えたわ。タクシーお金かかるし、私がバイクか車の免許取るまで自転車使うとか、お母さんは段々年老いてくるのに自転車で長距離大丈夫かなとか…」

「フフフフ」

お母さんが笑った。

「春菜、お母さんの心配してくれてたん?ありがとう」

お母さんは長年住み慣れたこの町で、昔から地元住民に愛されてきた川鉄がなくなるって聞いてすごく心配しただろうに。車の免許取れなくて不便でごめん、と私に謝っていた時もあった。私は川鉄大好きやから不便だと思ってなかったよ。廃線は寂しいけど路線バスができるのは、それはそれで楽しみやし私達地元住民のことを考えてくれたんやから。小さい頃からお母さんと乗って、中学生になった今は友達と遊びに出かける思い出が詰まった川鉄。感謝しないとね、今までありがとう。私は心の底から安心した。


 翌日、学校へ行くと、ユキは大慌てで教室に入ってきた。そして興奮しながら言った。

「大ニュースよ!川鉄はなくなるけど、路線バスが新しくできるんやって!」

すると、みんな口々に、

「知ってるし」

「昨日説明会あったやん」

「オカンから聞いたわ」

と言った。さらに野口君が、

「そういえばユキのオトン、説明会始まってすぐ、娘ら友達とよく川鉄乗って出かけるけど、これからどうしてくれんねんって職員に詰め寄ったんやって?」

と言った。ユキは慌てながら、

「いや…それは恥ずかしかったわ…ちゃんと人の話は最後まで聞かなあかんよね」

と笑いながら言った。ユキのいち早く発信したい性格はお父さん譲りなのかもしれない。

「みんなで川鉄のラストラン見に行こうな」

とクラスのみんなで約束した。


 新たなスタートが始まる。今度は路線バスとどんな出会いが待っているだろう。


お読みいただきありがとうございました。私が以前住んでた町で似たようなことがあり、思い返しながら書いてみました。

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