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6 おじいさんの話


「おじゃましまーす」


 あたしと小夜ちゃんは玄関に入るとぴしゃんと引き戸を閉め、知らない人の家に上がった。小夜ちゃんがきちんと靴を揃えているのを見て慌てて真似をする。


「こっちだ」


 玄関からまっすぐ伸びる、使い込まれて飴色になった、ぴかぴかな廊下の向こう、その右側の部屋からおじいさんが顔を出して手招きするのでそちらへ向かう。


「お客さんって誰なんですか?」


 その部屋からだろう、上品そうな女の人の声がした。声の主らしい丸顔のおばあさんが部屋から出て来た。あたしたちを見て目を丸くする。


「あらまあ!」

「こんにちはー」

「おじゃまします」


 あたしたちが、ホントすみません、という感じで頭を下げるとおばあさんはにっこり笑った。


「こんな可愛いお客さんだなんて。さあさ、こちらへどうぞ」


 おばあさんは手のひらであたしたちを部屋へ導いた。可愛いだなんてそんな正直な。あたしたちはぺこぺこと頭を下げながら部屋へ入った。


「おー、今エアコン入れるから。楽にしなさい」


 おじいさんは大きな掃き出し窓をちょうど閉めたようだった。エアコンなしで過ごしていたのだが、汗をかいているあたしたちのために冷房を入れてくれるというのだ。見かけによらずなんと優しい人だろう。怖いなんて思ってごめんなさい!

 部屋は八畳くらいで、真ん中に長方形の大きな座卓がある。隅にテレビがあり、窓際に扇風機、廊下側の壁にカラーボックスが置かれていた。よく片付いた部屋だった。

 座卓の長い辺に厚手の座布団がふたつ置いてあった。あたしたちのためにだろう。ありがたい。正座はあまり得意じゃないのだ。


「ばあさん! なにか冷たいものを頼むよ!」


 おじいさんが座卓の短辺側に座りながら大声で言うと、


「わかってますよ」


 と、どこか遠くからおばあさんの声がした。たぶん台所だろう。


「オカマイナク」


 と一応言ってみた。


「なに突っ立ってんだ。さあ、座りなさい」


 おじいさんが座布団を手で指し示してあたしたちは座布団を借りた。おじいさんが座卓の上にあったリモコンを操作し、エアコンがピッと音を立てて吹き出し口のカバーがゆっくり開いていった。


「それで、なにが聞きたいんだ?」


 おじいさんが言って、あたしは慌ててバックパックから新品のノートと筆入れを取り出した。小夜ちゃんが、


「そこに新しく出来たショッピングモールなんですけど、以前はなにがあったかご存じですか?」


 と言うと、おじいさんは、


「なんだ、そんなことか」


 と、なんだかがっかりした顔になった。


「あ、いえ! これだけじゃなくって他にもいろいろ、ええ!」


 小夜ちゃんは慌てて言った。


「あらあら、いったいなんのお勉強?」


 おばあさんがお盆を持って部屋に入って来た。グラスに入っているのは麦茶だろうか。


「なんだか社会の宿題らしいぞ」


 そんなことは言ってない。

 おばあさんは冷たいグラスをそれぞれの前に置く。グラスの表面が細かな水滴でうっすらと曇っていた。


「ありがとうございます」


 おばあさんは、座卓を回ってあたしたちの向かいに座った。


「そこはただの竹やぶだったよ。なーんもありゃせん」


 おばあさんがはてな顔をしたので説明すると、にっこり笑って頷いた。


「その中になにか変わったものはありませんでしたか?」


 小夜ちゃんが言った。


「えー? なんだ、そりゃ?」


 それはこっちが知りたいのだ。


「な、なにかそんな話を聞いたんですよねー」


 あたしはなにも書いてないノートをぱらぱらとめくり、どこかで聞いたような振りをした。


「おじいさん、あれじゃないですか?」

「なんだ、あれって?」

「ほら、おやしろみたいなものがあったじゃないですか」


 お、なんだかそれっぽいぞ。


「あー、あれかぁ」

「なんですか、お社って?」


 小夜ちゃんが身を乗り出した。

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