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戦争なんて、お父様一体どういうことですか! …実は誤解です

作者: 翠華

初投稿なため、誤字脱字や文章のねじれ等ありましたら、コメントから優しく教えて頂けると嬉しいです。


(財務省の長たるお父様はいったい何を考えているのかしら…)


ソフィは足早に財務省の長たる父がいる執務室に向かっていた。今日、学校で教わったことの一つに父が関わっていたからだ。


ソフィは四方を海で囲まれた島国で生まれた。数百年前までは王制を敷かれていた国だが、大陸にある国々との戦争に負け、ソフィが生まれたころには民主主義国となっていた。王族は、国や国民の象徴であるが国を動かす力はなく、主権を持つのは国民であるということが憲法に定められている国だ。

戦争では多くの国民が血を流し、命を失っていった。その事実を二度と繰り返さないためにも「不戦の誓い」を意味する憲法が生まれている。


(それなのに…)


今日の授業で先生が言われていた、防衛費が来年度には1兆円も増えてしまうという事実。歴史を学び、多くの戦争経験者から実体験を学んだソフィには理解できなかった。なぜ、「不戦の誓い」を破っている様に見えてしまうことを行うのか。なぜ、多くの死者を出した戦争を繰り返そうとするのか。

父は国政に関わる財務省の長を務めている。国の政治に関わっている以上、守秘義務があり防衛費の増加の全ての意味を教えてくれないかもしれない。答えてくれないかもしれない。しかし、それでも父に問い詰めたかったのだ。再び、この国に戦争を招くつもりですか、と。


「失礼します、お父様。

少しお時間をいただきたいのですが、よろしいでしょうか」


「ソフィ、珍しいね。この時間に来るのは。

 ちょうど休憩時間なんだ。どうしたんだい?」


入室許可を取り執務室に入ると、父のアルフィーが部下の官僚と一緒に少し驚いた表情で私を見ていた。驚くのは当然だと思う。私は普段、父が仕事をしている時は邪魔にならないように執務室に訪れないからだ。


(休憩中とはいえ、ここは執務室。感情的になってはダメね)


「本日の講義で疑問に思ったことがありまして。

お父様が関わられている財政についてです」


「財政について、か。何を疑問に感じたのかな?」


「予算案についてです。お父様方もお忙しいでしょうし、失礼ですが単刀直入にお聞きします。なぜ防衛費が1兆円も増えているのですか?」


「1兆円も、か…

 質問に質問を返すのは、好きではないけれど、ソフィに一つ聞きたい。

 ソフィは、予算案の全体を知っているのかな?」


「いえ、存じておりません。

 講義で先生から防衛費の増加について教えて頂いたのです。

 先生は、懸念しておられました。政府は戦争を起こすつもりではないか、と」


戦争、という言葉に反応したのは父の部下たちだった。

しかし、なぜ父は予算案の全体を質問されたのだろうか?


「そうだね。防衛費の増加だけを聞くと、戦争を疑うのも無理がない。

 1兆円という決して少なくない額だしね」


父はどこか納得した雰囲気で、小さくうなずきながら私に答えられた。


「けどね、国の財務、財政という立場で見れば1兆円という金額は大きすぎるものではないんだよ。」


「どういう意味でしょうか?大きい金額ではないだなんて…」


「アルフィー様、私からお嬢様にお話ししてもよろしいでしょうか?」


ソフィの質問に対して答えようとしたのは、父の部下の一人だ。

父は部下の言葉にうなずき、説明するように促した。


「お嬢様、先ほどのアルフィー様のご質問は覚えておられますか。

 予算案の全体についてです。

 まず、我が国の今年度の予算案の総額は107兆円を超えています」

(107兆円を超えている…⁉そんなにも多額なの!)


ソフィは部下の話を聞きながら驚いていた。ソフィが普段扱う額はせいぜい数千円、高くても数万円だ。そもそも桁が違う。


その後も父の部下は、予算案について公式発表されている程度で教えてくれた。

総額107兆円以上の予算の内訳は、約33%が社会保障関係費、約22%が国債費、約15%が地方交付税交付金であって、防衛費はわずか5%だということ。防衛費と同じくらいの金額を一昨年から流行しているウイルス対策費に充てていることも教えてくれた。


わずか5%という言葉、そして20%以上もが借金返済のために充てられている事実に、ソフィは驚きが隠せなかった。国の借金についても聞きたかったが、今は防衛費についてだ。


「わずか5%とはどういうことですか。

他の費用に比べて少ないから、少し増やしても問題ないとおっしゃるのですか⁉」


「落ちつきなさいソフィ。決してそのようなことは思っていないよ。」


説明を聞いて感情的になった私を宥める様に、お父様は考えを話された。

どうやら、来年度の予算案で防衛費を増額することは政府内でも意見が分かれたらしい。


「もちろん、政府だって戦争を起こしたいわけではない。

国を守るための防衛費を“軍事費”と捉えてしまう人もいるしね。

なるべく誤解や不安を国民に与えたくはないし、与えるべきではないと思っている。

しかし、ソフィも知っている様に大陸では戦争が起きているし、私たちに近い国もミサイルの発射訓練や軍事演習を行っている。


今回の防衛費予算の増額は、世界各国へのアピールなんだよ。あなた達が攻めてきても防衛するための準備は行っていますよ、という意味のね」


(お父様が言われる意味は何となく理解できる…

 でも、先生の言われていることが間違っていると思えないわ)


「お父様が世界各国へのアピールと言われましたが、それは逆効果なのではないでしょうか。見ようによっては挑発行為に思われます。それに、戦争が起きたとしても軍事施設や設備を放棄することで、国際条約で守られ、攻撃されることはない、と先生は言われていましたわ。」


そう言うと、お父様も部下の方々も少し困った顔をされた。


(何か、変なことを言ってしまったかしら…)


「ソフィ、先生が言われた国際条約は間違えではない。しかしね、国際条約すらも機能しなくなる可能性があるのが“戦争”なのだよ。そもそも国際条約は条約を結んでいないと機能しない。そして、我が国は世界のすべての国と条約を結んでいないのだ」


国際条約が機能しない可能性、そんなことは考えたことがなかった。条約は国と国で結ぶものであって、個人間で結ばれるものと違い、早々に破られることはないはずだからだ。


(それに、条約を結んでいない国があるなんて…)


盲点だった。国交を結んでいない国があるくらいだ。条約を結んでいない国があっても不思議ではない。しかし、ここまで理解できてもソフィは完全に納得することができなかった。それが、顔に出ていたのだろうか。


「完全に納得できない、っていう顔だね。それでいいんだよソフィ。

 本来“財政”は国民が納得しなければ動かすことはできず、動かしても常に国民に監視されなければいけないことだ。ソフィの様に疑問に思うことは必要なことなんだよ。

 

そして、ソフィたちの代になったときにどうしたいか、どうすべきなのかを今考えて学びなさい。」


「分かりました。お父様、他の皆さんもお時間いただきありがとうございました。自分でも少し考えてみます。」


国を動かすお金を考えて決める。それは多くの視点から物事を見て決めなければならないのだろう。私が、政治家や官僚になるとは限らないけど、少しでも多くの視点を持てれる様に、今たくさんのことを学んで知識を身に着けよう。


執務室から帰る足は、行きと違って穏やかだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

今回はとある講義を受けて自分が感じたことや学んだことをアウトプットしようと思い書いています。皆さんもソフィの立場となって楽しみつつ考えてもらえたらうれしいです。

そして、みなさんの意見をコメントでいただけたら、非常に喜びます!

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