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3 桃ちゃん


「問題はあそこに前なにがあったかだよ」


 昼休みに机をくっつけて、小夜ちゃんとお弁当を食べながらあたしは言った。

 ゆうべはなんとか家に戻り、パパママにバレずに部屋に戻るとそのままベッドに潜り込んで、布団をかぶった。首なし武者が頭の中でのたりのたりとうろついてなかなか眠れず、ようやくうとうとしたと思ったら目覚ましが鳴った。おかげで授業中に頭が何度もかくんと落ちた。小夜ちゃんも小さなあくびを繰り返している。寝不足はお肌の敵なのに!


「だからわたしが言ったじゃない」


 小夜ちゃんが仏様のような半眼で、お箸を口元に運びながら言った。


「それはもう何度も謝ったでしょ」


 実は謝ってないのだが。


「そうだっけ? まぁいいけど、それを調べてどうするの?」

「そりゃあ――」


 と言ったまま次の言葉が出てこない。どうするかは考えていなかった。


「――成仏してもらうとか?」


 と適当なことを言ってみる。


「なんの話ー?」


 机をがたがた言わせながらくっつけてきたのはももちゃんだ。非常な情報通、ひらたく言えば噂好きなのだが割と仲良しで、よくお昼を一緒に食べる。いつもじゃないのは桃ちゃんが情報収集する必要があるときは、そっちに取材に行くからだ。今日は特にネタになるものは他にないらしい。


「んー」


 あたしと小夜ちゃんは顔を見合わせた。桃ちゃんにしゃべっていいものだろうか? 噂はすんごい距離を走るという。人間拡声器の異名をとる桃ちゃんに話せば、あっという間に広がってしまうだろう。しかし、乙女の口を塞ぐのは強靱な意思をもってしても不可能なのだった。


「またまたぁ!」


 話を聞き終えると、桃ちゃんは体を引いて笑った。もちろん桃ちゃんは首なし武者のことは知っていたのだが、信じているかは別だった。まぁ普通はそうだよね。あたしだって自分で見るまでは信じなかったし、今も夢じゃなかったかと思うほどだ。


「ホントだって!」


 別に信じて貰えなかったら他の人が怖い思いをしなくて済むのだから好都合なのだが、嘘つき呼ばわりされたことに口が勝手に開いてしまった。脊髄反射でしゃべる癖は直したい。


「あ、別に信じなくていいよ」


 思い直して言ったが、


「ちょっとホントなの? やるねえ、キミたち!」


 却って信じてしまったかもしれない。ままならぬものだ。


「それでさ、あのショッピングモールが建つ前はなにがあったのか、桃ちゃん、知ってる?」


 小夜ちゃんが言った。この情報通ならなにか知っているかもと、あたしは身を乗り出す。


「んー、わかんないなぁ」


 あたしと小夜ちゃんは、がっくりと肩を落とした。


「まぁわかったところでどうしようもないし、いっか」

「あ、それより桃ちゃん、幽霊を見たのがわたしたちって言わないでよ」


 小夜ちゃんが、ぐいっと桃ちゃんに顔を近づけた。


「わかってるよぅ」


 桃ちゃんがにやにやしながら言った。ホントかどうだか怪しいもんだ。

 あたしたちが、じっと桃ちゃんの顔を見つめると、


「やだなぁ、ホントだって。そんなにわたしって信用ない?」


 あたしと小夜ちゃんはこくんと頷いた。




 桃ちゃんを疑って悪かったと思う。彼女はきちんと約束を守った。なぜわかったかと言うと、この高校の生徒が首なし武者の幽霊を実際に見た、という噂が今日のうちにもう爆発的に広がったのだが、それがあたしと小夜ちゃんだということは、一切語られないからだった。もし口止めしていなかったらと思うと、首なし武者より何倍も恐ろしかった。

 廊下を歩く度に聞こえる首なし武者の噂話に、あたしと小夜ちゃんは身をすくめた。幽霊を見たのはあたしたちだ、とバラしたい衝動にちょっと駆られたりしながら放課後を迎え、まっすぐ帰宅すると夕飯のあとはすぐ眠ってしまった。

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