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すっごいね!

 「これで終わり?!」

 浦木部長は激昂し、スプーンを投げる。字だけ見ると何かを諦めた行為だがそんな事はなくスプーンの量はただ増え、声のボリュームは更に大きくなり、ヒステリックに頭をかきむしる。

「スプーン曲げなんて、あたし達幼稚園児じゃないのよ!」

 彼女は本棚の本を落とし、かけていた眼鏡を外し、踏みつけて割る。散らばるレンズ。スプーン。それらを蹴って少し空いたスペースに大の字に倒れ、

「こんなに人数かき集めて、揃いも揃って全員スプーン曲げ?! いやっ、もう、いや! 死にたい!」

 ドラマのラストシーンのように、彼女は叫んだ。細かくなったレンズが引っかかって、スカートから覗く黒いタイツが少し破れそうだ。僕は目線をどうにか反らせながら床に散らばったスプーン達を救助する。僕に続いて皆も目玉を泳がせながら、部長の壊したものを片付け始める。

「あにやってんだよぉ! あたしがいいっていうまで壁に手をついてろよぉ!」

「待ってください、部長、落ち着いて、まだ、何もやってない奴が一人います、」

 浦木部長の暴れ出した右肩を――笹南先輩が止める。浦木部長とは同じ地区出身の彼は彼女の扱いに慣れているのだろう。ぼんやりとそう思った僕を笹南先輩はずっと見ている。こんな美形が僕に何か興味があるのだろうか? とはいえ美しいものに見つめられるのは嫌な気はしないな。

「何をニヤニヤしてるんだ気持ち悪い気色悪い、お前だけだぞ何も超能力を披露してないのは!」

 言って、笹南先輩は僕にスプーンを渡す。銀色の中に美形が歪んで光っている――その光をペロペロペロペロペロペロペロと舐めてから、僕はいう。


「バレちゃ仕方ない、当たり前だ、もちろんそうだ、僕は無能だよ」


 口元から涎が垂れて床に落ちピチャンと鳴ったので、皆の沈黙がよく響いた。




超能力(すごいね!)


「もう一度言うわね。あたしの名前は浦木累。覚醒部の部長よ。」

「だから知ってますって。放課後、よくお一人で宣伝活動してますもんね。僕は型無創、帰宅部、二年です。まあアレがあってから皆一年寝てたから学年ってもう、うやむやですけどね」

「本当はキミのことは無視して早く帰りたいんだけど、そういえば無能の子ってあんま喋ったことなかったから知識欲と好奇心のために相手するんだけど、無能ってどんな感じなの」

「よくぞ訊いてくれました。もちろんアレ以前とほとんど同じなんですけど、なんとなくずっと頭がボヤっとして、ずっと寝てるみたいな気持ちです。もしかしてまだ僕寝てるんですか? あと、覚醒者は覚醒者のことが分かるっぽいけど、僕は感じ取れないんです」

「なるほどねえ。だから、あたしのパーティ作りに潜り込んだわけね……」

「パーティ作り」

「おっとおっと口が滑ってしまったわ。ここまできいてしまったからにはキミ、生きて帰れないわよ」

 浦木部長がたくさん喋りたそうなので、僕は椅子に座り直す。クッションやらの柔らかいものは無さそうなので、奥にある社長が座るみたいな回る椅子(部長用のものかも)に座らせてもらう。

「RPGの世界をあたしはこよなく愛しているの。こんな世界になったから、夢だったリアルパーティをつくるのが、あたしの命の理由なのよ」

「つまり部長はRPGオタクということですか?」

「オタクじゃあないわ、命の理由よ、つまり……」

「ぼ、僕もです」

 長いと思っていた話を僕は遮る。何を言うか、分かるからだ。なぜならば、同じだから。

「僕も同じです。命の、理由だ!」

「え? もしかして型無くんもあたしと同じなの?」

「ええ、ええ! だから、覚醒者をたくさん見て、たくさん力を解放してもらいたいんです! それをすぐそばで、みたい!」

「嬉しい嬉しい!握手しましょう! RPG、あなたの好きなのね!」

「いやRPGは好きじゃないです」

「……」





 そのあと何度か浦木部長の地雷ワードを踏み、口論となり右ストレートを美味しくいただいて型無クンは気絶してたんだよと笹南先輩に保健室で話をきいた。

 ぷっくり腫れた頬を笹南先輩はヒーリング(治癒)してくれる。スプーン曲げから一歩進んだ()()()だ。

「型無くん、さっきの話、本気なの?」

「あ、説教かも。ごめんなさい。浦木部長が能力覚醒者を集めているときいて、是非見たい! 手っ取り早い! と思ってもぐりこんだんですよぉ」

「冷やかすつもりなら、ごめんだけどやめてね。あいつは、まあ本気みたいだから付き合ってやりたいんだ」

「ヒーリングの能力に煮え切らない物言いがギャップがあっていいですけど、ちょっとキャラが弱いかなあ……強いて言うならグリーンって感じだけど」

 笹南先輩の右手をベロンと舐める。さわやかな酸味がツンと鼻腔を刺す。青空の下草原を駆け抜けて雲の影を追う夏の一日が脳裏に浮かぶ。

「やめろ!」

 笹南先輩の張り手が飛んで、また気絶することになった。ブラックアウト。







 夢を見る。夢はいつも同じ、ある記憶の断片。一年前のあの光で始まる。そう、あの突然地球に落ちてきた光。


 一年前。一九九九、七の月。我等の愛する学園明羅愛学校は、去年の大地震で全壊した。

 授業中に全てが壊れたあの日を、あの場にいた者は生涯忘れないだろう。僕もその一人だ。階段が窓が黒板が、美しい校庭が中庭の噴水が、煌びやかな装飾が、歴代学園長の石像が―――。破壊。破壊。破壊。音を立てて、いや、その音さえ届く前に。破壊破壊。破壊も破壊、暴力と重力の芸術。地獄絵図とも表現する人もいるだろう、しかし僕自身は天国のように美しいと、感じた。実際に()()()をみたら、誰でも胸を打たれるだろう。

 そう、あの光。あの光だ。新聞や報道機関は大地震と表現し続けているが、実際のところあれは隕石だった。宇宙より飛来した物資が学校に直撃したんだ。その物質は今は跡形もなく消えて、地球には無い物資がたしかな落ちてきたことを証明するものは無くなったけど――僕は覚えている。そして、あの日あの光(隕石)をみたこの学園の人間に――――だんだん、ゆっくりと、変化が起こっていることに皆が気づき始めた。

 超能力だ。光を見た人間に、超能力が目覚め始めている。

 お約束、定番のスプーンを曲げることから始まって、物を浮かせたり飛ばしたり出来るようになっていくのが大半だが。ある一部、覚醒者の呼ばれるその一部の生徒はゾッとするような力が―――目覚め始めている。

 僕はそんな人達を、そんな覚醒者(すごいひと!)を、――――()()()()()()




(あっついね!)



「楓にきいたけど、型無くんって覚醒者の力をいっぱい見たいんだって?」

 楓とは笹南先輩のことだろう。僕は頷く。浦木部長は放課後の部室で何やら分厚い本を片手に僕を椅子に縛りつけていた。

「型無くんってニ年生なの?」

「そうですけど」

「こんな変な奴いたら覚えてそうだけどなあ。」


 

 笹南楓。



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